この記事は、2017年12月11日に公開された記事を再編集しています。

近年、「働き方改革」という言葉をニュース等で多く目にするようになりました。ですが、「どのような政策が行われているのか」という改革の中身については、よく理解できていないという方が多いはずです。

そこで今回は、働き方改革がビジネスに及ぼす影響とビジネスパーソンにとって押さえておくべき働き方改革のキーワードをご紹介します。

働き方改革は、政府が掲げる重要な指針の1つであり、職場環境やこれからのキャリアにも影響を与えるかもしれません。ぜひポイントを掴んで、自分の働き方を考えるきっかけとしてみてはいかがでしょうか。
  

働き方改革とは

2017年10月、政府は新たな政策の目玉(新・三本の矢)として、「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を掲げ、政府を挙げて取り組んでいくことを発表しました。これら政策は「一億総活躍社会」を実現するにあたって必要不可欠であり、働き方改革は重要な取り組みの1つとして位置付けられています。

具体的に、首相官邸ホームページでは"働き方改革の目的"を以下のとおり解説しています。

働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。

引用働き方改革の実現|首相官邸ホームページ

上記内容からすると、働き方改革には、"多様な働き方ができる環境の実現"や"労働における格差の是正"も含まれています。

きっと、政府の動きに合わせて、社内で働き方を見直すことになった企業も少なくないはずです。そうした企業の中には、「働き方改革=残業を減らす取り組み」といったイメージがあるかもしれません。ただ、確かに、残業の削減も働き方改革の一部ではありますが、もっと幅広い分野や取り組みを対象にしていることを把握することが必要です。

参考:
一億総活躍社会の実現|首相官邸ホームページ

 

働き方改革がビジネスに及ぼす影響(メリット・デメリット)

では具体的に、政府では働き方改革としてどのような点を議題に挙げているのでしょうか。

2016年9月に首相官邸が発表した「働き方改革実行計画」には、以下の検討テーマごとにビジネスへの影響をまとめて紹介しています。

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画像引用元:*「働き方改革実行計画」|首相官邸
  

1. 非正規雇用の処遇改善

正規・非正規雇用おいて、同じ業務内容なのに給与が異なるという問題点が上がっています。

これに対し、政府では、同一労働同一賃金を実現するための法改正を実行しようとしています。実際、2017年9月8日に、厚生労働省は労働基準法や労働者派遣法の改正案の要綱を同省の諮問機関である労働政策審議会に提出しています。

仮に、この改正案が施行されれば、正社員と同等の業務を行っているパートタイマーや契約社員がいる企業は、同一労働同一賃金になるよう給与の改定を行う必要がでてきます。なお、改正案の施行日は原則2019年度としながらも、中小企業には1年間の猶予を与えるとしています。

参考:
19年に同一労働同一賃金、中小は1年猶予 厚労省要綱|日本経済新聞
  

2. 賃金引上げと労働生産性向上

政府では、企業から労働者に対して支払われる給与の引き上げを目指しています。労働生産性を上げられるように政府からも働きかけを行っていくことで、給与の引き上げを行いやすい環境づくりを実現しようとしています。
  

3. 長時間労働の是正

警察庁の自殺統計原票データによると、長時間労働などの勤務問題を原因の1つとする2015年度の自殺者は2,159人(自殺者全体の8.9%)となります。政府ではこのような長時間労働の是正のため、経営者と労働者間で結ばれる36協定に対する働きかけを行ってきました。

その結果、政府からの働きかけを受けた経団連と労働者の代表組織である連合は、2017年3月、*残業時間に年間720時間の上限を設けることを決定しました。*また、政府は2018年度に労働基準監督官の増員を決定しており、より強固に違法な長時間労働を取り締まる姿勢を見せています。

この流れに合わせ、特に経団連に所属する大手企業では労働時間の是正を行っています。

参考:
平成28年版過労死等防止対策白書|厚生労働省
労基監督官増員へ 来年度100人 長時間労働を是正|日本経済新聞
残業「月100時間未満」実現、企業にバトン|日本経済新聞
  

4. 柔軟な働き方がしやすい環境整備

現在、働き方改革を通じて、政府はフルタイムで働く勤務形態を見直し、より働きやすい環境整備を行っています。

その一例として、厚生労働省ではモデル就業規則の改正案を有識者検討会に提出しています。*改正案では、原則禁止とされていた副業・兼業を、原則可能に変更しています。*そのほかにも、政府ではテレワークのような場所に縛られない働き方への取り組みも行っています。

