いきなり論拠となる情報を集めるのではなく仮説を立てる

モリ:
実際に文章を書く時は、「伝えたいメッセージが決まっている」こともあります。メッセージを伝えるために、色んな情報をリサーチしたけれど上手くまとまらない、という悩みをよく聞きます。

田辺 氏:
論拠となりそうな情報をいきなり調べるのではなく、まずは仮でいくつか論拠を書き出してみることが大事です。

モリ:
仮の論拠を書き出すというのは?

田辺 氏:
なかなかイメージがつかないですよね。それでは、別の問題に挑戦してみましょうか。

質問2:あなたは親戚の高校2年生の子に、「将来は、優秀な研究者になりたい。どうすればよいか?」と聞かれました。それに対して「とにかく東大に入るべき」と思っているとします。その親戚の高校生に納得してもらうために、どのように説明しますか。データも併せて提示してください。

モリ:
説得の仕方は色々なパターンがありそうですね。

田辺 氏:
そうですね。あくまで例題なので、実際に東大に入ることが正しいかはさておき、この場合の伝えたいメッセージは「とにかく東大に入るべき」です。まずはこのメッセージをサポートする論拠を仮で置いてみる。たとえば、「研究開発の施設が他の大学よりも充実している」ということが言えれば、メッセージを補強することができますね。論拠の仮説を複数あげ、その仮説が正しいかどうかをリサーチしていきます。

モリ:
仮説を出した後に、「研究開発の施設が他の大学よりも充実している」が正しいかを調べていくわけですね。

田辺 氏:
そうです。いきなり調べ始めてしまうと、時間が無駄になってしまうこともあります。まずは仮説を立てて、どういった情報を調べなければならないかアタリをつけることが大切です。

モリ:
調べてみて、その論拠を示せなかった場合はどうするのでしょうか。

田辺 氏:
その時には、他の論拠によってメッセージを示すことができないか、視点を変えて考えます。メッセージの正しさを示せそうな論理展開を思いつけば、その論拠が正しいかを判断するためのfactを探すために、リサーチをします。基本的にはこの繰り返しですね。

ただ、どれだけ調べてもメッセージの正しさを示せるfactが出てこない場合には、そもそものメッセージが誤っている可能性があります。その時には、得られている情報から考えられるメッセージを仮説として置き、同じようにそれを示すための論理構造、必要な論拠を考えます。そして再び、factを探すためにリサーチを行います。

モリ:
サービス開発における、仮説検証のプロセスと近い印象を受けました。

田辺 氏:
近いと思います。「こういうfactがあるんじゃないかな?」と考えながらリサーチを繰り返したり、得られたfactから「正しいメッセージはこうなんじゃないかな?」と考えて更新したりというサイクルを回していきます。

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モリ:
仮説を設定する時に気をつけるべきことは何かあるのでしょうか?

田辺 氏:
ある程度、現実的に示せることや、人が納得してくれるであろう論拠を基にして論理を組み立てることが求められますね。少し調べたくらいでは示せない場合でも、複数の情報を組み合わせることで、かなりの部分は論拠を作ることができたりもします。ですが、それでも示すのが困難な事象はあるかと思います。無理やり理屈をこねくり回しても、人が納得してくれなければ全く意味がないですしね。

モリ:
他に気をつけることはありますか?

田辺 氏:
帰納法の場合、論拠を揃える際に大事なのは、MECE感をもたせることです。MECEとは漏れなくダブりなくの意味です。よくロジカルシンキングなどの本に載っているので、ご存知の方も多いかもしれません。

あくまでも目的は、人に納得してもらうことであり、一分の隙もなく論拠を積み上げることではありません。読み手が「論拠に抜け漏れがないな」と感じられれば十分です。

モリ:
どうすればMECE”感”を出せるのでしょうか?

田辺 氏:
状況に応じて適切なフレームワークを使うことです。既存のフレームワークがある場合にはそれを使えば良いですし、ない場合には、自分で作ります。

たとえば、上記の帰納型ではヒト・モノ・カネの観点で論拠を揃えています。これは、いわゆる経営の3要素のフレームワークを適用していますが、オリジナルな枠組みとして「入学前 / 在学中 / 卒業後」のようなものを自分で作って論拠を揃える考え方もあり得ると思います。ポイントは、既存のフレームワークを無理やり当てはめることを考えるのではなく、人が納得してくれそうな適切な枠組みを考えることですね。

モリ:
たしかに上記の例では、時系列順に入学前、在学中、卒業後の3つの観点から論拠が揃えられていると、納得感が高くなりそうですね。

【田辺さんによるポイント整理】
 ・メッセージをサポートする論拠を仮で置き、その仮説が正しいかどうかを示すために、factを探す。見つからなければ、他の仮説を設定して、再度リサーチを行う。このような仮説検証のサイクルを回すことが重要。
 ・帰納法の場合、論拠を揃える際にMECE”感”を持たせることで、メッセージに説得力を持たせられる。そのためには、適切な枠組みを考えることが重要。