「できない言い訳を聞いてたら絶対に新しいものなんて形にできない」セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長・阪根氏にインタビュー
世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。
しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。
ブレークスルー = ビジネスモデル+プロダクト+ 秘伝のレシピ
ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。そこで本連載では、様々な起業家が持つ秘伝のレシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。
第3回目は、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社(以下、セブンドリーマーズ)の代表取締役社長 阪根信一 氏に話をうかがいました。
読者の皆さんが、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
目次
1. 序文 - セブンドリーマーズとは -
2. 秘伝レシピ1:大風呂敷を広げてから、それを実現する方法を逆算せよ
3. 秘伝レシピ2:外堀を埋めて、エンジニアやチームメンバーの火事場の底力を引き出せ
4. 秘伝レシピ3:日本の宝であるバブル世代の技術者を最大活用せよ
5. 秘伝レシピ4:大企業とのコラボ/パートナーシップでは、リーダーシップを発揮せよ
6. まとめ
2015年10月、CEATECの会場で受けた衝撃が忘れられない ―
2015年10月に千葉県の幕張メッセで開催されたIT・エレクトロニクス関連の総合展示会「CEATEC JAPAN 2015」で、数多くの出展者がいる中、圧倒的に話題になったのが、今回取材させていただいた"セブンドリーマーズ"でした。
従来、衣服類には無数の形状があるため、柔らかいので従来のロボット技術では対処することができなかったことを、阪根社長率いるセブンドリーマーズは、技術的に超難易度の高い自動洗濯物折りたたみ機 ”ランドロイド” で実現させ、多くの来場者の目を、心を釘付けにしました。
2017年はいよいよ一般販売・量産まで持っていくことに成功。
着想開始から10年以上が経過し、技術的なブレークスルーを幾度も達成してきたセブンドリーマーズを牽引する阪根社長に話をうかがいました。
阪根 信一 氏 プロフィール
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 代表取締役社長
理学博士。1999年、アメリカ・デラウエア大学 化学・生物化学科 博士課程修了(Ph.D.)、Glenn Skinner Award 学部最優秀賞受賞。
卒業後は株式会社I.S.T取締役、CEOを経て、2008年、スーパーレジン工業株式会社社長に就任。2010年、株式会社I.S.TのCEOを退任し、2011年、seven dreamers laboratories, inc. President & CEOに就任、2014年より現職。
田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。
田所(インタビュアー):
様々なメディアに取り上げられてましたし、先日の発表会も反響がすごかったみたいですね。
阪根氏(セブンドリーマーズ 代表取締役社長):
おかげさまで、多くのメディアの方にも来場いただき、報道していただきました。何しろ、早速お問い合わせをいただくなど、その反響を体感しているところです。
田所:
2015年のCEATECを皮切りに、世界中のメディアで取り上げられていますが、実際に、開発には10年以上の時間を要したとうかがっています。
阪根氏:
そうですね。とにかく、今まで世の中に無いものを作り上げたいという想いで企画を練っていました。熟考しては、ひらめいたアイデアがライセンス上、先に取得している人がいないかを調べました。ただ、そのほとんどが、すでに特許を取得されていて、なかなかプロジェクトを走らせることができずにいました。
田所:
ランドロイドのアイデアは実は家族のアイデアが形になったと耳にしましたが、本当でしょうか。
阪根氏:
実はそうなんです。普段の日常生活の中で、これまでにない発明・開発をしたいと考えていたのですが、社員にきいてもなかなかアイデアがうかばず、ふとした時に「日常生活をよく知る家族に聞いてみよう」と思い、質問した際に出てきたヒントの1つが "洗濯物を自動で畳んでくれるものがあれば"というものでした。
田所:
ただ、実際にロボットの専門家などに話を聞くと、柔らかい洗濯物を掴むという技術がとんでもなくすごいことだとうかがいました。そもそも、着想を始めた2005年の頃、商品化できるという自信はあったのですか?