この流れに合わせ、所属する企業の就業規則が変更されれば、副業・兼業が可能になったり、在宅勤務が行えるようになる企業が現れてくるはずです。

参考:
副業認める就業規則 厚労省がモデル改正案|日本経済新聞
  

5. 病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障害者就労の推進

介護離職や子育てによる離職を防ぐため、政府では子育てや会議・治療などと仕事の両立ができるよう支援を行っています。

例えば、厚生労働省では事業者向けに、がん患者など疾患を抱える従業員の就業に関するガイドラインを公開しています。所属する企業の取り組みにもよりますが、治療や子育て、介護を続けながらも働きやすい環境になる可能性があります。

参考:
疾患を抱える従業員(がん患者など)の就業継続|厚生労働省
  

6. 外国人材の受入れ

国内の労働人口の減少に伴う人手不足に対して、政府では外国籍の方の人材受け入れを積極的に取り組もうとしています。

一方で、技能実習制度における外国籍の方の技能実習生の過剰労働等も問題になっています。

参考:
外国人労働者100万人超え 受け入れ政策急務|日本経済新聞
外国人技能実習生という名の奴隷市場 |ハフィントンポスト
  

7. 女性・若者が活躍しやすい環境整備

政府は、子育てに伴って離職した女性に対する"復職やキャリアプランの支援"を働き方改革の軸の1つに据えています。また、若者の就職支援も政策の中で掲げており、職業安定法の改正にも取り組もうとしています。

具体的には、2017年に税制の改定を行い、配偶者控除における配偶者の収入制限を103万円から150万円に引き上げました。配偶者控除を受けながら働く従業員が多い企業では、従業員から「もっと働きたい」という要望があるかもしれないと認識しておいた方がいいでしょう。

参考:
配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて|国税庁
  

8. 再就職支援、企業の中高年の採用

政府では、企業が転職者に対して行う能力開発や給与アップに対して助成していく方針を明らかにしています。また、転職・再就職向けのインターンシップのガイドラインを作成するなど、転職者でも就職しやすい・働きやすい環境づくりを行おうとしています。

企業が転職者に対して積極的な採用や能力開発を進めることで、転職者にとってはより働きやすくなるでしょう。
  

9. 高齢者の就業促進

労働人口の減少に伴い、日本国内の人手不足が深刻な状況にあります。高齢者の就業推進は、人手不足を解消する1つの手段として注目されています。そのため、従来であれば定年制度に合わせて退職していた高齢者でも就業できるように、政府は支援策に取り組んでいます。

例えば、厚生労働省では「高年齢者雇用安定助成金」として高齢者の就業を推進している企業への助成金支給を行っています。

参考:
高年齢者雇用対策の概要|厚生労働省
  

押さえておきたい働き方改革の重要キーワード

政府では、働き方改革として取り組みべき課題を「日本の労働制度と働き方における課題」としてまとめています。

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画像引用元:働き方改革の実現|首相官邸ホームページ

この課題を軸に、正社員として働くビジネスパーソンにも関わる働き方改革のキーワードを4つピックアップして解説します。
  

1. 労働生産性

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画像引用元:第1節我が国における労働生産性の現状|厚生労働省

政府では長時間労働の是正を含め、労働生産性の向上にも取り組もうとしています。2016年に厚生労働省が公開した労働経済の分析データによると、日本国内の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)に加盟する諸外国と比べ、最も低い水準にあります。この現状を改善するため、政府では長時間労働の是正や企業における能力開発の推進に取り組もうとしています。

政府の方針をもとに企業が労働生産性を重視するようになれば、企業で働く社員にとっても働き方を変えていく必要があります。「何時間働いたか」ではなく「短い時間にどれだけのアウトプットをできたか」を意識した働き方が求められてくるでしょう。

参考:
平成28年版 労働経済の分析 -誰もが活躍できる社会と労働生産性の向上に向けた課題-|厚生労働省
  

2. 兼業・副業

政府は「日本の労働制度と働き方における課題」において、ライフステージに合わせた仕事の仕方を選択しにくい単線型のキャリアパスも労働の課題として挙げています。これに対する対策の1つが*「兼業・副業」*です。

厚生労働省が事業者向けに公開しているモデル就業規則では、従来、副業や兼業は原則禁止とされてきました。これに対して、2017年11月20日には副業を認める内容のモデル就業規則の改正案を有識者検討会に提示しています。また、通信事業者大手のソフトバンクが就業規則を原則副業可能にするなど、企業においても副業を認める動きは広がりつつあります。

このように1つの企業に属して働く「専業」から、複数の企業で働いたり、個人で事業を展開したりといった「副業・兼業」へと働き方は変化しています。

参考:
モデル就業規則について|厚生労働省

  

