先輩や上司に対して臆病になってしまう、なかなか自分の意見を言えない、という方は多いのではないでしょうか。確かに、発言ひとつが評価につながるかもしれない、怒られるかもしれない、そんな不安があったら簡単にリスクを負うことはできません。

いっぽうで上司は、もっと意見を言ってほしい、色々なアイディアを歓迎したい、と思っているのも事実です。こういったケースの場合、先輩や上司が少し変わるだけですべてが解決する可能性があります。

メンバーから一向に反応が返ってこない現状に、孤立を感じるリーダーもいるのではないでしょうか?まずは日常のコミュニケーションを変えていくことが大切です。

今回は、「伝え方」と「受け止め方」に2点にフォーカスしていきましょう。

「期待」を抱いているのに「怒り」で表現はもったいない

「伝え方」を変えるだけで、相手への印象は180度変わります。ただ単に「何でそんなこともできないんだ!」と言うのではなく、相手をリスペクトしつつ、成長を促すような言い方に変えていきましょう。

たとえば、同じことを伝えるにしても「俺はこうやったら成功したから試してみてよ」と言われれば、「怒られた」と感じるのではなく、「応援されている」や「サポートされている」と感じますし、そうすれば自分も「そうか、じゃあ頑張ろう」と前向きになれる事も多いです。

本来は、できるようになってほしいという「期待」を抱いているのに、それがうまく伝えられず「どうしてできないんだ」という「怒り」で表現してしまうのは実にもったいないことです。

相手はリーダーの「期待」を感じるどころか、「嫌われている」「評価されていない」と思ってしまうかもしれません。また、圧力を加れば加えるほどリーダーの威厳は増すかも知れませんが、孤立を強め裸の王様になってしまいます。

「批判・攻撃・文句」などの感情の吐き捨てではなく、「提案・アドバイス・励まし」に変えていくこと、それだけでも大きな変化が生じるはずです。「私も昔は君と同じところでつまずいていたんだよ」と自分の失敗談なども交えれば、近寄りがたいイメージも払しょくされ、より親近感を持ってもらえることでしょう。

「孤独」と「孤立」の違いを知る

もう1つ、リーダー側が意識しなければならないポイントがあります。それは「受け止め方」です。

リーダーの皆さんは部下から進言や提案されたとき、どんなふうに受け止めていますか?その受け答えの仕方や何気ない一言で、メンバーの気持ちがプラスにもマイナスにも作用します。

進言の内容によっては、まるで自分のやり方にダメ出しをするような真逆の提案を受けることもあるかもしれません。「俺のやることにケチをつける気か」「部下のくせに生意気な」というような感情論が心の中で湧いてくるときもあるかもしれませんが、そんな時、持論をたたみかけて論破するのは控えましょう。

なぜなら、進言や提案してくれる部下は、リーダーにとって貴重な存在だからです。ただでさえ上司というのは、部下の本音を引き出しにくく、裸の王様になりやすい立場です。勇気をもって面と向かって提案してくれたメンバーは、本当はありがたい存在なのです。

私が横浜F・マリノスのコーチをしていた頃、当時社長だった斎藤正治氏からこんなことを言われたことがありました。

「リーダーは孤独だけど、孤立してはいけないんだよ」

なぜ、その言葉を私に言ってくれたのかはわかりませんが、この記事を書きながらふと思い出したフレーズです。リーダーは、重要な決断を迫られる立場です。

また、誰にも相談できないような重たい内容のことも多々あるため、1人でプレッシャーを抱え込み、孤独だと感じることも少なくはないはずです。しかし、勘違いしてはいけないのは、「孤独と孤立は違う」ということです。

組織の中で孤立した上司は、メンバーから多くの情報、アイディア、選択肢を吸い上げることができないわけですから、当然いい決断ができるはずがありません。最後の決断は自分1人でするものですが、アンタッチャブルな存在になってしまうのは良くないのです。

