ロゴは企業のアイデンティティの一部であることは言うまでもありませんが、企業の中にはオリジナルフォントを持っているところも珍しくありません。

その先駆であり、最も成功している例として頻繁に引き合いに出されるのは、ウォルト・ディズニーの例でしょう。ディズニーの独特な文字を見たら、そこにどんな言葉が書かれていてもワクワクするでしょう。

そこで今回は、テック界の巨人たちもこぞって採用する*「ブランドフォント」作成のメリットと実例7選*をご紹介します。既存のフォントを使うのではなく、あえてフォントのタイプフェイスを新たに作成するメリットはどこにあるのでしょうか?実例を交えてご紹介していきましょう。

「ブランドフォント」とは?

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引用:It's Nice That

ブランドフォントは、企業が自社製品やサービスに組み込むことを目的に、独自に作成した企業のオリジナルフォントです。GoogleやNetflixなどの海外のIT企業たちがブランドフォントを採用するのには、以下のような理由があります。

FedExでは「Futura」、Spotifyでは「Proxima Nova」など、まだまだ既存のフォントを利用しているケースも多いなかで、独自フォントを作るだけでブランドの差別化を図ることができます。また、通常はフォントを使用するのにライセンス料を支払う必要がありますが、自社でフォントを作成してしまえばライセンスコストもかからないというのもメリットです。さらに、フォント選びにかけていた余計な時間が短縮されます。

こうした点を背景に、昨今ではオリジナルのブランドフォント作りは非常に勢いのあるものとなっています。ここからは、ブランドフォントとして有名な「7つの事例」をご紹介しましょう。

ブランドフォント 7つの事例

1. San Francisco (Apple)

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引用:Introducing the New System Fonts - WWDC 2015 - Videos - Apple Developer

San Franciscoは、AppleがiOS 9.0からHelvetica Neueの代わりにシステムフォントとして採用されたフォントです。実際にはそれ以前にApple Watchのシステムフォントとしてすでに採用されていましたが、以後iOSやMac OS X “El Capitan”のシステムフォントとしても利用されています。

Helveticaシリーズは、大きいサイズではスタイリッシュで存在感を示すフォントとなっていますが、10px以下で非常に小さく表示したり、フィルターなどを使い加工をすると、非常に読みにくくなってしまうというデメリットがありました。San Franciscoはその点に関して非常に精巧に設計されており、この理由でApple Watchにも採用されたと言われています。iPhoneやiPadでロック画面に表示される時計もこのフォントをしようしています。

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引用:Introducing the New System Fonts - WWDC 2015 - Videos - Apple Developer

San Franciscoは1つの書体ではなく、「SF」シリーズと*「SF Compact」シリーズ*に分かれ、さらにそれぞれがテキストフォントディスプレイフォントに分かれています。「SF Compact」では、「o」や「e」のような文字が従来のフォントに比べてより縦長で直線を意識した形になっており、Apple Watchのような小さなデバイスでも可読性が高くなるようになっています。

また、AppleのWebサイトでは、一部の日本語に*「SF Pro JP」*という日本語フォントを使用しています。「す」や「は」のような文字が、やはり可読性が高くなるようにやや直線的なフォルムになっていることがわかります。

参考:
San Francisco フォントを探る
Apple の新フォント San Francisco の秘密

2. Roboto (Google)

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引用:Typography - Style - Material Design

RobotoGoogleAndroid 4.0からシステムフォントとして採用したフォントです。Google社デザイナーのクリスチャンロバートソン氏によって開発されたフォントです。Google Fontsでも一番最初に表示されています。

Googleはデザインガイドとしてマテリアルデザインガイドを公表していますが、マテリアルデザインのタイポグラフィの項目では、Robotoは英数字を中心に利用し、Robotoでカバーできないマルチバイト文字はNotoを使うことが推奨されています。ちなみに、Notoは「No tofu」の略で、文字化けする際に並ぶ「◻︎」(豆腐)を表示させないように、との思いで名付けられました。

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引用:Typography - Style - Material Design

RobotもSan Franciscoと同様に縦長で直線的になっており、「g」や「p」、「Q」や数字の「0」などの丸い円の部分が大きめに見えるように設計されています。また、「A」や「R」の空白部分にも特徴があります。

3. Youtube Sans (YouTube)

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引用:[Saffron]

YouTube Sansは2017年5月にYouTubeが公開したフォントです。新ブランドとして「YouTube TV」(日本未公開)を立ち上げる際に、デジタルエージェンシーのSaffronがYouTubeチームとコラボレーションで制作したフォントです。

