長引くコロナ禍の中、消費者のニーズや行動が大きく変化してきています。企業側としては持続可能な経営のために、社会環境の変化に一刻も早く対応し、機敏に適応していくことが求められています。

そこで今回の記事ではビジネスパーソンに向けて、ニューノーマル時代に企業はどのように事業戦略を考えていけばよいかという疑問を、いくつかの企業事例から明らかにしていきます。

長期的な視点で社会のニーズを捉える「持続可能な開発目標」が必要

image1.png

[画像]SDGsの17の目標
画像出典:持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割|外務省 国際協力局 地球規模課題総括課

昨今、「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく耳にします。これは、「持続可能な開発目標」のことで、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指していこう、というものです。

「持続可能な(サステナブルな)開発」と言われると、「自然環境に配慮した企業活動」といったイメージを持つでしょうか?

実は、それだけではありません。「コーポレート・サステナビリティ(Corporate Sustainability)」という言葉もあります。

企業が事業活動を通じて環境・社会・経済に与える影響を考慮し、長期的な企業戦略を立てていく取り組みは、企業の社会的責任の一つなのです。

企業はこれまで、消費者のため、社会のために求められる製品やサービスを提供してきました。しかし、昨今のコロナ禍による消費者ニーズの急激な変化により、売上拡⼤や事業継続そのものに課題を抱える企業が急増しています。

そこで、企業活動をこれからも継続し、さらなる発展を遂げていくために必要となるのが、⻑期的な視点で社会のニーズを重視した経営と事業展開です。

経営リスクを回避しつつ、新たなビジネスチャンスを獲得するためには、消費者や社会のニーズを長期的な視点で捉えて戦略立案をする「持続可能な開発目標」「サステナブルな経営」が求められているのです。

なぜ、どんな会社にも「SDGs」の視点が必要なのか

「『SDGs』と言われても、自分の会社にどう当てはまるのかピンと来ない」と感じたなら、次のような具体例なメリットを想定して考えてみてください。

企業イメージの向上

「SDGs」への取組をアピールすることで、「この会社は信⽤できる」、「この会社で働いてみたい」という印象を与え、⼈材確保にもつながるなど、企業にとってプラスの効果をもたらす。

社会の課題への対応

企業活動を通じて、今の社会が必要としている課題解決に取り組むことで、経営リスクを回避できる。社会貢献や地域での信頼獲得にもつながる。

⽣存戦略になる

取引先のニーズの変化や新興国の台頭など、 企業の⽣存競争がますます激化する中、今後、「SDGs」への対応が取引条件になる可能性もある。企業の生存戦略として活⽤できる。

新たな事業機会の創出

新たな取り組みをきっかけに、地域との連携、新しい取引先や事業パートナーの獲得、新たな事業の創出など、今までになかったイノベーションやパートナーシップを⽣むことにつながる可能性。

コロナショックで常に不安定、流動的な社会が到来した今、企業の「レジリエンス(弾力、復元力、回復力、強靭さ、半脆弱性)」が重要になっています。

「自社が持っている強み」に関して改めて棚卸しを行い、コロナ禍での生活者・社会全体の課題解決に向けて自社はどんな尽力ができるか。そのように考えて、思い切って弾力性に富む取り組みに舵を切ることが、今後の生存戦略につながっていくと考えられます。

参考:ポストコロナの世界と日本 ─レジリエントで持続可能な社会に向けて|株式会社三菱総合研究所

SDGsとは?|外務省

すべての企業が持続的に発展するために- 持続可能な開発目標(S D G sエスディージーズ)活用ガイド -|環境省

【戦略】サステナビリティ(CSR)とは何か? ー定義とその意味ー|Sustinable Japan

レジリエンス|コトバンク

ニューノーマル時代における各社の事業戦略とは

ここからは、国内外の企業がニューノーマル時代において、どのような事業戦略を発表しているか、いくつかの事例を見ていきます。

日本マイクロソフト社:ニューノーマルにおいて顧客に対して果たすべき3つの役割

日本マイクロソフト社は、ニューノーマルにおいて同社が顧客に対して果たすべき役割に関して次のように発表しています。

・Remote Everything
・Automate Everywhere
・Simulate Anything
引用元:日本マイクロソフト幹部が説く「ニューノーマルにおけるDXの3つの基本要素」|ZDNeT Japan

1つ目の「Remote Everything」は、リモートで距離があることをデメリットにするのではなく、いかにメリットに、価値に変えることができるか。Microsoft社は顧客に対して、リモートを価値に変えるための支援に努めなければならない、と述べています。

また、2つ目の「Automate Everywhere」に関しては、「どのような業務も自動化を追求することによって、どのような危機や障害が起ころうとも業務を止めてはならない。業務を継続させるために、Microsoft社は全力で顧客を支援していく」としました。

そして3つ目の「Simulate Anything」については、「ニューノーマルにおいては何が正解か、誰にも分からない。今起きていることを的確に捉え、不確実な中でもさまざまなシミュレーションを行いながら、今後をできるだけ正確に見通していくことが求められる」と説明しています。

