皆さんはデザイン思考(Design Thinking)という言葉をご存じでしょうか?

「デザイン思考」という言葉を聞くと、デザイナーだけが持っている思考様式のように聞こえます ──
しかし、実際は、文学・芸塾・科学・エンジニアリング・ビジネスなど、あらゆる世界で応用されている考え方です。そしてこの思考様式はあまりにも強力なので、AppleやGoogle、サムスンやGEなど、世界を先導する企業のアプローチ方法としても採用されています。

それでは、「デザイン思考」とはどういう考え方なのでしょうか。
なぜ「デザイン思考」はこれほどに有名になったのでしょうか。
また、そもそもなぜ「デザイン思考」と呼ぶのでしょうか。

今回は、その「デザイン思考」について、わかりやすく解説していきます。この記事を通じて、皆さんの会社でも「デザイン思考」という考えた方をぜひ取り入れてみてください。

デザイン思考(Design Thinking)とは何か

「デザイン思考」とは、デザインしたサービスやプロダクトの先にあるユーザーを理解し、仮説を立て、初期の段階では明らかにならなかった第二の戦略や代替する解決策を特定するために問題を再定義する、一連の問題解決の考え方のことです。そして、ただ考えるだけではなく、行動しながら考え、より良い結果を追い求めるための方法でもあります。

「デザイン思考」について深堀りをする前に、そもそもの「デザイン」という言葉の定義をはっきりさせておく必要があります。デザインという言葉には、大きくわけて2つの定義があるのをご存じでしょうか。

一つは、Webデザインやプロダクトデザインといったように、設計したり、色を塗ったりと、いわゆるデザイナーが行うクリエイティブな行為をいいます。一方、「デザインする」という動詞の意味の中には、「新しい可能性を発見するための問題解決のプロセス」という意味もあります。

もちろん、「デザイン思考」はプロダクトやサービスを作るデザイナーの間では非常に馴染みのあるものです。しかし、「デザイン思考」では、単にクリエイティブな行為や行動を促すだけではなく、実際に問題解決そのものを行います。「デザイン思考」によって、作り手はターゲットユーザーを観察し、問題を解決していく中で、サービスやプロダクトをさらに拡大することができるからです。

「デザイン思考」では、いくつもの質問を自問自答しながら、問題解決を行っていきます。本当の問題は何か、仮説は本当に正しいのか、この現象が意味するものは何か ──
「デザイン思考」によって、まわりがよく定義されていないことやあまり知られていない問題にも挑戦することができるようになります。

「デザイン思考」のプロセスの中で特に取り入れられているものが、『人間中心的(human-centric)』なアプローチや、あらゆるアイデアを出し合うブレインストーミング、実際に試作品を作ってみるプロトタイピングや試作品を試しに使ってみるテスティングといった方法です。仮説や検証を重視することから、デザイン思考は「実験的思考法」と例えられることもあります。

デザイン思考の5段階

「デザイン思考」の概要は理解できたかと思いますが、具体的にはどういうプロセスをデザイン思考と呼ぶのでしょうか。もちろん実際には、「デザイン思考」といっても定義が広く、今日使われている「デザイン思考」という言葉は人によっても異なるかもしれません。

しかし、派生した考え方であっても、「デザイン思考」の根本的な考え方は同じです。それは、アメリカの政治学者・認知心理学者・経済学者であり、ノーベル経済学賞受賞者でもある、ハーバード・サイモン教授が1996年に発表した、『システムの科学(The Sciences of the Artificial)』と題された論文が拠り所となっています。

ここでは、ハーバード大学デザイン研究所(通称d.school)のハッソ・プラットナー教授が提唱する、『デザイン思考の5段階』という思考モデルを紹介していきます。d.schoolでは、実際にデザイン思考を授業でも取り入れており、非常に説得力があります。その「5段階」とは、次の5つです。

