「会社の預金残高が30万円になっても、実現したい未来がある」ー1.5億円を調達したPR Table創業者3名が語る真のPRとは
「PRって具体的に何をするの?」
この質問に答えられる方はどの程度いるでしょうか。「自社の認知を上げるための活動」「メディアに取り上げてもらうためにメディア関係者とコミュニケーションをとる」など色々思い浮かぶかもしれません。どれも大きくは間違っていませんが、上記の内容はPRの本質的な役割とは言えません。
PRは「Public Relations」の略で、そのまま訳すと「社会との関係性」となります。本来、PRとは「社会と良好な関係を構築するための活動」を指す言葉ですが、現在は「いかにメディアに取り上げられるか」「多くの人に知ってもらえるか」という認知拡大のための手段というイメージが強まっています。
認知が広がるのに越したことはありませんが、そもそもすべての企業が認知拡大に取り組む必要はあるのでしょうか。認知を拡大したその先を見据えている経営者はどれだけいるでしょうか。逆に、PR会社はクライアントにとって本当に意義のあるPR方法を提案できているでしょうか。
「本当の意味でのPRが行われていない」という問題を解決するために作られた「PR Table」という会社があります。昨日、DGインキュベーションはじめ計5社から約1億5千万円を調達したと発表した「PR Table」は、どのような未来を描いているのでしょうか。
今回は、PR Tableの創業メンバーである大堀航氏、大堀海氏、菅原弘暁氏の3名に、PR Tableを立ち上げた経緯から、彼らが考える「真のPR」について伺いました。
左から、菅原弘暁氏、大堀航氏、大堀海氏
「PRはメディアだけじゃなくて、他方面で関係性を構築すること」
ferret:大堀さんがPR業界にいこうと思われたきっかけはなんだったのでしょう?
大堀航氏:学生時代、たまたま矢島尚さんの「PR会社の時代」という本に出会って、PRっておもしろそうだなと思ったのが始まりでした。オズマPRに入って、実践と勉強を重ねていくうちに「PRってメディアだけじゃなくいろんなリレーションがある」ことに気づきました。*「すべてのステークホルダーと良好な関係を築くために存在するんだ」*と。
そこから真のPRを突き詰めたいと感じて、2013年にオズマPRを退職してゼロからスタートするためにレアジョブ(オンライン英会話のベンチャー企業)に入りました。まずは広報チームを立ち上げて、メディアリレーションズも構築しました。
会社の成り立ちや制度は、会社独自の思想が詰まってる「コンテンツ」になり得るんですよね。そういう部分を発信する場を作ろうとなって、オウンドメディアを開設し、社内外のステークホルダーに向けて会社の様子を発信していました。同時に、オズマPR時代の後輩だった菅原と、フリーランスでPR事業を行なっていた弟の海と一緒にPRのノウハウを発信するブログを立ち上げました。それがPR Tableの原型ですね。
レアジョブが上場して手応えを感じ、2014年に退職して「PR Table」を立ち上げました。立ち上げのタイミングで菅原と海にも声をかけて、3名で創業しました。
今のメディアリレーションズは畑を耕す仕事
菅原氏:僕は最初4ヶ月ぐらいは無給で働いてました。むしろ正式な社員でもなかったので、正確にはボランティアでしたね(笑)あとたまに給料止まりましたよね。不思議なもんで、新しい人が入ってくるたびに顧客からの未入金があったりして、役職陣の給料が何回か止まりました。
大堀航氏:立ち上げ当初は本当にお金がなくて、弟の海に生活費まで面倒見てもらっていました(笑)今回資金調達したお金が着金した時には、会社の通帳の貯金残高が30万円切ってました。本当にギリギリでしたね。
ferret:そんな状態になっても、続けようと思う原動力はどこにあったのでしょうか。
大堀航氏:会社員時代は、顧客にがっかりされることが多かったんですよね。でも、自分で選んだPR業界がイケてないとは、思われたくなかったんです。本当の意味でのPRが社会に浸透すれば、もっとPR業界への注目が高まるんじゃないかと思って。純粋にそういう動機が強かったですね。
大堀海氏:創業当初は最初は3人で住んでいて、その頃は毎日深夜までPRについて話し合っていました。その時に、*「情報の非対称性を利用したビジネスってイケてないよね」*っていう話になって。
ferret:情報の非対称性というのは?
