あちこちの現場から開発者のリソース不足が嘆かれていますが、特に日本では深刻なほど需要に対してエンジニアの数が足りていません。

国内のエンジニアの総数が少ないこともその要因の1つではありますが、それ以上に給与や採用コストの高さから、プロジェクトに対して必要なクリエイターの数を予算の上限から確保できてないというケースが珍しくありません。

そこで注目されているのが「ラボ型オフショア開発」です。海外に制作拠点を置くオフショア開発の中でも、ラボ型はある一定期間、現地のエンジニア人員を常に確保し、顔が見える状態で自分たちのプロジェクトにアサインできるものです。

この手法にどうして注目が集まるのか。今回は、今さら聞けない「ラボ型オフショア開発」について解説していきます。
  

目次

  1. 「ラボ型オフショア開発」とは
  2. 開発までの一般的な流れ
  3. 「ラボ型オフショア開発」のメリット
  4. まとめ - ラボ型オフショア開発はどんなシーンで有効なのか -

  

「ラボ型オフショア開発」とは?

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オフショア開発の浸透の背景には日本国内での開発コストの上昇があり、これを嫌った企業がよりコストの安い地を求めてインドに進出したのが始まりだと言われています。現在はインドから中国やベトナム、さらに人件費の低いフィリピン、インドネシア、ミャンマーまでがオフショア開発先として注目されています。

オフショア開発の最大のメリットは"人件費の安さを生かした"大量のリソース(労働力)獲得にありますが、当然のことながら言葉や商いの習慣の違いは無視することができず、納期や品質についてのトラブルが少なからず発生しているのも事実です。さらに、現地のブラックボックス化や頻繁なやり取り、手戻り等で、結果的にコストが高くなってしまったという声も少なくありません。

ただ、現地の技術能力が低いのかというと一概にそうとは言い切れません。例を挙げると、ベトナムでは国策としてIT人材の輩出を掲げているため、専門性の高いフレームワークや開発言語を扱えるエンジニアでいえば、日本よりも確保しやすい環境にあるといえます。

それでは"なぜやりとりに失敗するのか"というと、これらの問題の大きな要因はコミュニケーション不足にほかなりません。コミュニケーションとは設計思想やイメージといった部分を含むものであり、ただでさえ言語や文化の違いがある外国とのやりとりに壁がある中、コミュニケーション形成を軽んじて制作体制を構築すると、思いのほかコストがかかるというのは当然と言えるかもしれません。

そこで、これらの問題の解決策として挙がってきたのが「ラボ型オフショア開発」なのです。

仕事の有無に係らず、あらかじめオフショア先の優秀な人材を自社専用に確保しておくことで、開発を依頼するタイミングを柔軟に設定。しかも契約期間中に、自社流の仕様やノウハウを蓄積できる特徴があるため、先に挙げた課題点も少しずつ解決されていくという考え方です。

短期的に低予算で開発するための手段というより、中長期でコストメリットを生んでいくということになります。
  

開発までの一般的な流れ

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開発までの流れを説明する前に、もう一度 "ラボ型の開発とは何か" をおさらいします。

ラボ型の開発とは、クライアントの希望に沿ったスキルをもった(1)人材の確保(2)開発環境の整備 を現地が用意することを差します。つまり、クライアント側にプロジェクトマネージャーを置いてもらうことが前提で、その指示に従ってオフショア先の優秀な人材が開発することになります。

これを踏まえ、ラボ型の代表的な形には2種類あるのでご説明します。

A. クライアント側のプロジェクトマネージャーが現地に駐在する
B. クライアント側のプロジェクトマネージャーが日本から現地のブリッジSEとやりとりする

Aでいえば、それこそクライアント側のプロジェクトマネージャーが海外法人で制作する体制に近いでしょう。

現地で確認する分、作業効率や進捗の確認、問題点の洗い出しが容易ですが、何よりも“現地に赴く”という最大の課題をもっています。BはブリッジSEのスキルが重要となります。日本語の能力と咀嚼力、リーダーシップなども問われるでしょう。

それ以外にもAで現地にブリッジSEを雇わない、BでブリッジSEとして現地にいる日本人をアサインするなど、細かな部分の違いはいくらでもありますが、基本は上記の2種であることを理解しておいてください。

どちらが良いというジャッチは難しいところですが、いずれの方法にしても優秀なブリッジSEの存在は不可欠といえます。

参考:
ブリッジSEとは(ブリッジ人材/ブリッジエンジニアとは)|オフショア開発.com
  

「ラボ型オフショア開発」のメリット

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つまるところ「ラボ型オフショア開発」とは、“現地にいる自社のクリエイター”と同意で、オフショア先では安価で優秀なクリエイターを確保できるという前提条件をもとに、下記のようなメリットが挙げられます。

1. プチ現地法人を体験できる
制作の流れをみた際に、"海外現地法人では?" と思う方もいるはずです。まさにそれに近い形ですが、設立に時間をかけず、簡易的にプチ現地法人を設立できるというメリット(考え方)の享受があります。

2. 現地法人と違って解散しやすい
「1. プチ現地法人を体験できる」の内容に関連しますが、一定期間を過ぎた後に容易に解散できる「ラボ型オフショア開発」は、海外現地法人の設立よりもリスクヘッジできます。

3. 見積書や要求仕様、設計書などが不要。開発開始までスムーズ
一般的な請負開発の場合は、見積書や要求仕様、設計書の作成、すり合わせなどの調整に多大な時間がかかります。しかし、「ラボ型オフショア開発」であれば “現地にいる自社のクリエイター” が実際に稼動するため、前述のような業務に割く時間が大幅に軽減されます。

4. 契約などに縛られず自由度の高い指示ができる
繰り返しますが “現地にいる自社のクリエイター” なので、アジャイル型の進め方のように仕様や設計の途中変更にも柔軟に対応できます。

  

まとめ - ラボ型オフショア開発はどんなシーンで有効なのか -

以上となります。いかがでしたでしょうか。ラボ型オフショア開発について知識が深まりましたでしょうか。

「ラボ型オフショア開発」を活用する上で、よりメリットを感じやすい企業(環境)はというと下記のようなケースに該当した場合が考えられます。

・定期的に(開発)案件をもっている
 ※そこに充当するための優秀な人材を低価格で確保しておきたい

・自社の開発リソースが足らず、“一時的に”開発の制作体制を増強したい

単価が安いという側面だけで「ラボ型オフショア開発」に手を出すのはオススメしません。上記の条件のほか、特徴と性質をしっかり理解した上で導入を検討してみてください。