企業が自社のブランドを確立することは、利益アップや人材の確保など、様々な点で優位に立つことにつながります。

しかし近年は、消費者のニーズも多様化し、日々変化しています。時には、今まで築いてきた分野でのブランドイメージを越えて、新たな事業へ乗り出すことも必要になってくるでしょう。

そんな時に、成長戦略として語られる方法の1つに「ブランド拡張」というものがあります。

今回は、ブランド拡張とはどのような方法か、そしてメリット・デメリットに加え、実際の事例を交えて解説します。

ブランド拡張とは

ブランド拡張とは、ある製品やサービスによって明確に認知されたブランドを、他の製品や、別のカテゴリに拡張することを指します。

ブランド拡張の具体的な例としては、ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下、ディズニー)を挙げることが出来るでしょう。

ディズニーは、映画やテーマパーク、ホテルなど幅広い分野にそのブランドを拡張しています。
テーマパークに関しても、ディズニーランドからディズニーシーへの拡張が行われており、ブランド拡張の分かりやすい例であると言えます。

なぜブランド拡張が求められるのか

では、なぜブランド拡張は行われるのでしょうか。

まず、ブランドの拡張によって、事業機会の拡大が可能になります。

幅広い分野にブランドを拡張することによって、獲得できる顧客の数も増えることが予想されます。
そのため、事業成長を目指す上でブランドの拡張は有効な選択肢の1つです。

また、ブランド拡張は、既存のブランドを活かして新事業を展開することを意味します。

そのため、新しく作る製品やサービスに関して、新規でブランドを立ち上げるよりも費用や時間的なコストなどを抑えることが出来ることもメリットと言えます。

ブランド拡張を行う上での注意点

一方、ブランド拡張を行う上では、注意しなければならないこともあります。

それは、ブランド全体のイメージに影響を与えてしまうことです。
つまり、ブランドを拡張して行われた事業が失敗すれば、もともとのブランド自体に悪影響を及ぼす可能性があるのです。

ブランド拡張の類型

ブランド拡張には、様々なパターンがあります。企業がどのような方向性で拡張を行うのかによって異なります。

その中からいくつかのパターンをご紹介します。

既存のブランドを異形態にするパターン

既に販売している製品を、別の形で展開する方法です。
食料品のカテゴリなどでよく用いられます。

使用される場面を軸として拡張するパターン

消費者が使用する特定の場面において、製品のブランドを拡張する方法です。

例えば、スポーツブランドが、特定のスポーツに関して様々な製品へとブランドの拡張を行うなどが挙げられます。

専門の技術や知識を使った拡張

専門性の高い技術を、既存の事業から他の新事業へと転用する拡張方法です。
機械系や化学系の企業が、自社の技術を用いて新しい分野の事業を展開するといったことが考えられます。

参考:
ブランド拡張とは・意味|MBAのグロービス経営大学院

富士フイルムの事例に学ぶ、ブランド拡張成功のポイント

上述したように、ブランドの拡張には様々な類型が存在します。そうしたなかでも、専門の技術を利用して新しい分野へのブランド拡張を行ったのが、*富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)*です。

富士フイルムは、デジタルカメラなどが普及した影響で、従来の写真フイルムによる事業から、新たな分野への参入に迫られます。そして、化粧品というジャンルにおいて、見事市場の開拓に成功したのでした。

こうした富士フイルムの事例を通して、ブランド拡張を成功させるためのポイントを考えます。

自社として明確な強みがある

富士フイルムには、長年培ってきた写真フイルムの技術がありました。
市場の動向に変化が起こっても、自社として持つ技術の専門性、独自性は変わりません。

このような明確な強みを持っていることが、ブランドの拡張を成功させる前提として、1つのポイントと言えるでしょう。

既存の事業における強みを活かせる分野の選定

前述したように、富士フイルムには、写真フィルムによって培われた、膨大な技術的な知見がありました。

そしてその技術が、化粧品分野に応用できる可能性を導き出し、独自の化粧品開発へと乗り出すのでした。

そこから学べるポイントは、自社の持つ知見を再度整理し、これまでの事業の分野に引きずられることなく、共通点を持つ分野を探したことです。

化粧品分野は、今までの事業とは全く異なる未知の分野。しかし、そこにある確かな共通項を見つけ出し、自社ならではの強みを発揮できる形を探し出しました。

こうした取り組みから、正確に自社としてもつリソースを把握し、それを他社と差別化する形で別の領域へと利用することの重要性を学ぶことが出来ます。

消費者のブランド連想を正しく把握し、新製品をアピールする

富士フイルムからは、製品の開発だけでなく、ブランド拡張に際するマーケティングの独特な戦略も学び取れます。

それが、消費者が持つ自社のブランド連想を把握した上で、戦略を決めることです。

ブランド連想とは、消費者がブランド名を聞いた時に連想する、全てのものを指します。自社のロゴや扱う製品のジャンル、製品に対して抱く感情なども含まれます。

富士フイルムはこうしたブランド連想を上手く利用した戦略を立てました。

あえて富士フイルムという、写真フィルムを連想させる従来の社名を前面に押し出すことで、あえて相手に疑問を持たせたのです。

写真フィルムの会社がなんで化粧品を作るのか?

従来のブランド連想との乖離から生まれるこうした疑問。これを逆手に取り、顧客の興味を引きます。

そしてそこから自社の技術力、それによって効果の高い化粧品を提供できる、というストーリーを伝えたのでした。

こうした事例は、自社のブランドが、顧客にどのようなイメージを持たれているのかを正しく把握することの重要性を示唆しています。

そして、そのイメージに対して、先回りして伝え方をデザインすること。こうした点もブランド拡張を成功させるポイントだと言えるでしょう。

参考:
富士フイルムだからできた、オンリーワンの化粧品 | 富士フイルム