大勢の前で行うプレゼンや社内ミーティングでの発言、社外で行う商談など、ビジネスにおいて様々な「伝える」シーンがあります。何かを伝える能力は、全てのビジネスパーソンにとって身に着けておくべきスキルと言っても良いでしょう。

しかし、「人前で発表することが苦手」「伝えたつもりが、伝わっていない」と感じていることもあるはずです。伝えるスキルを身に着けようと模索している方もいるのではないでしょうか。

伝える事が苦手と感じる原因はどこにあるのか。そして、伝えられるようになるために行うべきことについて、年間250回以上のプレゼンを行っている日本マイクロソフト株式会社の澤 円 氏とferret 創刊編集長 飯髙悠太が「伝える」をテーマに語りました。

澤 円(さわ まどか)氏 プロフィール

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日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャなどを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。

著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「世界№1プレゼン術」がある。プレゼンを年250回以上こなし、ビル・ゲイツが卓越した社員のみに授与する「Chairman's Award」を日本人エンジニアとして初めて受賞した経歴を持つ。

参考:
澤 円 氏のferretでの連載はこちら
プレゼンテーションはなぜ“あなた”を幸せにするのか。ビジネスから日常生活まで活かせる理由|ferret
  

「人に伝える」ことが苦手と感じてしまう原因とは?

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飯髙:
澤さんはプレゼンテーターとして活躍されていますが、イベントに登壇する以外のシーンでも「伝える」ことを意識しているとうかがいました。「人に何かを伝える」ことが苦手なビジネスパーソンも世の中にはいると思うのですが、その原因はどこにあるのでしょうか?

澤 氏:
伝えることが苦手な原因って、明確にあるんですよね。それは、大人になるまでの間にトレーニングを受けていないことです。

小学校の頃「先生の話は静かに聞きましょう」と教育された経験はありませんか?

授業中に「この問題の答えは?」と質問されても「あなたは、どう思い(考え)ますか?」という質問はされたことがありますか?

こうした指導方法は、日本の教育の特徴であり、“伝えることが苦手になる原因”でもあります。

“私の考え”を発信するトレーニングを受けていないことって、世界的に見ても大きなハンディキャップになります。

飯髙:
海外の教育だと「1日に何分間プレゼンをする」というのがありますよね。

澤 氏:
ありますね。欧米だとほとんど行われているのではないでしょうか。自分の意見を述べられないことには価値がないという教育を受けるんです。もちろん、こうした教育にもデメリットはありますけどね。

日本の教育って、教育という視点で考えると中間層を分厚くするという点では役に立つんです。言い換えれば、「おバカさんのレベルが高い」とも言えます。

例えば、日本人は識字率が100%近いことなど、そうした面ではプラスに働きますが、ずば抜けた天才が出づらい環境でもありますよね。
  
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「成功体験」を重ねることが「伝える」苦手を克服するカギ

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飯髙:
その中でも、「伝えられる」人がいないわけではないですよね。僕の場合、学生の頃ずっとサッカーをやっていて、ランクの高いクラブに在籍していました。そこで「自分の意見が無いことは“悪”だ」という教育を受けたんです。澤さんのおっしゃる「教育」と通ずるなと感じたのですが、何か共通の枠組みのようなのがあるんですかね?

澤 氏:
それは「成功体験」ですね。特に、サッカーは瞬時に成功体験を得られます。アイコンタクトを上手く取って、パスからシュートにつなげ、ゴールを決めた。これはコミュニケーションがあって成り立った成功体験です。失敗の影響もダイレクトに届きますよね。高ランクのクラブであれば、成功も失敗もその要因を全て言語化して説明できたのではないかなと思います。
  

「緊張はしないが油断も絶対にしない」澤 氏が意識していること

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飯髙:
言語化して理解することってあらゆるシーンで重視されると思います。ところが、「プレゼン」となると、いくら言語化できても緊張感であったり、事前の準備であったり様々な要因が影響するじゃないですか。

僕はイベントに登壇させてもらうこともあるのですが、すごく緊張してしまうんですよね。だからこそ、10分間とあらかじめ決まっているのであれば、その時間ピッタリでプレゼンを決めたい。だからこそ、そのための練習を怠らないようにしています。話慣れたテーマで緊張を一切しないと逆に上手くいかないこともあったり……。

澤 氏:
私は、ほとんど緊張しないのですが、「緊張しない」というのと「油断する」というのは大きな違いがあるんですよね。私も油断したら失敗します。「動くはずだったデモンストレーションが動かない」とかが起きたり。

成功体験と同時に失敗体験もしているんですよ。でも、ちょっとしたミスが起きても修正する機会になります。そういう見方を自分自身ができるかどうかですよね。決して自分は完璧じゃないぞと思えることは大切なポイントだと思います。

飯髙:
ミスをして修正する。自分自身で反省して次に活かすことが大切な一方で、失敗した後、落ち込んだまま時間だけが過ぎてしまうという方もいますよね。反省の活かし方で心がけていることはありますか?