 (1) 共感 (Empathise) - ユーザーの行動を理解し、寄り添い、何が問題なのかを見つける
 (2) 定義 (Define) - ユーザーのニーズや問題点、みずからが考えることをはっきりさせる
 (3) 概念化 (Ideate) - 仮説を立て、新しい解決方法となるアイデアを生み出す
 (4) 試作 (Prototype) - 問題に取組み始める
 (5) テスト (Test) - 検証こそが解決方法

重要なことは、これらが(1)から順番に連続的になされるのではなく、5つの段階は同時に行われたり、互いに影響したり、行ったり来たり、繰り返されたりすることです。順番にプロセスをたどらなければならないということはありません。連続した手順ではなく、問題を解決するための包括的な考え方だと捉えるのがよいでしょう。

「デザイン思考」がそのように呼ばれるのは、デザイナーがサービスやプロダクトを作る過程と関係しています。デザイナーは、まずデザインし、優れたデザイン方法を学び、教えあい、人間中心的なアプローチで自らを表現し、問題を解決していきます。そして、こうした一連の流れは、もちろんデザインだけでなく、ビジネスや自分たちの日常生活にも活かすことができます。

「箱の外」で考える

「デザイン思考」はよく、「箱の外」で考えるのに似ている、と例えられることがあります。それは一体どういうことなのでしょうか。

「デザイン思考」が「箱の外」で考える方法だと言われるのは、デザイナーが従来の問題解決方法では解決できない問題を新しいイノベーティブな方法で解決しようとすることに由来しています。箱の外で考えるということは、これまで通用していた常識や多数派を占める考え方を、客観的な視点で分析し、「それが実現可能かどうかに関わらず」別のやり方を証明しようとすることです。

「デザイン思考」の代表的な事例として挙げられるのが、AppleのiPodです。開発体制として、社内のデベロッパーと社外のデザイナー、心理学者や人間工学の専門家など、35名が集結し、わずか11ヵ月の短期間で開発が行われました。

いままでの常識では、音楽は小型のCDプレイヤーやウォークマンを持ち運んで楽しむ、というのが常識でした。Appleではまず競合他社の製品分析とユーザーがどのように音楽を聴いているのかを徹底的に観察・分析することから始まりました。

そこから、ユーザーの多くがCDからコンピュータへ音楽を保存し、それをプレイヤーに移すということを手間に感じていることがわかり、「いつでもどこでもその場で選んだ音楽を聴きたい」というユーザーの潜在的なニーズを発見しました。そこから、「すべての音楽をポケットに入れて持ち運ぶ」といったコンセプトが生まれ、回転する円盤で画面操作ができるスクロールホイールやiPodとコンピュータを自動同期させるオートシンクなどの斬新なアイデアも生まれました。

組織的な開発を行う際は、世間の常識や社内や業界にある見えないしがらみから身を外すことが重要です。これまでのように誰かが作るべきものを提示し、それを作る、という時代から、ユーザーの潜在的な問題を発見し、それを試行錯誤しながら解決していく方法に変わりつつあります。

5段階の相互作用

「デザイン思考」の5段階は、段階的・直線的ではなく、相互に関係するということは、先ほども述べました。これは純粋に、プロダクトデザインは一人ではなくチームで行うということも関係してきます。多くの場合、チームを作り、結果をレビューし、仮説を検証し、さらにまたレビューを行うというサイクルを回します。その結果、チーム内でも、試作品を作ったことで新たなアイデアが生まれたり、検証からまた新たな発想が浮かんできたりします。

まとめ

もともと「デザイン思考」は、デザインに関する問題解決方法として捉えられてきました。
しかし、今では様々な職業の人がデザイン思考の可能性を認識し、自らのビジネスや人生をより豊かにしようと、たくさんの人が取り入れています。デザイン思考とは呼ばれていますが、デザイン関係者も、そうでない人にも、可能性を広げてくれる考え方です。

"検証しては作り直す"というプロセスには、ある種の泥臭さも必要です。しかし、ただ作っては壊すだけの方法では限界があります。そんな時に、5つの段階を活用した考え方は非常に参考になります。

ぜひご自身の仕事にも、デザイン思考を取り入れてみてくださいね。