上司や先輩社員の立場として、部下や後輩に知識やスキルを身につけていって欲しいと考えている方は多いでしょう。

そのために社内研修や部下との面談を行っている企業も多いのではないでしょうか。
ですが、専門的な知識や難解な分野に対して、継続的に興味を持って取り組んでもらうのは至難の技です。課題を課したり、業務中に学習時間を取れるようにしたり、工夫している企業もいるでしょう。

今回は、学習意欲を引き出すために必要な要素をまとめたARCSモデルをご紹介します。
このモデルは実際に大学でも取り入れられ、学生の意欲を引き出す授業づくりに利用されています。

ARCSモデルは社内研修だけでなく、面談や普段の会話を通して部下に業務に関するスキルを学んでもらえるようなメッセージを伝えていくのにも役立てられるでしょう。
知識やスキルの習得には、本人のやる気を持って取り組めるかどうかが大切です。
上司としてただ教えるだけでなく、本人自身が「学ぼう」という気持ちになれるような環境づくりをしましょう。

ARCSモデルとは

ARCS(アークス)モデルとは学習意欲を引き出すための動機付けをモデル化したもので、アメリカの教育工学者ジョン・M・ケラーが提唱しました。

ARCSは学習意欲を引き出すための4つの要素*「Attention(注意喚起)」「Relevance(関連性)」「Confidence(自信)」「Satisfaction(満足)」*の頭文字をとっています。

学習者自身のやる気を引き出すという観念的な事柄に対してデータを元に分析を行ったことが特徴で、多くの教育機関で用いられています。

例えば、あなたが部下に業務に関わる書籍を読んで学んで欲しいと思った際にはどのような声をかけを行うでしょうか。
「読めば君のためになる」「面白いから読んでみて」など、様々なアプローチが想定できます。
しかし、どんな言葉が本人のやる気を引き出すかは自分にはわかりません。

その際にはARCSモデルを使うことで、多くの人にとってやる気を引き出せる声かけの方法を取ることができます。
自分の声かけが部下から見て意欲を引き出すものになっているののチェックにも利用できるでしょう。

Attention:注意喚起

学習者の気を引き、学習者の興味をそそるための要素を指します。
例えば、「研修のタイトルにキャッチーなワードを入れる」「新たな切り口で教える」といった工夫が挙げられます。

Relevance:関連性

学習者自身が*「これを学ぶことで自分の業務に役立てられる」*という実感を持たせる要素を指します。
関連性を感じることで、学習者は課題を受動的にこなすのではなく、主体的に関わっていくようになるでしょう。

例えば、Excelの使い方を学んで欲しいと部下に伝えようと考えた時には以下のような声かけが考えられます。

 「マクロを覚えれば、今は手で計算している作業をなくすことができるね」
 「ショートカットキーを使いこなせるようになれば、月末の会計処理が今より1時間は早く終えられるよ」
 「会計処理のプロになるにはExcelを使いこなせる必要があるよ」

このように学習者が普段触れている業務に関連付けて話したり、なんのために学習するのかを明示するように心がけましょう。

Confidence:自信

*「やればできる」*というような、学習の目標を達成できそうだと思わせる要素を指します。
ゴールを明確に示し、自分の努力次第で成功できるという自信を持たせることが目的です。

例えば、学習する内容に関連した資格取得を目標として設定したり、研修の内容に合わせて徐々に難易度の高い小問題を出したりといった工夫が上げられるでしょう。

Satisfaction:満足

学習を終えたことに対して満足感を覚える要素のことです。
公平な評価をしたり、褒めたりといった行動を取ることで、学習者自身に*「やってよかったなぁ」*と思われるようにしましょう。

企業においては、学習したレベルに合わせて職位を上げたり、給与に反映させたりといった工夫が挙げられます。また、そのような組織としての取り組み以外にも「君がこの知識を知ってたから助かったよ」と言った声かけも満足感につながるでしょう。

その際に大切なのは、えこひいきのような不公平な評価をしないことです。
部下が得た知識やスキルのレベルに合わせて、公平に評価を行うようにしましょう。

参考:
[熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した③ ARCSモデル(学習者の動機づけモデル)]
(http://blogs.itmedia.co.jp/tanakalajunko/2014/11/arcs.html)
[ARCS 動機づけモデルに基づくCourse Interest Survey 日本語版尺度の検討]
(http://kogolab.chillout.jp/paper/20130302_JSETken_kawakami.pdf)
ARCS(アークス)モデルとは│人材育成・社員教育用語集