働き方改革のおかげで、リモートワークなど多様な働き方が推進されていますが、その中でもチームワークを意識して仕事をすることは大切です。

とりわけ、デザイナーという仕事は閉鎖的になりがちですが、デザインコラボレーションの考え方を導入するだけで、大きな成果を得られることがあります。

今回は、さまざまな企業や組織で取り入れられているデザインコラボレーションのポイントと役立つツールをご紹介いたします。生産的なツールを活用しながら、チームビルディングにご活用ください。

デザインコラボレーションとは?

*デザインコラボレーション(Design Collaboration)*とは、デザイナーが一人でデザインするのではなく、複数のデザイナーで作品を作り上げるプロセスのことを言います。

テクノロジーの発展により、クラウドでアセットを管理したり、リモートワークが可能になったことで離れた場所でも複数のデザイナーがコラボレーションしやすくなったため、デザインコラボレーションはデザイナーの仕事の標準となりつつあります。

もちろん、デザインコラボレーションは昔から行われており、真新しいものに感じないかもしれません。しかし、昔はメールでデータを送信しながら*「デザイナーA」が作成したデータを「デザイナーB」が修正をかける*、といった単方向的なコラボレーションでしたが、現在ではテクノロジーの発展により、リアルタイムでチャットをしながら同時にアセットをデザインすることが可能になりました。

なぜデザインコラボレーションが必要なのか?がわかる6つのキーワード

もしあなたが独創的で唯一無二のスキルを持ったデザイナーなら、デザインコラボレーションをあえて取り入れる必要はないと考えるかもしれません。むしろ、一人で作業していたほうが効率が良いと感じるくらいでしょう。

しかし、そうした意見があることも踏まえて、あえてデザインコラボレーションを取り入れる現場は以前に比べて圧倒的に増えています。その答えを探るために、「A designer's guide to collaboration」を参考に、6つの重要キーワードを確認していきましょう。

1. モチベーション

デザイナーにとって最も致命的なことのひとつは、デザインのアイデアが急に湧かなくなってしまうことです。もちろん、デザイナーも人間なので、デザインが温泉のように湧き出ることもあれば、全く何も思い浮かばないことすらあります。そうすると、モチベーションも下がってしまいます。

しかし、スピード感を持っている組織の場合、停滞して足踏みをするよりも、少しでも前進したいものです。

デザイナーがチームでコラボレーションを行うのが仕事の前提となれば、メンバー全員がコラボレーションから何かを得ようとするようになります。また、チームメンバーは何か意味のあることをしたいと考え、結果的にモチベーションが上がりやすい環境になります。

2. コミュニケーション

デザインコラボレーションを成立させる必要十分な条件として、コミュニケーションが挙げられます。

疑問や改善のアイデアなど、思いついたものはどんどん意見を発信していくことが、デザインコラボレーションでは大切になります。リアルタイムで意見交換をすれば、後から表出する意見のすれ違いを避けることも可能になります。また、リーダーがコミュニケーションによって正しい方向に導けば、最短距離で最高のデザインを完成させることもできるでしょう。

3. 多様性

コラボレーションのメリットとして、多様性も挙げられるでしょう。

一口に優秀なデザイナーといっても、スキルや素養の範囲は人によってバラバラです。デザインチームに多様な人材がいればいるほど、一人では考えつかないようなデザインアイデアを生み出すことができ、結果的に目標以上の成果物を完成させることができます。

4. シェア

コラボレーションを成功させるために、情報やアイデアのシェアも欠かせません。

不思議なことに、従来型のデザインの現場では、デザイナーは自分が作ったデザインを自分の功績や成果物にしたがります。しかし、チームに完全にコミットし、オーナーシップの位置付けを変えるだけで、チームでのデザインコラボレーションの可能性は一気に広がります。

デザイナーは元来、1人でデザインしたい生き物です。自分のデザインセンスやスキルを信じているからです。しかし、そうしたスキル・センスを*「所有」から「活用」に変えていく*ことで、デザインコラボレーションの成功は加速すると言っても過言ではないでしょう。

5. サポート

もう一つ、重要なことは、チームの助け合い、サポートの精神です。

個々のデザイナーがそれぞれで仕事をしていたときにも、危機に直面したらそれぞれの裁量で助け合いをしていたかもしれません。しかし、デザインコラボレーションで求められるのは、チームとして最高の成果物です。この前提があると、何か問題が起きた時にはチーム全員で助け合うようになります

また、目の前に困難がない場合でも、コラボレーションを行うグループの間には信頼関係が不可欠です。こうした信頼関係が構築されれば、円滑なデザインコラボレーションにすることができるでしょう。

6. 問題解決

学校で勉強した科目とは違って、デザインには正解がありません。そのため、答えのない問題に対して問題解決を行う必要があります。

こうした問題に、デザイナーは一人ひとり個々の最適解を模索してきたでしょう。しかし、チームコラボレーションでは、こうした問題に対してお互いの意見をマッシュアップしてチームとしての最良の答えを探すことが求められます。

