PCとインターネットの普及は私たちの生活を大きく変えました。マーケティングの世界においても例外ではなく、現在のマーケティングは「インターネットリサーチ」抜きに考えられません。

費用も数十万円からと非常にリーズナブルに実施できるため、多くの企業が新たなプロジェクトの立ち上げや商品・サービス開発の際に活用しています。

◆Profile
長崎 貴裕(ながさき・たかひろ)

株式会社インテージ 執行役員 開発本部長
株式会社インテージホールディングス R&Dセンター長
株式会社IXT(イクスト) 代表取締役社長 

  
そこで本記事では、株式会社インテージの長崎貴裕が、これからインターネットリサーチの活用を考えている人たちに向け、この調査手法が普及した大きな理由、その多彩なメリットについて解説します。

Webに関わる業務をされている方であれば、インターネットが大衆化し始めた90年代後半から、スマートフォンが普及して、企業とユーザーのコミュニケーションの仕方(接点方法)が変わった現在まで、その変遷を今一度振り返ってみてはいかがでしょうか。新たな学びがきっとあるはずです。ぜひ一読ください。
  

インターネットリサーチの勃興 ~1990年代後半~2000年頃~

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インターネットマーケティングのあり方を大きく変えました。現在のマーケティング・リサーチは、ほぼ全てがインターネットを媒介として行われているといっても過言ではないでしょう。

この調査手法が生まれたのは「Windows95」が登場し、PCとインターネットが一般レベルに普及し始めた時期、つまり1997年頃と推測されます。

とはいえ、インターネットリサーチには当初、激しい批判が浴びせられました。その中でも多かったのが、「モニターがインターネットを使っている人間だけに偏っているのは、調査手法としておかしい」という声でした。当時はPCの普及率がわずか1桁台でしたので、当然といえば当然でしょう。

そのような次第で、当初のインターネットリサーチは、新しいものが好きな人やイノベーターの意見を聞くためには有用でしたが、あくまで特殊な調査手法の1つに過ぎませんでした。

私の所属している調査会社(株式会社インテージ)でも1997年頃にインターネットリサーチの導入を検討したことがありましたが、当時のPC普及率は9%台。モニターの皆さんにPCを無償で配ろうともしたのですが、10億円ほどかかるとわかって断念した思い出があります。

私の知る限りでは、2000年より前にインターネットリサーチを始めた会社は、ほとんど全てが失敗に終わっています。
  

かつては「訪問調査」「郵送調査」「電話調査」が主流

この当時(1990年代後半)のマーケティング・リサーチの主流は、「訪問調査」や「電話調査」、「郵送調査」などでした。

もっと古い話をすると、そもそもマーケティング・リサーチといえば、すなわち「訪問調査」のことを指しました。訪問調査とは、世論調査のように調査員がモニターの家を直接訪問して、アンケート用紙を読み上げ、「この中のどれに当てはまりますか?」などと訊くものです。

しかし、個人情報の保護の観点からマーケティングリサーチ目的の住民基本台帳の閲覧が制限されるなど、社会的な環境の変化により、こうした調査は徐々に困難となりました。

そこで、調査手法の主流は電話や郵送にシフトしていき、2000年頃には「電話調査」が最も盛んに行われていました。

ところが、今度はいわゆる“オレオレ詐欺”の被害が全国に広がることで、電話調査にも問題が生じることとなります。リサーチでは当然ながらモニターの年齢や家族構成、趣味趣向などを根掘り葉掘り訊くわけですが、電話による詐欺に警戒する人が増えたことで、こうしたことも難しくなったのです。

社会環境の変化からこれらの調査が難しくなる中、「インターネットリサーチ」はいわばその代替手段として、順調に伸長することとなりました。
  

圧倒的な“速さ”と“安さ”で急成長……当初は批判も

インターネットリサーチ」は2000年以降、生活者全体の意見を収集する調査として、あっという間に一般化し、現在では国内における市場調査の約半数を占めるに至っています。

この調査手法がこれほど急速に躍進した理由は、インターネットとPCの普及に加えて、圧倒的なスピードと価格の安さにあると考えられます。

例えば、訪問調査でモニター1,000人からデータを取ろうとすると、数千万円は軽くかかります。が、同じ規模の調査をインターネットで行うと、およそ数十分の一の金額で済みます。また、インターネットの方が質問数も多く設定できますし、加えて訪問調査では結果が出るまでに通常2~3ヵ月かかっていたのが、インターネットは早ければ翌日にはわかります。

このような強みからインターネットリサーチは急速に広がっていくわけですが、前述のように当初は不信感を持つ企業も多く見られました。

その中には、インターネットリサーチの利用に「郵送とインターネットで同じ調査を実施し、両方を比較して変な結果が出なければ」という条件を付けるところもありました。調査手法の転換期には様々な問題が発生します。

しかし、こうした不信感や批判は徐々に鎮静化していきます。これだけスピードやコストに差がある以上、インターネットリサーチが主流となるのは必然だったと言えるでしょう。