AI・人工知能は、テクノロジーだけでなく、マーケティングの領域にも変化をもたらしつつあります。それに伴い、マーケターの役割はどのように変化していくのでしょうか。

2018年4月4日〜6日、東京ビッグサイトで、リードエグジビションジャパン株式会社主催「第2回AI・人工知能EXPO」が開催され、AI・人工知能に関する企業や研究機関など300社が商品やサービスを展示しました。

この中で、株式会社エクサウィザーズ代表取締役社長を務める石山 洸 氏は「マーケターはSF作家になろう」と語り、AIを利活用していく時代に必要とされるマーケターの素質について講演しました。

登壇者プロフィール

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東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。 株式会社リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせ売却した経験を経て、2014年、メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。静岡大学客員教授、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員。
引用元:第2回AI・人工知能EXPO|リードエグジビションジャパン株式会社

AIによって変わる、マーケターの役割

AIと聞くと、テクノロジー領域の印象が強いかもしれません。しかし、AIを搭載したマーケティングオートメーション(MA)が提供されるようになるなど、マーケティングの領域にも徐々に影響を与えつつあります。

石山氏は「人工知能で変わるマーケティング戦略」と題したセミナーで、「MA以外にも、よく考えてみるとAIが活用できる、という領域はまだたくさん残っている。そういう領域をいち早く見つけて参入できるセンスが、これからのマーケターに問われるようになる」と話しました。

これまでのマーケティングで使われてきたフレームワークに則るだけでなく、新しいフレームワークを自分たちで創り上げていく。これからのマーケターは、そうした「SF作家」のような存在になっていくことが求められるのではないか、と石山 氏は言います。

AI活用のための3つのプロセス

石山 氏によると、AIをマーケティングに上手く活用していくには、以下3つのプロセスを理解することが重要です。

1.データ入力
2.AI活用(プログラミング)
3.データ出力

「マーケター自身のスキルを応用することで、ホームページやPOSデータの解析といった領域から、より仕事の幅が広がる可能性が生まれてくるでしょう」(石山 氏)

1.データ入力

AIには、判断基準となるデータが必要不可欠です。

しかし「AIをつくるためのデータがない」「どのようなデータを集めればいいか分からない」という壁にぶつかる企業も少なくありません。石山 氏は、そんな時にこそマーケターの強みが発揮されると言います。

「データを獲得する力こそ、マーケターの強みだと言えるでしょう。適切なターゲット設定、ターゲットからのリアクションを分析するマーケターの能力は、AIに利用するデータの扱いに活かすことができます。もし社内でAI活用の話が出ている場合は、マーケターが積極的に手を上げてデータの獲得について提案してほしいですね」(石山 氏)

2.AI活用(Programming)

獲得したデータは正誤や重複がないか調べたり、修正したり(データクレンジング)してAIに学習させます。そこで必要となるのが、プログラミングや機械学習の知識・スキルです。

プログラミングや機械学習は、これまでは主にエンジニアやアナリストが扱ってきた領域でした。しかし、マーケティング領域にAIが活用されるようになるにつれて、マーケターにとっての重要性も増しています。

石山 氏は、マーケティング戦略の有名なフレームワークである「4P」に「Programming(プログラミング)」を加えた、「5P」を提唱しています。

Price:価格
Place:流通
Product:製品
Promotion:販売促進
Programming:プログラミング

「プログラミングができない方もいらっしゃると思いますが、専門知識がない方でもワンクリックで解析できるツールはたくさん提供されているので、それらを活用するのも一手でしょう。もしくは、今だとGoogleで検索するだけで、いくらでも学習コンテンツを見つけられます。気軽な気持ちで勉強してみるのもいいかもしれません」(石山 氏)

3.データ出力の活用が重要なスキル

集めたデータをAIを使って解析・学習した後、どのような出力(施策)を行うかが、AIを活用する上で最も重要なポイントだと石山 氏は語ります。

データ自体は、誰でも同じように集めることができる上、購入もできます。AIによる学習も、今ではオープンソースやクラウドサービスを活用することでハードルは下がっているといえるでしょう。

ただ、そのデータをどのように解釈し、どのような活用に繋げられるかは、一人ひとりの力量に関わってきます。

「AIは汎用的な技術なので、幅広く活用できる。それをより良い方向に導いていくことが、マーケターにとって重要なスキルといえるでしょう」(石山 氏)

マーケターに必要となる4つの「S」

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AI活用のための3つのプロセスを踏まえた上で、効果的なマーケティング施策を行うために、具体的にどのようなスキルが必要なのでしょうか。

石山 氏は、既存のフレームワークにとらわれない「SF作家」になるまでに、4つの「S」のプロセスが必要であるといいます。

1.SENSE(取材)

1つ目の「S」は、「SENSE(取材)」です。

AIは、集めたデータの学習や分析はできるものの、そのデータの中にどのような社会的課題が隠されているのかを把握することはできません。

そのため、データを扱うマーケターには、データの中にどのような課題が隠されているのか能動的に見つける力が必要です。

「ジャーナリストが情報の中から課題や意味を見出すように、ユーザーの課題やニーズ・ウォンツを見つけ出すことが求められるでしょう。(石山 氏)」

2.SF(物語)

2つ目の「S」は、「SF(物語)」です。

これまでに実現していなかったもの(SF)を創り出すためには、ただ自分の中でイメージするだけでは形になりません。周囲も巻き込み、実現までの可能性を見出す必要があります。

石山 氏は、AI活用によって、周囲にもSFを実現させる期待を持たせられるのではないかと考えています。

「例えば、『介護の問題を解決したい!』と言っただけではなかなか注目されませんが、『AIで(介護の)問題を解決したい!』と言うと注目されやすい。“AI”という言葉は、『困難な課題でも解決できそう!』という期待を持たせてくれる響きをもっているんです。(石山 氏)」

3.SHARE(発信)

3つ目の「S」は、「SHARE(発信)」です。

「1.SENSE」で見つけた課題を解決するために描いた「2.SF」の物語は、FacebookなどのSNSを使い、積極的に発信していきましょう。

SNSは元々は個人間のコミュニケーションサービスでしたが、今では企業も公式アカウントや公式ページを作り、BtoB領域とも強く結びついてきています。

インターネット上で広く発信することで、自社にないノウハウや資金、人材の調達も可能になります。

4.SHIFT(実現)

4つ目の「S」は、「SHIFT(実現)」です。

AIは、特定の技術でも様々な領域に広く活用できます。

例えば、AIの画像認識技術は建設業では建設現場、製造業では製品の問題を見つけ出す際に活用されています。さらにスポーツ業界では、プロスポーツ選手の身体の動きをAIに学習させ、初心者の動きに対して的確にフィードバックすることも可能です。

SHAREすることで集まった様々な人の能力や理想、想いを相互に尊重しながら新しい施策を実現していくことで、AIの活用領域はもっと広がっていくはずです。(石山 氏)

まとめ

今後は「価格」「流通」「製品」「販売促進」の「4P」にAIやデータを活用することで、石山 氏が提唱する「5P」のような、効率的・効果的なマーケティング施策が求められるようになるでしょう。

それにより、データを分析し、運用するといった業務はこれから自動化されていくはずです。しかし、それでマーケターの仕事が減ってしまうことはありません。

AIの役割が新しく生まれてくる中で、マーケターの役割は意味を変え、創造的になってくるはずです。既存の手法や施策を踏襲するだけでなく、今あるデータをどのように活用することで、どのような成果を生み出せるのか、柔軟に考えていく力も求められてくるでしょう。