参考:Designing Collaboration | How to structure, design and understand collaboration

4つのコラボレーションモデル

ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されたピサノ・ヴェルガンティ両氏の論文によれば、デザインコラボレーションには4つのモデルが存在すると言います。「開閉性」と「統治性」の2つの軸の掛け合わせで、コラボレーションモデルの性質が決まります。

開閉性

開閉性には、*「オープン」「クローズド」*の2種類があります。

オープンな組織は、誰もが参加できて、問題を誰でも提起したり、誰とでも意見交換をしたりすることができます。さらに、意見交換するテーマも自由です。

それに対して、クローズドな組織は、基本的にマネージャーやグループリーダーによって組織されており、一般的にオープンな組織よりも少数な場合が多いです。特定のテーマやプロジェクトで仕切られており、大抵は明確な目標を持っています。

統治性

統治性には、*「フラット」「ヒエラルキカル」*の2種類があります。

フラットな組織では、すべてのメンバーが意思決定プロセスに関わります。もちろん、問題が発生したときには、全員で問題解決を行います。さらに、何かを決済するには基本的に全会一致で行います。

それに対して、ヒエラルキカルな組織では、ある特定の選抜されたメンバーや組織が、意思決定を行います。課題やタスクは意思決定者によって定められます。チームメンバーは、ヒエラルキーの中で自分の達成課題を持ちます。

*「開閉性」「統治性」*の2つの軸から、以下のようなモデルが出来上がります。

「オープンでヒエラルキカル」な組織では、誰でもチームに寄与することができますが、明確な担当者によってプロジェクトが進められることが求められます。「オープンでフラット」な組織では、リーダーが不在になりがちかつ明確な目標が決まらない場合が多くなるので、コラボレーションの進め方に注意が必要です。

一方、「クローズでヒエラルキカル」な組織の場合、Appleでいうスティーブ・ジョブズのように強力なリーダーシップのもとでデザインプロセスが進められることになりますが、自由なアイデアが阻害される恐れもあります。「クローズでフラット」な場合には組織などによって選ばれた数名のメンバーが対等な形で意見交換をする形になるので、プロフェッショナルを揃える場合には最適です。

このように、コラボレーションモデルは性質によって組織の性格が正反対に変わってしまいます。自分たちの組織がどこで、どうあるべきか、コラボレーションモデルの図をもとに考えてみましょう。

参考:Which Kind of Collaboration Is Right for You?

コラボレーションで役立つ5つのツールをご紹介

それでは、ここからはデザインコラボレーションに役立つツールをいくつか紹介させていただきます。

1. Prott

Prottは、株式会社グッドパッチによって開発されているプロトタイピングツールです。

Prottでは、Sketch上で利用できる プラグインを提供しており、Sketchで作成したデザインデータを同期することで、簡単にPrott上で確認することができます。モバイル端末でも簡単にデザインを確認できるので、モバイルアプリを作成する際にはぜひ活用してみましょう。

2. Wake

WakeはSketch・Photoshop・Illustratorに対応した、シームレスなコラボレーションを可能にするツールです。

「@ユーザー」や「#タグ」といったリプライやタグ付けも可能で、フォルダ分けしなくとも直感的にデザインを行えます。フィードバックも1箇所で、iPhoneアプリを使えば通知によってチームメンバーの作業を知ることもできます。

3. universions

universionsは、株式会社ユニマルによって開発されている、Webクリエイターのためのファイル管理コラボレーションツールです。

Web開発にとって不便なのは、試作品を置いておくサーバーやデータベースの存在です。universionsでは、共有の試用サーバーを使うことができるので、開発がスムーズになります。また、バージョン管理も行なっているので、開発状況を確認したり、前のバージョンと比較したりすることもできます。

4. Lingo

Lingoは、チームコラボレーションのための、アセットライブラリサービスです。

この画像はどこのフォルダに入れたかな?と分からなくなってしまうのであれば、Lingoにアセットを統合してしまいましょう。カラーパレットからアイコンまでさまざまに保存できるので、活用しない手はないでしょう。

5. Adobe XD

Adobe XDWebサイトアプリのデザイン、プロトタイプの作成や共有を1つで行えるUI/UXツールです。

Adobe XDにはコラボレーション機能が取り入れられているので、複数のデザイナーやディレクターによって共同作業を行うことが可能です。固定のレイアウトにインタラクティブな処理を施すことができるので、作成したプロトタイプをチーム内で共有すれば、すぐにフィードバックが得られるでしょう。

まとめ

一人でデザインするのではなく、チームでコラボレーションしながら一つの目標に向かってデザインすることで、最短の時間で最高の成果物を作ることができるようになります。

また、コラボレーションモデルを意識することで、これまで見えてこなかった問題を発見し、チームビルディングに生かすことができるでしょう。ご紹介した5つのツールも活用して、最高のチーム環境を作り上げてみてはいかがでしょうか。