インターネットが普及して、私たちのコミュニケーション方法は大きく変化しました。個人間のコミュニケーションだけでなく、企業間の取引においても同様です。

以前はお互いが電話で予定を調整し、直接会って商談し、契約が決まればまた訪問して納品する流れが一般的でした。しかし近年は、電子メールで予定を調整し、オンライン会議システムで商談し、商材もインターネット上での納品ができる場合も増えました。

契約においても、オンライン化は進んでいます。インターネット上で結ぶ契約のことを「電子契約」といいます。電子契約では、印鑑ではなく「電子署名」を使って署名します。
電子契約や電子署名の名前は知っていたものの、セキュリティ上の不安から導入をためらっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、電子署名を使った電子契約について具体的に解説します。

電子契約とは

「電子契約」とは、インターネット上で契約書を交わし、署名することで結ぶ契約を指します。締結した契約書の電子データは、企業や外部のサーバーに保管します。

日本の法律では契約方式の決まりはありませんが、インターネット上の契約となると、セキュリティ上の不安と「対面して押印(署名)する」という日本の慣習により、普及しづらい課題がありました。

しかし、2000年前後に電子契約に関する法律が整備され、より企業が導入しやすい環境になりつつあります。

電子認証サービスの市場予測.png

引用:
平成27年度サイバーセキュリティ経済基盤構築事業(電子署名・認証業務利用促進事業(電子署名及び認証業務に関する調査研究等))調査報告書|経済産業省

上図は、電子証明書の認証サービスの市場予測です。電子証明書とは、本人であることを第3者に認証されたもののことです。インターネット上の身分証明書と考えれば分かりやすいでしょう。電子契約においては、「印鑑証明書」のような役割を果たします。

今後、電子証明書の認証サービス市場は拡大していくと考えられており、それに伴って電子契約の機会も増えていくことが予想できます。

電子署名とは

「電子署名」とは、言葉通り*「電子的な署名」*を指します。電子契約において、「印鑑」のような役割を果たします。

電子契約にセキュリティ上の懸念を抱く方は、特にこの仕組みが気になっているかもしれません。

電子署名の仕組み

電子署名の仕組みは、「暗号技術」を使った複雑なものです。ここでは専門的な技術は割愛し、簡単に説明します。
「暗号技術」には、「秘密鍵」と「公開鍵」を利用します。この2つの鍵は暗号を解くために必要なものです。「秘密鍵」で暗号化された文書は、対となる「公開鍵」でしか暗号を解いて読むことはできません。

Aさん(署名する側)とBさんが契約書に電子署名を付与する場合を例とします。

【電子署名の流れ】
1.Aさんが認証局(信頼できる第3者)に電子署名を付与した電子契約書の発行を依頼する。
2.認証局がAさんの本人確認後、「秘密鍵」と「公開鍵」を発行する。
3.認証局はAさんの本人確認後、「秘密鍵」はAさん本人に知られない形で、「公開鍵」は公開された形で、暗号化された電子契約書と一緒にAさんに付与する。
4.Aさんは「公開鍵」と暗号化された電子契約書をBさんに送信する。
5.BさんはAさんにもらった「公開鍵」を使い、電子契約書の暗号を解いて文章化する。
6.その後、Bさんが「公開鍵」で電子契約書を暗号化できれば、その契約書が確実にAさんによって署名されたものであることが証明される。

少し分かりづらいですが、信頼できる第3者が介入することで、契約を結ぶAさんとBさんがお互いに確実に本人であることを証明するための仕組みです。

電子署名の専門的な仕組みを知りたい方は、下記ホームページを参考にしてみてください。

参考:
電子署名の基礎知識|電子認証局会議

電子契約の関連法

電子署名法

電子署名法は、2001年4月に施行されました。電子署名が手書きの署名や押印と同じ効果をもつことを定めています。

電子署名が本人のものであることを確認する方法など、一定の基準を満たすと、国の認定を受けることができます。認定を受けた人は、認証業務ができることを表示でき、同時に認定の要件や義務を負うことも定めています。

参考:
電子署名法の概要について|法務省

電子帳簿保存法

電子帳簿保存法は、1998年7月に施行されました。その後、2017年までの間に何度か改正しています。国税関係帳簿書類を、電子データで保存できることを定めています。

この法律により、帳簿書類を電子データと原本として保存することが可能になりました。数回の改正を経て、帳簿書類を電子データ化する方法の制限が緩和されています。

その他、電子取引の取引情報の保存義務について定めています。

参考:
電子帳簿保存法について|国税庁

e-文書法

e-文書法は、2005年4月に施行されました。その後、2015年に改正されています。この法律で定められている内容は大きく2点です。1点目は、企業が電子上で作成した電子データをそのまま保存できることです。2点目は、紙で作成した書類をスキャナで電子データに変換し、紙の代わりに保存できることです。

前述した電子帳簿保存法と似ています。国税関係の帳簿書類について定めているものが電子帳簿保存法、その他企業で利用する全般の書類について定めているものがe-文書法と理解しましょう。

しかし、電子帳簿保存法もe-文書法も、全ての書類や保存状態を認めているわけではありません。基準が詳細に定められているため、もし活用する場合は都度確認しましょう。

電子契約のメリット・デメリット

メリット

電子契約は、紙や印紙代がかからないため、費用を削減できます。また、直接訪問したり、何度も書面を郵送やFAXでやり取りしたりする必要がなくなるため、業務効率も改善します。

セキュリティ上の懸念も上がりがちですが、国が認定した信頼できる第3者が介入して管理するため、捉えようによってはリスク軽減にもつながります。

デメリット

電子契約は年々普及してはいるものの、一般的になっているとまでは言えない現状があります。下図は、企業に勤めている、電子契約の基礎知識がある方を対象にした導入意向調査の結果です。

電子契約の導入意向.png

引用:
2015年文書情報マネジメント関連市場ユーザー動向調査結果の概要について |公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)

電子契約の関連法が整備されたとはいえ、実際に導入に踏み込んでいる企業は多くありません。契約を交わす先方の理解を得るための説明など、配慮する点は認識しておきましょう。

まとめ

電子契約や電子署名は、費用や時間といった業務コストの削減につながります。一方で、まだ導入していない企業と取引する場合は、取引先の方が安心して納得できるよう説明することも大切です。

契約書をアップロードし、電子署名ができるサービスもあるので、自社だけで行うことに不安がある方は利用してみてもいいかもしれません。