日常的に使っている「自立」という言葉、これはいったいどういう意味なのでしょうか?

一般的には、身体的自立、精神的自立、経済的自立など、自立にもいくつかの側面があると言われています。辞書的な意味では「自分以外のものの助けや支配を受けずに、自分の力でものごとを成し遂げていくこと」となっています。

しかし、チームワークという視点でみると、必ずしもそうではないと思っています。なぜなら、チームの場合は、良くも悪くもお互いに影響を与え合うからです。これはあくまで私個人の意見ですが、*チームの中での自立とは「効果的に仲間を頼ること」*と解釈しています。

辞書とは対極のようなことを書いて、まるで手抜きを容認しているような誤解が生じてはいけませんので、以下にその理由を説明していきたいと思います。

大きなことを成し遂げるには「効果的に仲間を頼ること」が必要

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十人十色という言葉のとおり、人は皆、育ちも好みもクセも価値観もすべてが違います。おそらく得意分野も苦手分野も皆それぞれ違うことでしょう。また、すべてのことを完璧にこなせるパーフェクトな人も存在しません。

それなのに、誰からの助けも受けずにものごとを成し遂げていくのは困難だと思うのです。もしできるとしたら、それはものすごく小さいことに限定されてしまうと思います。

大きなことを成し遂げようと思えば思うほど、あらゆる分野にまたがって仕事をしなければなりません。そのため、ますます1人では困難になっていきます。この考えが、先ほどの「自立とは効果的に仲間に頼ること」という言葉に繋がってくるのです。

個人で成し遂げることが困難な場合や、自分よりその分野に長けている人がいる場合は、シンプルに誰かを頼るべきなのです。苦手なことを1人でやり抜こうとすると、それだけで効率が悪くなります。延々と壁を越えることができないまま、単なる時間の浪費にもなってしまいます。それでも「1人でやり抜くことが大切か」と問われると、必ずしもそうではないと思います。

より自分の能力を発揮できる環境を作るために、「誰かを頼ろう」と自ら行動を起こすことも自立した人間だからこそできることだと思うのです(ただし、手抜きを容認しているのではなく、チームの要求レベルに達するための自己研鑽は必要不可欠です)。

頼ることで「WIN-WINの関係」になれればよい

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改めて、頼ることの良い面と悪い面を整理してみたいと思います。頼ることによって「お互い補完関係で成長できる」「より大きなことが成し遂げられる」、つまり「高度な依存関係を構築」できる場合は、頼るのも良いことだと思います。

一方で頼ることが良くないケースもあります。例えば大学生が、「俺の代わりにレポートやっておいて」と友達に頼むような、成長に繋がらない場合です。先ほど、「高度な依存関係の構築」と紹介しましたが、他の表現で言い換えてみると、ビジネス界でよく用いられる「WIN-WINの関係」に似ています。

強み・弱みを掛け合わせ最大限のパフォーマンスに繋げる

野球を例にとってみましょう。一般的に、1番打者は出塁率が高く足が速い人、2番は送りバントなどの小技が得意で得点圏にランナーを進められる人、3・4・5番は長打でランナーをホームに返せる人と言われます。

しかし裏を返せば、1番は長打が得意ではなく、2番には派手さがありません。3・4・5番は小技が利かないかもしれません。しかし、お互いにないものを補完し合い、強みを組み合わせて打順を決めていくと打線がつながり、チーム全員が勝者になれる可能性が高まります。4番打者が9人揃っても勝てない、と言われるのはそのためです。

サッカー元日本代表の秋田豊さんは、空中戦(ヘディング)がめっぽう強い屈強なセンターバックとして活躍しました。クラブでは、鹿島アントラーズで数々のタイトル獲得に貢献しました。そんな秋田さんは、「俺はヘディングで家を2軒建てた」とジョークを飛ばすほどヘディングに自信を持っていました。ところが実際は、秋田さんがその強みを生かすためにはもう1人のセンターバックとの相性が大切だったのです。

秋田さんは、「特に相性が良かったのは奥野(僚右)さん。奥野さんはセンターバックとしては小柄だったけどスピードがあって背後のスペースをカバーしてくれたから、安心してヘディングで相手に競り合えた」と言っています。