澤 氏:
私がやっているのは、ミスを発信することです。SNSで「こんな失敗をしました」「思ったとおりにいきませんでした」と正直に言うんです。このミスはどの程度バレているのか、影響を与えているのかを計るためにも、発信に対するフィードバックを受け止めます。

飯髙:
僕も澤さんと近い考えかもしれません。Twitterが大好きで、通算で11万ツイートくらいしているんです。人にお会いした時、何か体験した時はすぐツイートしちゃうんですよね。

そこで、フィードバックや良い言葉を貰うことがあります。思ったことを発信しないことがもどかしいので、まず発信するようにしています。結果として多くの良質なインプットを貰えるんです。

澤 氏:
発信する事って、一周回って良いインプットになって返ってきますよね。「プレゼンがどうやったら上手くなるのか?」と聞かれるのですが、座学で勉強しているくらいならとにかく自分から発信しましょうと答えています。
  

「失敗を恐れる理由がない」一歩目を踏み出す“行動の源泉”とは

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飯髙:
澤さんは「緊張はしないが油断もしない」という言葉に非常に自信を感じるのですが、澤さんの「自信」はどこから生まれるのでしょうか?

澤 氏:
それは、失敗を恐れる理由が無くなってきていることですね。失敗しないと思って失敗すると凹みますよね。でも、失敗は起きることが前提にあり、自分自身は失敗によって壊れないと思ったら、それが自信になるのだと思います。失敗というのは、学びですから。

私のチームには、「失敗したことが無い」とシレっと言うメンバーがいます。失敗はしないけれど、「結果が想像と違ったことは何回もある」と言うんです。失敗という言葉は使わず、全て「学び」と捉えているんです。

飯髙:
「失敗を恐れる理由がない」からこそ自信につながるんですね。僕は、自信があるとは決して思っていないため、数多くの打席に立つことを意識しています。打席に立たずして人生を終えたくないんです。

もちろん、クローズさせるビジネスも過去にはありましたが、今手がけているferretや、過去に作ったサービスが売却された話を聞くと、それが結果的に自信になりますね。何かを始める手前の段階で自信があるわけではないんです。打席に立つことを恐れないことが大切だなと。そこの一歩目が踏み出せない人もいますよね。

澤 氏:
どんな行動を起こしても、何を引き受けても大したことにはならないだろうと考えています。先日、ハードディスク業界のイベントで海外の方々と英語でパネルディスカッションを行う機会がありました。

急遽依頼が来たので、とりあえずやることにしたんです。すると、登壇者は日本人以外の人ばかり。そして、全て英語。同時通訳もなく、英語を使ってアドリブで話すことになりました。

私は英語がある程度喋れるのですが、ネイティブではないから気の利いたことは喋れない。なので、ほかの登壇者が喋っているのを聞いて、スマートフォンの辞書で単語を調べ、ノートに書き出して会話に参加しました。

私は、ソフトウェア業界の人間なので、ハードディスク業界とは異なる視点で話すことができました。必ずしも成功とはいえませんが、オーディエンスにも、ほかの登壇者にも喜んでいただけたので良かったなと思っています。何も情報がないままでも、「とりあえず安請け合いする」ことは意識してみると良いのではないでしょうか。
  

まとめ

伝えることが苦手と感じる原因として、澤 氏は「教育」を挙げました。日本の教育は、相対的に知識のレベルは上がるものの、自分の言葉で発信する機会が少ないため、それが伝える事の苦手意識につながってると言えるでしょう。

また、澤 氏は、伝える事への苦手意識を克服するためには、成功体験の積み重ねと失敗の修正が大切と述べています。失敗や緊張を恐れるあまりに行動できないと感じているのであれば、両者の会話から行動を起こすためのヒントになるのではないでしょうか。