「製品が主語」のプレゼンテーションは失敗する

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西村氏:
プレゼンテーションの講演というと、いかに資料を作り込むかとか、要点をまとめるスキルとか、「小手先のテクニック」が語られることが多いと思うのですが。澤さんの講演は、ご自身の経験が何千回とある中の「気づき」から展開されますよね。

澤氏:
そうですね。僕の場合は、自分自身の経験と、数多くの失敗事例を見てきたという経験があります。マイクロソフト社ってコーポレートイベントが年に4回くらいあって、全て数千人規模で開催されます。複数の部屋にわけてセッションを行うのですが、例えば2日間で180コマとか行われるわけです。全てのセッションは、オーディエンスの満足度などからスコア化されてランキングになるんです。トップからビリまですべて貼り出されます。

そこで、ランキング下位の人に注目すると共通点が見えてきます。「製品やテクノロジーが主語」でプレゼンテーションしているんですよね。
製品が主語だと自己アピールになってしまうんです。残念ながら点数は絶対によくならないんですよね。

オーディエンスが聞きたい話と真逆になりますから。なぜ彼らが上手くいかないのかを「言語化」すると、失敗しないプレゼンテーションをするには何をすればいいのかが見えてきます。

西村さんのおっしゃる通り、小手先のテクニックで取れるスコアは全体の20%くらい。残りの80%は、テーマ選定とかオーディエンスのプロファイリングとかそういったところで決まるんです。なので、ステージに上がる前に8割勝負が決まっています。

無茶振りな講演依頼でも「とりあえず受けてみる」ことで得られるインプットの重要性

アウトプットを先に行うことで多面的にインプットが得られる

西村氏:
オーディエンスに刺さるテーマや、彼らのプロファイリングが大切なんですね。実はプレゼンテーションは、マーケティングに近いのかもしれないですね。

澤氏:
そうですね。マーケティングというのは「コミュニケーション」そのものだったりします。マーケティングというと、僕の非常に親しい人たちの中に、ローソンエンターメディアの元社長である野林徳行さんという方がいるんですね。

いまFiNCという会社のCMO(マーケティング最高責任者)をやってる方なのですが、彼は出先で10分でも余裕があれば目の前に見える全てのコンビニに足を運ぶそうです。

陳列されている商品からレジの混雑具合までチェックしている。マーケティングは派手に広告を打ったりするイメージもありますが、本質的にはマーケットの需要がどこにあるのかを知らなければならない。

その点、プレゼンテーションもマーケティング的な要素を持っていると言えるでしょう。自分からアンテナを立ててインプットしていく。

本を読んだりしてインプットするんですが、僕は先にアウトプットするようにしているんです。*なにかアウトプットすると、多方面からフィードバックが返ってくる。*本は1種類の情報ですが、アウトプットを先にすることで、全然異なる視点から複数のフィードバックが得られるので学びが大きいんですね。そうすると質の高いインプットができると思います。

西村氏:
僕の持論なんですけれど「アウトプットとは、インプットの自動化である」と(講演や執筆などで)言っています。1人で頑張って読むとかじゃなくて、何かアウトプットしてそれに対するフィードバックで学ぶ。

また、「こういうことに興味があるんだね」と、人を紹介してもらえるなど、貴重なソースがアウトプットしただけで勝手にやってくるんです。澤さんは、ちなみにどのようなアウトプットをされているんですか?

澤氏:
そうですね。ありとあらゆることをやっているんですが、わりとTwitterとかFacebookとか、SNSを使うことがあります。これは、心がけていることなんですが、プレゼンテーションを頼まれた時、テーマが専門外であれ“あえて”受けちゃうんです。
それで、「やりますよ」と依頼を受けたあと、TwitterやFacebookで「このテーマで話するからなにか情報をちょうだい」とかつぶやくんです。

すると、その道に詳しい人間からフィードバックをいただいたり人を紹介してくれたりする。「(講演をするうちに)あなたがこのテーマで話すのに興味がある」とプロフェッショナル自ら教えに来てくれる。良い意味でお節介をしてくれる人が沢山いて、効率よくインプットができる。

無謀だと思われることもいるでしょう。「正しくない情報をプレゼンテーションすることになるのではないか?」という質問を受けることがあるのですが、そういうときは潔く誤ります。または、「僕はこう思う」と「自分を主語」にして言い切るようにしていて、そのかわり自分が全責任を取るんですけどね。

高齢者向けの市民講座で澤氏が得たもの

西村氏:
例えば、具体的にどんなオーダーがありましたか?

澤氏:
最も刺激的だなと感じた依頼が、中高年向けに新聞で集客した「ITをわかりやすく説明する市民講座」ですね。一番若くても60代、上は何歳かわからないくらい。(笑)その人たちに最新のテクノロジーについて話してくれという依頼でした。

そのときのテーマは「この方々が、お孫さんと電気屋さんに行ったときヒーローになる方法」という観点でプレゼンテーションしたら、かなり好評でした。そこで、面白かったのが、僕よりもITに詳しい人がいらっしゃったんです。それもまた質疑応答が楽しくて、僕自身のインプットになりました。

西村氏:
60代とか70代の方々にお話をされる際、「どんなことを伝えたら刺さるかな」と考えると思いますが、具体的にどのような準備をされたんですか?

澤氏:
先程ちらっと「プロファイリング」とお話しましたけど、これを丁寧に行いました。60代や70代の知り合いは僕にもいる。「高齢者」っていうざっくりとしたイメージではなくて、男女とかITに詳しいかどうかとか、色々なタイプを頭で思い浮かべます。

その一人一人にどんな話をするのかというストーリーを細かく作っていくわけです。それを足して割ったものが最終的なプレゼンテーションのコンテンツになります。偏ってしまうと、特定の人にしか響かなくなってしまうので、それぞれに対して相応の形でコンテンツ化することが大切です。

プロファイリングは、なるべく素早く行っています。プレゼンテーションの経験を積むほどに速く短時間で済むようになってきていますね。その代わり、脳内がずっとプレゼンテーション。人に対して何かを伝えるにはどうしたら良いのかを考えています。