最近よく目にする**「デザイン思考」(Design Thinking)**ですが、デザイナーではない自分には関係がないと見てみないふりをしてませんか。

デザイン思考は、文学や芸術、エンジニアの世界やビジネスの世界といったように、あらゆる分野で応用されている考え方です。その意味で、デザイン思考はむしろノンデザイナーにこそ開かれている考え方だと言えます。

今回は、その「デザイン思考」について、ノンデザイナーこそ押さえておきたい3つのポイントを解説します。デザイナーではない自分が、どのようにデザイナー的思考を取り入れられるのか、考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
  

「デザイン思考」とは?

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「デザイン思考」(Design Thinking)とは、マーケティングや経営といった、様々な種類のビジネス分野で活用することができる「デザイナー的」思考を意味する言葉です。問題解決を行う際に、ただ考えるだけではなく、手を動かし、行動しながら考え、より有益な結果を求めるための方法とも言えます。

参考:
AppleやGoogleも採用!今話題の「デザイン思考」をわかりやすく解説|ferret

そもそも英語の「Design」という言葉には、私たちが日常的に使っている「デザイン」という言葉だけを意味するのではありません。Oxford Dictionariesで「Design」を引くと、デザインは「何かを作る際に前もって用意する計画や作画」のことであり、二義的な意味としてある目的に対する*「見立て」*を意味することがわかります。

つまり、広義のデザインとは、建築や服飾、美術、広告などの分野で、設計したり表現するなどのクリエイティブな行為だけではなく、アイデアをもとにプロトタイプを作成し、実際に顧客やユーザーにテストを行いながら試行錯誤を繰り返す一連のプロセスのことを指すのです。

その意味で言えば、「デザイン思考」とはデザイナーだけのものではなく、ノンデザイナーも大いに活用すべきだと言えます。

現代は*「VUCA」*と形容されることがあり、「Volatility」(変動性が高い)「Uncertainity」(不確実性が高い)「Complexity」(より複雑で)「Ambiguity」(曖昧)な時代です。このような時代では、課題の本質をスピーディーに分析できる方法が求められるため、ユーザー中心主義的なデザイン思考にノンデザイナーも注目しています。
  

ノンデザイナーこそ押さえておきたいデザイン思考3つのポイント

1. 顧客中心・ユーザー中心で考える

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デザイン思考に焦点が当てられる場合、その「手法」にばかり目が行きがちですが、その背後にある**「何のために?」**という本質的な課題を解決することこそが重要です。

デザイン思考の「手法」は、ハーバード大学デザイン研究所(通称 d.school)のハッソ・プラットナー教授によれば、以下のように定義されています。

・共感(Empathise)……ユーザーの行動を理解し、寄り添い、何が問題なのかを見付ける
・定義(Define)……ユーザーのニーズや問題点、自らが考えることをハッキリさせる
・概念化(Ideate)……仮説を立て、新しい解決方法となるアイデアを生み出す
・試作(Prototype)……問題に取り組み始める
・検証(Test)……課題が本当に解決されているかを判断する

デザイン思考のプロセスを確認する上で、しばしば取り上げられるのは、AppleがiPodを開発する時のエピソードです。

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共感

まず、心理学者や人間工学の専門家、ソフト・ハードウェア技術者など社内外のエキスパートによる極秘研究チームを結成しました。

Appleの極秘研究チームは、競合製品の分析や、ユーザーが実際にどのように音楽を聴くのかといった課題の調査に乗り出します。そこで、ユーザーがCDからPC、そしてプレイヤーへ音楽データを移行する事を手間だと感じている事がわかりました。

その際、*「その場で選んだ音楽を、どこに居ても聴きたい」*というニーズも見えてきました。
  

定義

市場調査の結果、*「全ての音楽を、ポケットに入れて持ち運ぶ」*というコンセプトが確立しました。
  

概念化

円盤の形をしたホイールによる画面操作、iPodとPCのデータを自動でシンクさせるシステムなど、全く新しいアイデアが生み出されました。
  

試作

こうしたアイデアを、プロトタイプ(試作品)として作成します。
  

検証

これらのアイデアを盛り込んだ試作品のテストを行う際、スティーブ・ジョブズは*「音楽を聴くために3回以上ボタンを押したくない」「もう少し本体を小さく」「音量を大きく」「音質をシャープに」「メニュー表示を素早く」*といった様々なリクエストを出し、試作と検証を繰り返しました。