阪根氏:
今から考えると初期の頃のロジックは恥ずかしくて口にできないようなものでした。
「よく考えてごらん。ここに洗濯物があります。人間の僕が畳むとすると、目で見てなんの衣類か認識して、つまんで、持ち替えて形状を見ながらどっち向いてるかを脳で考えて、認識して、それに基づいて手が動きますよね。TシャツならTシャツ、ズボンならズボン……というように畳んでいきます。ということは、画像認識技術と、人工知能と、ロボットアームが3つあれば、それを実現できるはずですよね」という実にシンプルな説明をしていました。
田所:
"画像認識技術" "人工知能" "ロボットアーム"があれば実現できるということでしたが、周りの方はどのような反応だったのでしょうか。
阪根氏:
周りの人間の反応は絵に描いたようなものでした。「確かにそうですが、そんな簡単ではないはず……」という反応でしたね(笑)
けれども僕はそれ対して、「簡単じゃないけど、理屈上できるはずだよね」と言い続けてました。
秘伝のレシピ1:大風呂敷を広げてから、それを実現する方法を逆算せよ
田所:
確かに阪根さんの言うとおり、理屈としては理解できますが、実現可能性のハードルはものすごく高いですよね。
阪根氏:
"ランドロイドを実現する"というプロジェクトは先に僕が大風呂敷を広げたところからスタートした形でした。
つまり、プロジェクトに携わるメンバーたちは、きっと、絶対できないと思って開発を始めるんですね。「(社長)そんなこと言うけれども……」と思いながら取り組んでくれたわけです。それからずっと、僕は「絶対にできる、絶対にできる。なぜならば、なぜならば」って言い続けました。ある意味、屁理屈ですけど、世の中にある技術的なハードルが高いものを指差して、”アレだってできてるだろ?じゃあできるはずだよね” みたいなことをずっと口にしていました。ゴールを明確にして、できると信じさせるために。
田所:
2005年に大風呂敷を広げてから10年間。ついに商品化を実現されたわけですね。
阪根氏:
ランドロイドを構成する技術は相当難しいから、5年はかかるなと思ってたんですよ。だから5年間、歯を食いしばって頑張ろうと思っていました。
2010年には、ある程度、技術的には完成している予定でしたし、当初から商品のイメージもできていました。だからこそ、家電メーカーやハウスメーカーと組むことも決定していました。技術が完成するまでは独自で何とか歯をくいしばって頑張り、ある程度できたら特許も出しつくして、完璧にもう優位な状況になってからアプローチしていこうと決めていました。でも、実際は想定以上に時間を要してしまい、さらに5年プラスして2015年になってしまいました。
秘伝のレシピ2:外堀を埋めて、エンジニアやチームメンバーの火事場の底力を引き出せ
田所:
誰もが不可能に思えるようなプロジェクトを可能にするような秘伝のレシピは何でしょうか。
阪根氏:
世の中にない新しいものを本当に生み出すって、本当に難しいです。
僕が正しいイメージ(知識)を付けて、ほかのメンバーに共有したとします。ただ、ほかのメンバーの頭には「やっぱりこの部分が難しくてちょっとできないです」「この機能は理解するのに時間かかりますよ」という言い訳をしてくるわけです。
ましてや、弊社(セブンドリーマーズ)のメンバーは大企業から来てる方々が今や多くなっちゃってるので、できない理由や言い訳をすることがものすごく上手なんです(笑)
田所:
でも、阪根さんはそれら言い訳を受け入れないんですね(笑)
阪根氏:
できない言い訳をイチイチ聞いてたら切がないですし、絶対に新しいものなんて完成しません(形にできません)。
そこで、その際、私がとっている行動があります。それは"製品化が近付いてることを前提"にはなりますが、世の中にバーンって発表してしまうことです。あらかじめ事前に「いつまでに●●します」と宣言してしまいます。すると、当然メディアの方々が記事を書いてくれますし、取材も入ってきます。それが告知につながるわけです。
田所:
なるほど、そこでも風呂敷を広げるんですね。
阪根氏:
チームメンバーの家族に「お父さんランドロイド、半年後に発売なんだって」みたいなこと言われたら、もう逃げられないじゃないですか。外堀戦略は効果覿面です。
田所:
阪根さんのやり方というのはAmazonの手法に似ていますね。Amazonはプロジェクトの1番最初にやることが、プレスリリース書くことなんです。そのリリースを社内にドーンって投下して、もう前を向くしかない状況を作るようです。
阪根氏:
同じ発想です。外堀を埋められると、人というのは驚くほど作業スピードが上がります。それがいわゆる火事場の底チカラ人であり、半端ないチカラです。それを宣言してしまうと、正直、できない言い訳なんか用意してる余裕がなくなります。
秘伝のレシピ3:日本の宝であるバブル世代の技術者を最大活用せよ
田所:
話は変わりますが、資金調達の後、多くのエンジニアを採用されているそうですね。
阪根氏:
60名のチームのうち約40名がエンジニアで、2015年のCEATEC JAPAN 2015で発表した後に入社したメンバーです。ほぼ全員が大手の家電メーカー出身で、早期退職制度に応募した50歳以上のおじさんたちになります。
田所:
1980~90年代に世界を席巻していた日本のメーカーにいた方々ですね!