YouTube SansにはLightウェイトも用意されていますが、標準のMediumウェイトでもやや太くなるように設計されています。「i」や「l」の尻尾の部分が右に曲がっていたり、「H」や「G」のエッジ部分が30度ほど斜めになっていたりしています。

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引用:Saffron

フォントと同時に、YouTubeの再生ボタンもリデザインされ、フォントの文字にまで加えられました。太くて目立つ文字は、白い背景でも存在感を表しており、YouTubeのブランディングに一役買っています。

4. SamsungOne (Samsung)

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引用:SAMSUNG ONE

SamsungOneは、韓国の電子機器メーカー大手サムスンが開発したオリジナルフォントです。サムスンは幅広い製品にSamsungOneを使用しており、ブランドアイデンティティの一つに加えたいようです。

スタイリッシュながらも、「a」や「g」の円部分はやや主張したデザインになっているのが特徴です。

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引用:The Verge

驚くべきことに、テック系オンラインメディアThe Vergeによれば、SamsungOneは25,000文字を収録しており、ハングルをはじめ400の異なる言語に対応しているといいます。世界中をマーケットにしている企業として、オリジナルフォントの開発はコストパフォーマンスも非常に高くなっています。

参考:
Design Story SamsungOne, the New Universal Typeface for Samsung

5. Segoe UI (Microsoft)

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Segoe UI(読み方:シーゴ)は、FacebookやInstagramでも使用されている、Microsoftで使われているフォントです。Windowsの新しいロゴにも採用されている、Windowsのアルファベット文字です。マルチバイト文字は「メイリオ」でカバーされます。

Segoe自体はMicrosoft社が開発したものではありませんが、フォントのライセンス競争の末に、最終的にMicrosoftの標準フォントになりました。「Q」のひげの部分がやや長めで伸びていたり、「?」のくねりに特徴があります。「E」や「S」はやや狭く、Helveticaに比べて幅に変換があります。

Windows 8ではいくつかの変更が加えられ、ヘブライ文字やアルメニア文字などもサポートされるようになりました。これからも存在感をアピールしていくフォントとして、さらなる拡充が期待されています。

6. Netflix Sans (Netflix)

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引用:It's Nice That

Netflix Sansは、Netflixが2018年3月に後悔したオリジナルフォントです。YouTube Sansと同じように太字で存在感のあるフォントデザインとなっています。企業のオリジナルフォント制作でかなりの実績があるイギリスのフォント制作会社Dalton Maagとのコラボレーションで生まれました。

Netflixがオリジナルフォントを作成するのはは、もちろん独自フォントを使うことでブランド力を向上させる目的もありました。しかし、それに加えて、Netflixはこれまで使っていたGothamフォントに対する巨額のライセンス料を支払わなければならず、独自フォントの開発で大幅なコスト削減を見込んでいます。

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引用:It's Nice That

パッと見ると他のサンセリフ書体と同じにしか見えないかもしれませんが、「t」の頭が30度ほどのカーブを持っていたり、「i」の上の丸い点がやや大きめになっています。今後は、映画作品でもNetflix Sansを見る機会が増えてくるでしょう。

7. IBM Plex (IBM)

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引用:Introduction | IBM Plex

IBM Plexは、IBMが新たに開発したバラエティ豊かなフォントファミリーです。

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引用:Introduction | IBM Plex

2018年で社歴107年にもなるIBMですが、紹介ページによれば、50年以上に渡りHelveticaを使用し、巨額のライセンス(毎年100万ドル、約1億1000万円)を支払っていたと言います。今回、IBM PlexはGitHub上でも公開されているオープンソースとして開発されました。npm(Node.js)でも以下のコードでインストール可能で、Web開発にも使用することができます。

npm install @ibm/plex

IBM Plexは現在96言語に対応しており、2019年には日本語・中国語・韓国語などの東アジア言語にも対応すると言われています。

まとめ

この7例からもわかるように、オリジナリティあふれる「唯一無二」のフォントを用意するだけで、ブランド力の大幅な拡大はもちろん、いままでフォント選びにかけていた時間やコストを大幅に削減することが可能になります。

自社でフォントを作成するためには、以下の点にも留意しておくとよいでしょう。

(1) 自社やサービスのブランドアイデンティティを徹底的に考える
(2) 既存フォントをベースに作成する
(3) タイムレスなデザインを心がける

特に重要なのが、3番目のポイントです。テクノロジー業界でセリフ書体が採用されにくいのは、使い方を間違えてしまうと*「どこか古臭いイメージを与えてしまう」*からです。20年後、50年後、100年後でも使える時代を感じさせないデザインにするように心がけましょう。