菅原氏:PR会社って、何をしているかわからないと言われることがあります。どんなPR活動をしてくれているかわからない。ちゃんとやってる人はやってるんですが、中には何もやらない人もいます。
というのも、メディアリレーションズには目に見える納品物が少ないからなんですよね。「これだけ活動したんでこれだけフィーください」というのが定石なので、活動そのものはブラックボックス化されてしまいがちです。お客さんもよくわからないのでそこに払うしかない。
今のPR業界がやっているのは、要するに*「畑を耕す仕事」*だと思います。「野菜を納める仕事」ではない。畑は耕すけど、作物ができるかはどうかは天災や外部環境に左右される。もちろんできない時もあります。
でもPRは畑を耕すのが仕事。お客さんはニンジンが欲しくてお金を払ったのに、ニンジンがなくても報酬は発生します。畑を耕すのに10時間かかったから、その分のお金くださいねっていう。そういうのが成り立ってきちゃってたんですよね。
だから「納品物があるのは大事」だなと感じていて。創業当初は特に、マネタイズポイントをコンサルフィーではなく「記事の納品」においていました。
うまく回り始めたのはPRと採用の親和性に気づいてから
ferret:「PR Table」は、採用活動の一環として利用される企業が多いですよね。
菅原氏:最初は各企業の広報に営業をかけていたんですが、全然ダメでした。やはり、ストーリーを出してもそこから何につながるのかイメージできないと言われる場合が多くて。
大堀海氏:特に、お客様が成果としてパブリシティを望んでいる場合、「自社発信でもっと背景を語りましょう」と言ってもなかなか理解されづらかったですね。
菅原氏:その時にとある人から「人事に営業してみたら?」と言われて。それがうまくハマりましたね。今は売り手市場だし、採用広報のトレンドの波にのれたかなと思います。
真のPRを通して実現したいのは「ミスマッチのない社会」
ferret:PR Tableを通して実現したい未来は?
大堀航氏:*「ミスマッチのない社会」*ですね。ミスマッチが起こるのは納得度の問題だと思うんです。
例えば、ECで名刺入れを買ったとします。職人が1個1個手作りしているのを知ったうえで買うと、多少ほつれがあっても「すごくいいじゃん」と思える。でもそういう背景を知らずに買って、ほつれがあったらクレームになる。
*左脳的なスペックとか値段とか部分で判断する部分と、右脳的な背景とか部分で判断する部分、どちらにもアプローチできればミスマッチは防げるんじゃないかなと。*そのためにより多くの会社のストーリーを生み出して、より多くのステークホルダーに情報を届けることがミッションです。
大堀海氏:これって本当にいろんな局面で重要な要素になると思っています。
投資家に対してもそうですよね。上場している企業は、単純に事業の計画と実績だけを語るだけではなく、しっかりと会社のビジョンを語り、それを実現するための戦略、市場トレンド、そしてリスクについても説明する必要があると思います。そして、「なぜその会社がビジョンを実現しようとしているのか?」を理解してもらい、ひいては共感・応援してもらうことがIR活動においても重要な点になると考えています。
ferret:PRは大企業がやるというイメージがありましたが、そういう枠組みで考えると企業規模関係なく取り組むべきでしょうか。
菅原氏:そうですね。
特に地方だと、自分が勤めている企業のこと何も知らないって人が多いんですよね。しかもPR会社のような労働集約型のモデルだと、地方の小さい企業は助けられるはずがなくて。
でも、人じゃなくて、サービスがあれば、人が張り付かなくても手伝えるじゃないですか。地方は、ニュースはないけどストーリーはある。ストーリーがあれば、PR活動はできるんです。自分たちで語ることができれば、それがPR活動になる。この方法であれば、大企業しか取り組めない状況を変えられるんじゃないかと感じています。
ferret:では、当初から中小を意識したサービス設計をされていたんですね。
大堀航氏:そうです。起業する時、とにかく多くの会社に使ってもらえるサービスを作りたかったんですよね。そして、社会的意義やインパクトのある事業をやりたいなというのはずっとありました。PRは永遠に続くものです。数ヶ月で終わるものではない。
それをしっかりやり続けられるソリューションをリーズナブルな価格で提供することができれば、より多くの会社が本質的なPR活動を行うことができ、社会的な意義もあるんじゃないかと思いました。
ferret:人に刺さるようなストーリーを見つけるためのポイントはあるでしょうか。
菅原氏:ストーリーテリングの3原則があります。
1.会社の存在意義を見つめ直す
2.それを象徴する出来事を見つけ出す
3.人やモノを主人公にして語る
この3つを基本にして、ストーリーに落とし込んでいくのが基本ですね。
ストーリーは、一見非効率に見えて実は効率化を促進する
ferret:「 PR Table」でストーリーテリングで成功した事例はありますか?