阪根氏:
我々はベンチャー企業ですが、主要なエンジニアメンバーは年齢層が高いおっちゃんらです。バブルの時って、僕が高校生で、ソニーがピカピカに輝いていたような時代で、家電の世界基準は日本が決める、新しいものは全部、日本から生まれるみたいな時に購入したようなものです。
田所:
まさに、そうしたエンジニアは日本の宝で、定年が近いなんて言ってられませんね。
阪根氏:
非常に体力もあって元気ですし、めちゃくちゃ優秀な方々ばかりです。
秘伝のレシピ4:大企業とのコラボ/パートナーシップでは、顧客接点にこだわれ
田所:
総額で77億円資金調達されて、国内のベンチャー調達額としてはトップ3に入っています。出資しているのが、ベンチャーキャピタルだけではなく、大和ハウスやパナソニックなど事業会社がいるのが印象的です。
阪根氏:
大和ハウスさん、パナソニックさんからメンバーが弊社に何名か常駐していて、製品化に向けたアドバイスをいただいています。
ある程度、"耐久何年"というのを保証しなければならない家電製品ですし、量産スタートするまでには "評価体制" "耐久試験" において、経済産業省が定める法規をどう考慮すべきか、などという点において支援してもらっています。一見、外注を使ったほうが良い場合も正直あるのですが、パーツ選定の時に、世界規格がとおっているものがどうかを教えていただいています。
田所:
なるほど、スケールするために必要な知見を共有してもらっている感じですね。大手の事業会社とコラボをする際に、こだわっているポイントはどこですか?
阪根氏:
マーケティングサイドや顧客対応は全て当社がやってます。僕らも知見が豊富にあるわけではないんですけど、果敢に挑戦しています。
田所:
顧客と接することにこだわっているんですね。
阪根氏:
そうです。今年の3月にランドロイドカフェをオープンしました。個室に実機を置いて、ランドロイドを体験しながら食事ができるようにしました。
参考:
laundroid café(ランドロイド・カフェ)
田所:
こういう顧客接点を持つと様々なフィードバックがあるのではないですか?
阪根氏:
はい。顧客の要望としては、例えば3年後に新しいモデルが出た時に、下取りして欲しいとか、ハードウェアやソフトウェアがアップデートした時のサービスに対応して欲しいとか、消費者目線のコメントを頂けています。顧客の声を新しいプログラムに取り込んで、次の製品発表に反映していくということです。
まとめ
ランドロイドが構想されたのは2005年、今から10年以上も前です。当時は人工知能技術のブレークスルーやクラウドコンピューティングによるインフラコストの削減も実現されていません。技術的な前提条件が整う前に、"一家一台(B2C)のランドロイド" を着想をするのは、事業の採算性を考慮したら多くの人に無謀な挑戦に映ったはずです。
現在、セブンドリーマーズは、世の中にないモノ、人々の生活を豊かにするモノ、技術的なハードルが高いモノに果敢に挑戦するというミッションを掲げています。そして、そのミッションのもと、ブレークスルーを起こすためにメンバーの潜在能力を最大限に引き出す工夫や仕組みを作り、ランドロイドの商品化を実現させました。
阪根社長と話していると、”ゼロからイチを君たちは生み出すことができるか?”と起業家に問いているピーターティールの言葉を思い出します。
今年、ランドロイドが一般向けに発売される予定です。80~90年代に、日本メーカーは世界の家電業界を席巻しました。そのDNAを引き継ぐセブンドリーマーズのランドロイドが世界に衝撃を与える日がいよいよ現実になろうとしています。
企業プロフィール
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社
セブンドリーマーズは「Technology in Life」をキーワードとして、人々の生活をより豊かにする製品開発を業種業界に捕らわれず、世の中にないモノを創り出す技術集団です。50年の歴史と長年の宇宙開発で培った解析・開発技術で、カーボンゴルフシャフト、鼻腔挿入デバイス・ナステント等を製作している、新しいライフスタイルを切り拓くグローバルブランドとなります。世界初全自動衣類折りたたみ機「laundroid -ランドロイド-」を開発し、2017年5月に予約受付を開始。
HP:https://sevendreamers.com/
- マーケティング
- マーケティングとは、ビジネスの仕組みや手法を駆使し商品展開や販売戦略などを展開することによって、売上が成立する市場を作ることです。駆使する媒体や技術、仕組みや規則性などと組み合わせて「XXマーケティング」などと使います。たとえば、電話を使った「テレマーケティング」やインターネットを使った「ネットマーケティング」などがあります。また、専門的でマニアックな市場でビジネス展開をしていくことを「ニッチマーケティング」と呼びます。
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- デバイスとは「特定の機能を持つ道具」を表す語で、転じてパソコンを構成するさまざまな機器や装置、パーツを指すようになりました。基本的に、コンピューターの内部装置や周辺機器などは、すべて「デバイス」と呼ばれます。
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