情報がまるで洪水のように日々溢れている今、人々が情報を見かけるのは一瞬の出来事であり、膨大な情報量の中で印象に残るような情報にすることは困難です。思わず目を止め、印象に残るような情報発信を行うためには、「コピーライティング」が必要です。

「コピーライティング」と聞くと、特別に才能がある人だけが身につけられる“ことばのスキル“という印象を受ける人もいるのではないでしょうか。

「コピーライティングの力は努力で身につけることができる」

自らのコピーライティングノウハウを体系化した「コピーライティングシステム」を、ブログ上で公開し、注目を集めた銭谷侑さんはこう語ります。銭谷さんは電通にコピーライターとして務めている時代に、様々な企業の広告キャンペーン、プロジェクトづくりに携わってきました。

「自分にはコピーの才能がなかった」−−そう語る銭谷さんが、試行錯誤しながら編み出したのが、コピーを発想するための考え方であるコピーライティングシステムです。今回は、「ことばのアイデア」をどう発想すればいいのか、銭谷さんに伺いました。
  

プロフィール

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銭谷侑。武蔵野美大中退、慶應大卒。元電通コピーライター。現在は、複数の企業に属してパラレルキャリアで働いたり、夫婦でデザインファーム「the Tandem」を経営中。ことばの技術を軸とした、商品&サービス開発を行っています。ブログメディア「圏外コピーライター」では、人生実験を通して、新しい働き方・生き方を発信しています。NHKカルチャーで『コピーライター脳、差し上げます。』を開催予定。

参考:
コピーライター脳、差し上げます。|NHKカルチャー  
  

まず人を変化させる「アイデア」を考えることから

電通時代、銭谷さんはプロモーション局にて2年勤務した後、クリエイティブ局に異動。「どのようにコピーを考えればいいのか」をひたすら考え続けた結果、コピーライティングの考え方を“発見“します。

銭谷:
コピーとは「人を動かすことばのアイデア」だと捉えています。その「ことば」を見る前と見た後で、その人の世界への見方が変わっているのがコピーです。コピーライターとは、人を動かすことばのアイデアのプロなんです。

どうしたら、人が「A」の状態から変化し、「B」の状態へと動かすことができるかを考え、その変化を生み出すためのアイデアを考えます。アイデアが生まれたら、それを言葉にしてみる。コピーを考えることから少し離れることで、発想が生まれやすい状態を作り出します。

銭谷:
コピーを書くことを意識し過ぎると、コピーが書けなくなるんです。例えば、「コンビニ前のポイ捨てを減らす」コピーを考えてみてくださいというお題があったとします。「店員も、地球も、悲しみます」「コンビニ前の汚れは、あなたの心の汚れです」といったコピーはありきたりです。コピーを書こうとするのではなく、ポイ捨てを減らす「アイデア」を考えると、頭を切り替えると、グッと発想がしやすくなるはずです。

  

コピーを誰でも考えられる「コピーライティング・システム」

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アイデアが発想できたとして、人を惹きつけるようなコピーにしなくてはいけません。銭谷さんも、コピーを生み出す際には苦労したそうです。

銭谷:
もともと、私はクリエイティブ畑の出身ではありませんでした。自分にはセンスがないと考え、才能あるコピーライターと戦うために、何か武器が必要でした。

銭谷さんが武器として身につけたのは、既存のコピーを分析、ストックし、法則を整理していくこと。そこから、コピーの発想を仕組み化した「コピーライティングシステム」を開発します。

参考:
あなたの脳にも移植できる「コピーライティングシステム」公開!|圏外コピーライター

銭谷:
どうすれば、自分の頭からは浮かばない表現を発想できるのかを考え、徹底的に過去の名作コピーをみて自分では思い付けないコピーを探し、記録していきました。名作コピーを1つひとつパターンわけし、法則化していきました。

銭谷さんはEvernoteを活用して、膨大な量の名作コピーを記録していき、タグにコピーの法則を記録していきました。「商品の説明をふざけて行う」「考えさせる、疑問を投げる」「商品の存在意義を言い当てる」など、様々なタグで整理していったそうです。

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※2014年当時のEvernoteのタグ

銭谷さん曰く、コピーとは「what to say」か「how to say」のどちらかにアイデアがあるそうです。タグは、「what to say」と「how to say」の2つにわけ、蓄積していきました。

「チョコをいっぱいもらうイケメンに、チョコをあげたところで愛は伝わるでしょうか」

銭谷さんが分析の例として挙げたのが、御菓子司 亀屋という和菓子屋のバレンタインのキャンペーンで使われたコピーです。

銭谷:
バレンタインと言えばチョコを渡すことが定番ですが、このコピーではチョコを渡すだけではほかの女の子と変わらないので「じゃあ、和菓子を渡すのはどう?」と提案しています。このコピーでは、その商品やサービスの競合を設定し、その欠点を「what to say」しています。

このコピーはEvernoteに、「競合・代替手段の欠点」というタグで保存されていました。このように過去の様々なコピーを分析し、タグ付けしていくことで、コピーを考える際に参考になる事例をすぐに引き出しやすくしました。すでに世の中に存在するコピーを見ていくことで、発想しやすくなりそうですが、コピーはどう分析するといいのでしょうか。

銭谷:
コピーには、発見、共感、提案のどれかの要素が入っています。まずはこの視点から既存のコピーを分類したり、自分で発想を膨らませると良いのではないかと思っています。

  

まとめ -「ことば」が大きなムーブメントを作ることもある -

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銭谷さんは、2015年に「バレンタインを“好き“について考える日に。」というコンセプトのもとで、写真家 青山裕企さん、日本セクシャルマイノリティ協会と共に「“好き“に変はない展」という展示会を開きました。

銭谷さんはコンセプトを設定し、クラウドファンディングを実施。開催費用を集めると同時に、ソーシャルメディアで多くの人の共感を集めました。多くの来場者が展示会で感じたことをコメントに残し、大きな話題となりました。

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この展示会を実施した結果、日本セクシャルマイノリティ協会が受ける寄付金は前年と比較して大きく伸びたそうです。「ことばのアイデア」が、事業や活動にとっても必要なことであることを証明した事例です。

「ことばのアイデア」は、単に情報を伝達するだけではなく、人々の行動を促し、大きなうねりを作り出すこともできます。企業の担当者の方々も、「ことば」を大切にしながら、伝えたいメッセージをブラッシュアップしてみてください。