小柄な奥野さんを補うヘディングが得意な秋田さん、絶妙なカバーリングと知的な読みで秋田さんに足りなかったスピードを補う奥野さん、という構図は、単なる弱点に埋め合わせにとどまりません。強みを最大化し合う最強のコンビだったことが伺えます。

もしも秋田さんが、「自分以外のものの助けを受けずに、自分の力でものごとを成し遂げていくこと」という辞書的な意味での自立を目指したとしたら、不向きなことに時間を空費していたことでしょう。

頼り合うことで+αの力が生まれる

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仮に、誰かを頼らずに自分の力でやり遂げようとした場合、ぞれぞれ「3」のことしかできない2人がいるとします。しかし、先ほどの秋田さんと奥野さんの例のように、お互いが効果的に頼り合えば、弱みを補い合うことはもちろんのこと、強みも最大化させることができ、両者が「10」になるようになる関係性もあるわけです。これがWIN-WINの関係です。

これはスポーツだけに留まらず、すべての分野に共通することだと思いませんか。ビジネスにおいても、自分の強み弱みを理解したうえで、さらに上のステージに上るために誰かを頼ろうと考え、自ら一歩踏み出すことも1つの自立の姿なのかもしれません。

個人の能力差はあるにせよ、人は皆、1人では大きなことを成し遂げるのは困難です。だからこそチームの環境を整えて、もっともっとメンバーの能力を引き出すのが私の役割だと認識しています。

「なんでも1人でやること」が自立ではない

ここまで触れてきたことは、シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)で著名な井村雅代コーチの著書「結果を出す力」の中で書かれていた「もっとコーチを頼りなさい」という言葉とも重なると思っています。

井村さんは指導者として日本に山ほどのメダルをもたらしてくれました。また、2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピックでは中国代表コーチとして活躍され、日本以外の国のメダル獲得にも貢献されました。さらに、日本代表コーチに復帰した2016年リオデジャネイロオリンピックでは日本を12年ぶりのメダル獲得に導きました。もはや、だれもが知っている説明不要の名コーチです。

その井村さんの著書によれば、今の若い人たちは「自主性」を勘違いしている、何でもかんでも1人でやらなければならないと思っていると話しています。自分の考えだけでやり続けてもやがて壁にぶつかり、そこを突破することができない、そのためにコーチがいる。だからこそ、「もっとコーチを頼りなさい」とおっしゃっているわけです。

特徴の違うチームメイトと高度な依存関係を作り出す

繰り返しになりますが、完璧な人はこの世にいません。何かが得意で何かが苦手、そんな人が集まってチームを形成し、1つの目標に向かっています。なのであれば、お互いの強みをうまく組み合わせ、またお互いの弱みを補完し合うことによって、1人では成し遂げられないような大きなことにもチャレンジできる。これがチームなのです。

私なりの解釈をすると、チームの中で個人が自立するということは、「強みと弱みをしっかりと自己認識し、そのうえで特徴の違うチームメイトと高度な依存関係を構築することで、自らの強みを最大化し自己実現を果たしていくこと」ではないかと考えています。

また、そんなメンバーが集まって1つの目標に向かえば、おのずと良いチームができる気がします。人の成長・能力の開発・可能性の拡大に繋がる高度な関係性か、それともつながらない低レベルな関係性か、ひとことで「頼る」と言っても正反対の性質を持っていることに気づかされます。

まとめ:「自立」とは仲間を頼り自己実現に向かうこと

ビジネスでは当たり前に使われている「WIN-WIN」という言葉。なんとなく理解していたかもしれませんが、今回は「自立」という切り口から改めて整理してみました。

それは決して、お互いがぬるま湯に浸るということではありません。それぞれの武器を尖らせる努力をした上で、補完関係が重要だということです。

自分には強みもあるけれどできないこともたくさんある、という謙虚な姿勢のもと、真に自立した人間たちの高度な依存関係によって、お互いが自己実現に向かっている状態を「WIN-WIN」と呼ぶのではないでしょうか。

皆さんの職場にも当てはめてみてください。一緒に働くメンバー、クライアント、地域など、WIN-WINの関係を築けるとその職場はまちがいなく発展することでしょう。

また、WIN-WINの関係と似た言葉として、「共存共栄」「GIVE&TAKE」「持ちつ持たれつ」などがあります。いずれも、お互いの成長を大切にしながら使いたい言葉です。