個人向けから事業用まで、ソフトウェア開発を幅広く手掛ける大手企業として、この発表内容からは、顧客の「持続可能な開発目標」「レジリエンス」を強く支援していく決意が読み取れます。

日本Microsoft社は「SDGs」「レジリエンス」を強く意識してニューノーマル時代の事業戦略を描いていると言えるでしょう。

参考:日本マイクロソフト幹部が説く「ニューノーマルにおけるDXの3つの基本要素」|ZDNeT Japan

トレンドマイクロ社:状況に合わせて変化し続ける会社

コンピューターのセキュリティソフトウェアの開発・販売で知られるトレンドマイクロ社は、2020年5月27日にオンラインで「2020年事業戦略発表会」を実施しました。

その中で、新型コロナウイルスが世界的な影響を及ぼす中で、同社は「状況に合わせて変化し続ける会社」であると発表しました。

新型コロナウイルス感染拡大が世界中で問題となる中、リモートワークを支援するインフラ、そしてワークフローのDX(デジタルトランスフォーメーション)、医療システムなどをサイバー攻撃から守る仕組みの開発など、機敏性と柔軟性が求められている、とも述べました。

自社の強み、つまりここでは「インフラをサイバー攻撃から守る仕組みの開発・提供」を改めて社会に向けてアピールをしました。

さらに、既に自社が持っている強みを社会環境に合わせて機敏に適応させ、今すぐ求められている社会問題解決に最適なソリューションとして柔軟にアップデートし、市場に投入する。そんな企業姿勢が伺えます。

トレンドマイクロ社のこの発表からも「持続可能な開発目標」「レジリエンス」というキーワードが浮かび上がってきます。

参考:トレンドマイクロのニューノーマル時代の事業戦略とは|Yahoo!ニュース

日本IBM社:ニューノーマルにおける企業の持続的成長 鍵は自立的人材の確保

日本IBM社では、ニューノーマルにおいては「世界がこれまでより速いスピードで変化し続けていく」という視点を重要視しています。

その中で、これからの企業と、そこで働くビジネスパーソンの持続的な成長に関して

会社と個人の“オトナ”な関係
引用元:ニューノーマルな世界における企業の持続的成長とは——鍵は自律的人材の確保|IBM

をキーワードに挙げています。

これは何を意味するかと言うと、ビジネスパーソン個人個人は、自分で目指すべき方向を決め、自分でキャリアを決める。そして、雇い入れる企業側は、今までのように手取り足取り指示するのではなく、従業員が理解できる期待値を示すことで自律を促す、ということです。

互いが互いを尊重し合い、自分で責任を持つ、そんな「互いに自立した」関係を維持することが、変化に強い組織につながると考える、と述べており、ビジネスパーソン個人個人が「自立」あるいは「自律」することが、企業の持続的成長の鍵だとしています。

これは、「企業が消費者や社会に製品・サービスをこれからどう提供していくか」という論点とは少し異なります。

しかし、「企業と、そこで働くビジネスパーソンの関係性をどう持続していくか」ということは、製品・サービスを持続的に市場に投入していくこと、社会環境の変化に強い組織として生き残っていくことに結びついていきます。

従来より速いスピードで変化し続ける社会環境に、どんな製品・サービスを投入できるか、という視点だけではなく、「企業と、そこで働く人の持続的な成長」という視点もまた、「SDGs」「レジリエンス」にとって重要なものだと言えます。

ニューノーマル時代の企業戦略のキーワードは「SDGs」「レジリエンス」

「SDGs(持続可能な開発目標)」は、ニューノーマル時代の企業戦略にとって需要なキーワードの一つになっていくでしょう。従来は「自然環境に配慮した企業活動」といった捉え方をされていた側面もあったかと思いますが、そういった視点だけではなく、「保健」「水・衛生」「成長・雇用」「イノベーション」「都市」といった社会課題解決も大テーマとして含まれており、まさに現在のコロナ禍における社会課題も包括したものだと言えます。

そして、急激な変化でスピードし続けるニューノーマル時代に適応できる弾力性、反脆弱性、つまり「レジリエンス」ももう一つの重要なキーワードです。
今後の事業戦略を描く際、また、企業の中での働き方を考える際、この「SDGs」「レジリエンス」という2大キーワードに注目してみましょう。

関連記事

これからマーケターはSDGsを意識するべき?企業が向き合い始めたSDGsとは?

これからマーケターはSDGsを意識するべき?企業が向き合い始めたSDGsとは?

企業が利益のみを追求するだけでなく、社会的責任を果たすCSR活動は企業が存続する上で重要になります。そんな中で、今注目が集まっているのがSDGs(エス・ディー・ジーズ)の考え方です。今回はSDGsの基礎情報やマーケターがSDGsと向き合うべき理由について紹介します。

「ニューノーマル」って何?ポストコロナのキーワード

「ニューノーマル」って何?ポストコロナのキーワード

新型コロナウイルスの流行により、世界中の景色が一変。今までのような生活、今までのようなビジネスが難しくなっています。そこで注目されているのが「ニューノーマル」という言葉。いったい、ニューノーマルとは何なのか、そしてポストコロナ時代のニューノーマルとは何なのか、考察します。