マーケティング業務において、法律面の知識が求められる場面が増えています。しかし、詳細については理解が追いついていない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「企業のソーシャルメディア運用」について、法律の専門家の視点で押さえておくべきポイントを解説します。企業法務領域でリーガルサービスを提供している法律事務所ZeLo・外国法共同事業の長野友法弁護士に伺いました。

プロフィール

長野 友法弁護士
法律事務所ZeLo・外国法共同事業 弁護士(第一東京弁護士会所属)
2010年一橋大学法学部卒業。2012年一橋大学法科大学院修了。2014年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、花王株式会社入社。2021年法律事務所ZeLo・外国法共同事業参画。契約審査、自社基準策定等のガバナンス等を担当し、組織再編・紛争対応等にも従事。特に化粧品・メディア分野を多く担当。

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企業のソーシャルメディア運用では「禁止事項」を明確にする

ferret :
昨今、企業のソーシャルメディアが炎上するケースが散見されます。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを運用する上で、企業はどういった点に気をつけるべきでしょうか

長野弁護士:
ソーシャルアカウントには、企業の公式アカウントと、所属する従業員の個人アカウントがあり、両者に共通して言えるのは「企業が細かく管理することが難しい」ということです。

例えば、企業のホームページに情報を掲載する場合は、社内の厳格な確認プロセスに沿ってチェックを受けた上で公開されることが一般的です。一方で、公式アカウントの運用にはスピーディーな対応やレスポンスが求められるため、投稿内容を厳格に確認するルールの設定は向いていないのです。

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また、従業員の個人アカウントは、原則として従業員のプライバシーが尊重されるため、企業側が細かなルールや就業規則で明確なルールを決めることは難しいです。

そのため、企業としては「やってはいけない禁止事項をわかりやすく、明確にする」ことが重要になってくると考えています。「明確にする」ためには、具体例を追加するのも一つの方法です。

例えば、「著作権を侵害しない」というルールについて「他人のSNSのアカウントの写真を無断で使わない」などの具体例を示すことで、投稿する人のリテラシーに左右されることなく理解が得られます

著作権の他には

・薬機法に抵触するもの
・政治や宗教などのセンシティブな情報を含む投稿
・個人情報を含むような投稿
・誹謗中傷

などについても、禁止事項を明確にすることが企業・個人どちらのルール作りにあたっても非常に重要だと考えています。

気を付けたい投稿:所属企業の宣伝をする場合

ferret :
法律に違反してしまうような投稿以外で、ルールとして定めておいた方がよいことはありますか。

長野弁護士:
所属企業の宣伝をする」ことについても、ルールを定めておいた方がいいでしょう。

例えば、所属企業が販売している商品について、従業員の個人アカウントがその立場を表明せずに「これを使ってみたらとてもよかった!」という投稿をした場合、「ステルスマーケティングではないか」などと炎上することがあります。

個人アカウントで企業が関係する投稿をする際は、企業との関係性の明記や、投稿者の名前に社名を入れるなどの表記ルールを明確に決めておくと、従業員もソーシャルメディアを通じて企業を応援しやすくなるでしょう。

気を付けたい投稿:時事的な問題を取り上げる場合

ferret :
明確に禁止はできないけれども、気を付けるべきことはありますか。

長野弁護士:
非常に難しいのが、時事的な問題を取り上げる投稿だと思います。最近の例では、大手芸能プロダクションを退職された方が写真の上下を反転させて投稿したのを真似て、ある企業アカウントが画像を反転させて投稿したことがありました。それに対して「企業の公式アカウントの投稿としては不適切ではないか」という声が上がったのです。

投稿自体は、法的に問題もないですし、禁止すべき事項なのかは微妙な判断になるかと思います。こうした時事的な投稿をする際は、一担当者で判断するのではなく、社内でダブルチェックをするなど、複数の視点で確認できる体制を作っておくのがおすすめです。

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ferret :
ちなみに、個人のアカウントで、プロフィール欄に「これは個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません」などの注意が書かれてることがありますが、それ自体に何か効力はあるのでしょうか。

長野弁護士:
ほとんどのケースでは、法的に何か効力があるものではないでしょう。この注意書きによって、何かが解決するものではないと思います。