菅原氏:1年半ぐらい使っていただいてる名古屋の病院があります。それまでメディアリレーションズはあまりできていなかったのですが、PR Tableを利用し始めてから取材されるようになりました。そこで取材されるネタは特に目新しいものではなく、昔から取り組んできたことだったんです。
これからの医療に必要なことだと考えられていることを愚直にやっていて、その取り組みを地道に発信し続けていると注目されるようになりました。PR Tableの記事を紙にプリントして配ったりしていただいたりもして、オフラインでコンテンツを流通させたことも効果的だったようです。
大堀海氏:採用面でも役立っているというお声をいただきます。ストーリーで初見の人の興味を引くのって難しいですよね。知らない人のストーリーって、普通興味無いですから。ただ、理解促進や興味関心を高めるところにはものすごく貢献できるなと感じています。
ストーリーを読んでいる人といない人では、エンゲージメントが全然違うみたいです。事前にストーリーを読んでもらえば、会社のビジョンがわかるので面接をスムーズに進められる。結果、採用にかける時間を減らせる。ストーリーテリングって一見非効率なようで、実は効率化に貢献できている部分があるんですよね。
本当の意味でのPRを知ってもらうために
ferret::資金調達を実施して、これからさらにグロースしていくところだと思います。直近で描いているものがあれば教えてください。
菅原氏:これから1年は、PR Table自体の発信力を高めるためにオンライン・オフライン合わせて色々動いていく予定です。
あとは、ストーリーを読んだユーザーの態度変容を促したいなと思っていて。社内で独自指標を作っているところです。ストーリーコンテンツのエンゲージメントを定量化すれば、どれだけ貢献できているかがわかる。そうやって効果を可視化して、コンテンツの価値を高めていきたいです。
大堀航氏:同時に、本当の意味でのPRを啓蒙は続けていかなければいけないと感じています。*「マスメディアで取り上げてもらうためだけではなく、地元の人や従業員に会社を知ってもらって、良い関係を築くのがPRなんだよ」*ということを一人でも多くの人に周知したいですね。
もっとPR Tableを知る
【求人】PR Tableの成長戦略。「マーケットの拡大」と「文化の醸成」を担えるマーケターが必要な理由
人の想いやストーリーを発信し感情を増幅させるCMS「PR Table」、Public Relationsを軸とし社会にうねりを生み出したカンファレンス「PR3.0 Conference」などを仕掛けるPR Table。2014年に創業以来、PRパーソンやマーケターに注目され続けている同社が、マーケットを拡大していくためマーケターの採用を行なっています。そこで今回は、創業メンバーである取締役・菅原弘暁氏に、PR Tableで活躍できるマーケター像に加え、これからの企業ブランディングのあり方や広報戦略についてお話を伺いました。
- オンライン
- オンラインとは、通信回線などを使ってネットワークやコンピューターに接続されている状態のことをいいます。対義語は「オフライン」(offline)です。 現在では、オンラインゲームやオンラインショップなどで、インターネットなどのネットワークに接続され、遠隔からサービスや情報などを利用できる状態のことを言う場合が多いです。
- コンテンツ
- コンテンツ(content)とは、日本語に直訳すると「中身」のことです。インターネットでは、ホームページ内の文章や画像、動画や音声などを指します。ホームページがメディアとして重要視されている現在、その内容やクオリティは非常に重要だと言えるでしょう。 なお、かつてはCD-ROMなどのディスクメディアに記録する内容をコンテンツと呼んでいました。
- ブログ
- ブログとは、ホームページの一種です。運営者はブログシステムに登録し、利用開始をすることで、ホームページ制作のプログラム技術を修得する必要なく、本文のみを投稿しつづければ、公開・表示はおろかページの整理や分類なども効率的に行えるシステムを言います。
- コンテンツ
- コンテンツ(content)とは、日本語に直訳すると「中身」のことです。インターネットでは、ホームページ内の文章や画像、動画や音声などを指します。ホームページがメディアとして重要視されている現在、その内容やクオリティは非常に重要だと言えるでしょう。 なお、かつてはCD-ROMなどのディスクメディアに記録する内容をコンテンツと呼んでいました。
- エンゲージメント
- エンゲージメントとは、企業や商品、ブランドなどに対してユーザーが「愛着を持っている」状態を指します。わかりやすく言えば、企業とユーザーの「つながりの強さ」を表す用語です。 以前は、人事や組織開発の分野で用いられることが多くありましたが、現在ではソーシャルメディアなどにおける「交流度を図る指標」として改めて注目されています。
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