結果的に約2ヵ月で100種類以上のプロトタイプを作成し、2001年に発売されたiPodは5年余りで累計販売台数1億台を超えるまでになりました。

しかしながら、こうしたケーススタディを参考にする際に、忘れてはならない点が2点あります。
  
1. 「手法」の手順を順序通り行わななくてもよい
重要なことは、これらが「共感」から順番に連続的になされるのではなく、5つの段階は同時に行われたり、互いに影響したり、行ったり来たり、繰り返されたりすることです。順番にプロセスを辿らなければならないということはありません。デザイン思考のプロセスは必ずしも段階的・直線的というわけではなく、相互に関係するのです。

実際、プロトタイプを作ってみてから新たな課題が浮き彫りになり、エンパシーを再度確認することもあります。また、検証を行った段階で、そもそもの概念を見直さなければならない場合もあるでしょう。

「デザイン思考」がそのように呼ばれるのは、デザイナーがサービスやプロダクトを作る過程と関係しています。デザイナーは、まずデザインし、優れたデザイン方法を学び、教えあい、人間中心的なアプローチで自らを表現し、問題を解決していきます。こうした一連の流れは、もちろんデザインだけではなく、ビジネスや自分たちの日常生活にも活かすことができます。
  
2. 「人間中心」の原則を徹底する
もう1つ重要なことは、「デザイン思考」というのは効率化を図るためのフレームワークではなく、「人間中心」(Human-Centric)の原則に基づいて行われる考え方の枠組みである、という事実です。

先ほどのiPodの例を振り返ってみましょう。

スティーブ・ジョブズが「音楽を聴くために3回以上ボタンを押したくない」「もう少し本体を小さく」といったリクエストを出し続けたのは、利益のためだとか、経営上の数字によって判断したものではありません。実際に自分がユーザーの立場に立った時に、製品の*「あるべき姿」*を判断したに過ぎません。

もちろん、グロースハック的なA/Bテストなどを行って仮説と検証を繰り返すことは重要です。しかし、それ以上に「デザイン思考」では「自分ならどう思うか」という*「直感」*を拠り所にしている、という点も気に留めておくべきでしょう。
  

2. カップの中身をからにする

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「デザイン思考」について考察すると、マインドフルネス(Mindfulness)を教える教師の逸話が思い出されます。

ある大学教授が禅を教える先生に教えを請いに出向いたところ、その先生が教授にお茶を注いだと言います。そのお茶はカップの縁に届くまで注がれました。

それでも、禅の先生はお茶を注ぎ続けます。

「もう十分です!もう入りません!」

と教授が叫ぶと、先生がゆっくりと言いました。

「あなたの頭の中はアイデアや意見がいっぱいです。まず禅やマインドフルネスについて学ぶ前に、カップの中身を空にしてみてはいかがでしょう?

デザイン思考において共感や検証を行う際にも、全く同じことが言えます。
  
デザイン思考の第1ステップが「市場調査」ではなく*「共感」*であるのは、単に数字を出すのではなく、ユーザーの問題点に寄り添うことを意味します。そのためにも、余計な先入観を捨て、「白紙」(tabula rasa)の状態でいることは、非常に重要なことなのです。
  

3. デザイン思考のROIを信じる

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経営的に考える必要は必ずしもないですが、「デザイン思考」は普通のプロセスに比べれば時間がかかる場合が多いので、その意味では各プロセスをいい加減にしてしまったり、省略してしまうこともあるかもしれません。

しかしながら、先ほど紹介したiPodの例でもわかるように、長い時間をかけて数百ものプロトタイプの作成と検証を繰り返して、「完璧」に近いプロダクトをローンチすることができれば、結果的にそれぞれのプロセスの*ROI(投資対効果=時間対効果)*は高くなります。iPodの場合は、5年半で1億台が売れたわけです。

デザインプロセスを統合することは、すぐに結果がでることとはかけ離れています。もちろん、時間をかければいい結果が出るとは限りませんが、デザイナーが優れた作品を作り上げるのは、こだわって何度もディティールを修正し、時間をかけて磨き上げるからです。

「デザイン思考」とはその意味で、目先の利益よりも**「完璧であること」**という成果に重点を置いた思考法であると言えます。