メンバーからすれば、上司に「失礼があってはいけない」と意識するのは当然のこと、ただでさえアンタッチャブルになりやすいのが上司の宿命です。そんな存在にならないためには「俺はいつでも話を聞くよ」という姿勢を見せ、常にドアはオープンにされたうえで、否定から入らずにいったん受け止める姿勢が必要です。

メンバーからの提案をすべて「受け入れる」ことはできなくても、「受け止める」ことはできるはずです。

進言してもらいにくい立場であり、陰口さえ言われているかもしれないわけです。だからこそ、どんなことであれ、メンバーからの情報、提案、進言に対してリーダーは人一倍に敏感でなければなりません。

感情論で「俺に指図する気か!」と思うのではなく、むしろ、チームの成長のために提案してくれた勇気あるメンバーの行動をリスペクトし、感謝してください。

自分の考えとは違う、と思っても受け止める

横柄な態度をとり続ければ、いずれ部下から総スカンを食らい、孤立します。そうならないためにも、情報・提案・進言に対して否定から入らず、相手の意見を受け止めてみましょう。

自分の考えとは違うと思っても、いろいろなアイディアを受け止める寛大さ、「私の意見とはちょっと違うけれど、そういう考え方もあるよね」とか「そうか、俺とは違う発想だけど、行き詰まったときにそれを参考にさせてもらうよ」というように、否定ではなく受け止める姿勢を見せるだけで、部下から信頼を得ることができるはずです。

部下の声が耳に入らない裸の王様になってしまい、本当のことを誰も言ってくれずに後で恥をかくよりも、部下の声に耳を傾け、感謝の心を持つことがなにより大切なのです。

「そんな態度ではリーダーとしての威厳が保てないのではないか」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、せっかくの提案を突っぱねて威厳を示したとしても、メンバーには不満しか残りません。むしろ大きな心で受け止める姿こそ、メンバーからの信頼を集めることになるでしょう。

サッカー元日本代表監督、現FC今治オーナーの岡田武史氏は、J1横浜F・マリノスの監督時代に、Jリーグ連覇の偉業を達成しました。その時コーチを務めていた小坂雄樹氏(現在は浦和レッドダイヤモンズ トップチームコーチ)が、以前私にこんな話をしてくれました。

岡田さんはその当時、すでに1998年フランスワールドカップを率いた経験のある偉大な監督であったにも関わらず、20代の駆け出しコーチだった小坂さんにも色々と意見を求めたそうです。

「おまえはどう思う?」「僕はこう思います」「なるほどな」という会話が日常だったそうです。小坂さんは「当時は自分も若くて、いまから思えば恥ずかしいような回答しかできなかったけど、岡田さんはいつも、なるほどな、と言って聞いてくれたのが本当に嬉しかった」と振り返っています。そんなリーダーが裸の王様になることはないでしょう。

また、小坂さんは「岡田さんは、お前の考えを聞きたい!と強調していた。私の意見を採用しようと思っていたとは思わないけど、お前もコーチなんだ、お前のチームでもあるんだ、という自覚を起こさせる狙いを持っていたと思います。

それに、日常的に意見を求められれば、色々なことにアンテナを張り、自分なりの意見を持とうとするし、発言することで責任感も生まれるしね」と続けてくれました。スタッフが日々やりがいと責任を感じて職務に向き合えば、仕事の質も高まるはずです。

まとめ

リーダーがオープンマインドな姿勢を示すことで、スタッフたちは安心して自分の意見を発言することができます。そうすれば、リーダーが孤立することも防げますし、スタッフもやりがいを感じて職務を遂行できることでしょう。

自分と違う意見にアレルギーを示して批判・攻撃していては、リーダーの想定を超えるようなチームは絶対に生まれません。チームの素晴らしいところは、違う意見を認め合い、新たな発想を得ることで、リーダーの想定をはるか超えるような化学反応が起こる点です。

すべての意見を受け入れことはできなくても、受け止めることはできます。ぜひ、職場でも生かしてみてください。