3. テレワーク

テレワークは電話やWeb会議を利用することで、オフィス以外の場所で就業することを指します。時間を選ばない働き方をフレックスタイム制だとすれば、場所を選ばない働き方を実現するのがテレワークです。

実際、2016年10月24日に行われた「働き方改革実現会議」において、安倍総理は以下のように取りまとめています。

テレワークは子育て・介護と仕事の両立の手段、そして副業・兼業はオープンイノベーションや起業の手段としても有効であります。我が国の場合、テレワークの利用者、副業・兼業を認めている企業は、いまだ極めて少ないわけであります。経産省では率先して取り組んでいただいていると思います。その普及を図っていくことは極めて重要であります。

引用:平成28年10月24日 働き方改革実現会議 | 平成28年 | 首相官邸ホームページ

このように、政府でもテレワークの普及は重要な課題として捉えられています。特に、現在の働き方では、自分の理想とする子育てや介護を実現できていないビジネスパーソンにとっては、今後も注目すべき働き方でしょう。
  

4. 多様な正社員

「日本の労働制度と働き方における課題」では、正規・非正規の不合理な処遇の差も課題として挙げています。これに対し、同一労働同一賃金を実現するだけではなく、正社員そのものの幅を広げようという動きが広がっています。

政府では、かつての画一的な「正社員」としてのあり方を見直し、転勤のない地域限定正社員など働き方に合わせた「多様な正社員」を推進しています。

例えば、イオングループにおいてスーパーマーケットの運営担っているイオンリテールでは、2018年4月入社の新卒社員から、勤務地を限定した社員の採用枠を設置することを公表しています。また、ベネッセーグループの株式会社TMJではコールセンターにおける管理者を対象とした約800名を地域限定正社員へと移行するとしています。

新たな正社員の形が生まれることで、正社員として働いているビジネスパーソンであっても、今までとは異なる働き方が可能となるかもしれません。

参考:
「多様な正社員」について|厚生労働省
イオン、新卒採用時から「転居なし」枠 3区分から選べる|エキサイトニュース
  

働き方改革の企業事例

それでは実際に各企業はどのように働き方改革に取り組んでいるのでしょうか。

ソフトバンク

ソフトバンクは2017年4月から新制度を打ち出しました。それは「スーパーフレックス全社導入」「在宅勤務拡充・拡大」「Smart & Fun!支援金」の3施策です。

スーパーフレックスはコアタイムを撤廃し、業務状況に応じて、始業時刻と就業時刻を日単位で変更できるものです。また「在宅勤務拡充・拡大」は在宅勤務の可能回数の増加と対象社員の範囲拡大、「支援金」は全正社員に毎月1万円を給付するというもので、社員の成長につなげてもらうとの意図があります。

さらに同年10月には働きかた改革第2段として、サテライトオフィスの導入や副業の許可を開始しました。

参考:
時代の変化が求めるワークスタイルとは〜ソフトバンク流「働き方改革」~
ソフトバンク、社員の副業OKに|ITmedia NEWS

働きかたをサポートするサービス

働き方改革をサポートするためのサービスやツールも各社が発表しています。

google

googleは「Women will」というeラーニングコースを開始しています。30社以上のパートナー企業と共に働き方改革に取り組んだ結果を元に、個人や経営層向けなど、対象を分けてガイドを発信しています。

参考:
womenwill/japan

マイクロソフト

マイクロソフトは働き方の習慣を可視化するツール「My Analytics」を発表。Office365に搭載された機能で、AIによって「時間の使い方」や「一緒に仕事をする同僚」を可視化します。個人用ダッシュボードを使って過去1ヶ月の「会議時間」や「メール処理時間」「残業時間」を可視化することで問題点を洗いだすことができます。

参考:
日本マイクロソフトが「働き方の見える化」で業務効率化を実証 - 無駄な会議時間を 27% 削減した社内実践の内側※このWebページは現在公開されていません

まとめ

首相官邸では、日本の労働制度と働き方における課題として以下の3点を挙げています。

・正規・非正規の不合理な処遇の差
・長時間労働
・単線型の日本のキャリアパス

この課題に向けて、経済産業省や厚生労働省、総務省などの関係省庁が実際的な施策に動き出しています。例えば、労働生産性に関する総務省の調査や兼業・副業を原則可能とする厚生労働省のモデル就業規則の設定などが挙げられるでしょう。

このような社会の動きから、すでに社内で生産性向上プロジェクトなどが立ち上げられている方もいるかもしれません。この機会に自分や部下のキャリアを考える意味でも、働き方改革にまつわるニュースをチェックしてみてはいかがでしょうか。