2019年5月23日、外苑前アイランドスタジオにてスマホアプリ広告効果測定及びアドフラウド防止サービスを提供するadjust株式会社が2018年における世界のアプリ市場の状況を分析した結果を発表するGlobal App Trends 2019を開催しました。
Adjustは2012年にドイツ・ベルリンでCEOのクリスチャン・ヘンシェル氏とCTOのポール・H・ミュラー氏により設立され、現在世界15ヶ所にオフィスを展開しています。
Adjust社が自社のもつデータをもとに調査・分析した世界や日本の アプリ市場における傾向や国別の特徴について分析結果の発表がありました。Global App Trends 2019で紹介された世界や日本のアプリ市場に関する分析結果についてご紹介します。

登壇者プロフィール

クリスチャン・ヘンシェルAdjust共同創設者 兼 CEO(最高経営責任者)

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2012年に共同でAdjustを創業したヘンシェル氏のグローバルな事業展開により、Adjustは4年で黒字転換を果たしています。

ポール H. ミュラーAdjust共同創業者兼CTO(最高技術責任者)

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2012年に共同でAdjustを創業したミュラー氏は、テクノロジーの構築と拡大に取り組み、高品質な分析と効果測定、不正防止のためのソリューションを提供しています。

Global App Trends 2019とは?

Global App Trends 2019とは、Adjustが集約した世界の上位1,000のアプリ(2018年1月1日~2018年12月31日)を対象とした分析レポートです。
70億のインストール、1,200億のセッションからなるデータセットを基に調査しています。

このレポートでは、アプリのカテゴリー別に世界各国の特徴を比較しており、インストール数、継続率、セッション数、時間帯別使用状況なども掲載しています。
Adjust Global App Trends 2019レポートはこちらからダウンロードが可能です。

https://www.adjust.com/ja/resources/ebooks/adjust-global-app-trends-report-2019/:

また、今回のカンファレンスではレポートの分析結果に加えて、来場者限定で日本市場のデータが発表されました。
2つのレポートから見えてきたのは、日本市場の特殊性です。
特に違いが顕著な指標について、グローバルトレンドと日本のトレンドを比較しながらご紹介します。

世界市場について:インドネシアは急成長市場、日本は鈍化市場

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国別の成長スコアを比較したところ、2018年に世界でもっとも著しく成長した市場はインドネシアでした。2位以降にはブラジル、韓国、マレーシア、トルコ、中国と続く結果で、東南アジア市場におけるアプリの注目度が高かったことがわかります。

成長スコアはGlobal App Trends 2019より新たに追加された指標で、1ヶ月あたりのアプリインストール数をAdjust社のデータセットであるカテゴリーと国別に算出したMAUで割った数値です。
MAUあたりのインストールユーザー数が高いほど数値は大きくなり、高い成長スコアが算出されます。

インドネシアがスコア17.6と急成長を遂げたのに対し、日本は2.14と最下位の結果となりました。これは日本市場が既にある程度成熟しており、MAUがインストール数に対して高いためと考えられます。一方、インドネシアのアプリ市場が好調なのは、ビデオアプリとストリーミングサービスの人気が高く、広く普及したためと分析されます。また、インドネシアのインターネット利用料金は1GBあたり平均1.21ドルで非常に安価なこともアプリの伸びをけん引していると考えられます。

東南アジアに比べると日本のアプリ市場の鈍化が目立ちますが、成長が速いカテゴリーもあります。

世界ではモバイルバンキング、日本では音楽やカジノゲームの成長が速い

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▲世界市場で2018年に急成長を遂げたアプリカテゴリ。

同社のCTOであるポール・H・ミュラー氏は、
「もっとも速く成長しているカテゴリーを比較したところ、日本にはユニークな特徴が認められました。他市場ではモバイルバンキングの成長が著しかった一方、日本は音楽やカジノゲーム、配車アプリのカテゴリーで速い成長を見せたのです。」
と、説明しました。

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▲一方、日本市場においては急成長カテゴリに特徴が見られました。

成長スコアを比較すると、モバイルバンクの世界平均は2.37で、特に成長が著しかったブラジルでは6.67、トルコでは3.04と高いスコアを出した反面、日本は1.24に留まりました。アプリに費やす時間数を比較しても、トルコとブラジルのユーザーは1日のアプリ利用時間合計の1~3%を占める多くの時間をバンキングアプリに費やしていますが、日本は0.5%未満と最下位でした。

調査によると世界のバンキングアプリは2018年に30%増加しており、これはスマートフォンに対応する銀行が増えたことでユーザーの関心が高まり、利用の継続につながったためだと考えられます。
一方、日本は音楽(6.89)およびカジノゲーム(5.64)においては高い伸びを記録しており、世界とは異なるトレンドとなっています。

日本は世界に比べて、バンキングアプリの普及が遅れていると言えそうです。キャッシュレス化で世界に遅れを取っていることも、影響しているかもしれませんね。

続いて、継続率の観点でも比較してみましょう。

世界ではニュース、日本ではミッドコアゲームが30日後も離脱しにくいアプリ

アプリ数が増えて競争が激化している中、継続率を維持することはLTV(生涯価値)の観点でも重要視されています。
インストールから1日、7日、30日後のカテゴリー別継続率を比較したところ、総じて79%のユーザーはインストールから1週間以内に離脱するという結果が出ました。

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▲世界市場におけるアプリカテゴリ別の継続率

特に継続率が低いのはフードデリバリーで、インストール1日目の時点で16%のみの継続率となっています。ショッピング(25%)と旅行(20%)の継続率も低い傾向があります。このタイプのアプリは取引に焦点を当てたものであるため、ユーザーは同じ日にインストール、購入、離脱をすることが多いためです。

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▲日本市場におけるアプリカテゴリ別の継続率

一方、30日後も継続率が高いのはニュース(24%)と漫画(20%)で、日本でも類似した結果となっています。
日本に特徴的な結果ではミッドコアゲームの継続率の高さが挙げられます。30日目の継続率がAPAC全体でもっとも高く、12%の結果となりました。

Adjust創業者から見た日本市場の特殊性

Global App Trends 2019および日本のトレンドの発表に続き、質疑応答が行われました。

-日本市場の特徴や日本ならではの課題はなんですか?
ミュラー氏:
日本は明らかに固有の特徴がある市場で、西欧社会と比べて多くの違いがあります。
先ほどモバイルバンキングに関する違いについて言及しましたが、配車サービス、ライドヘイリングのアプリについても違いが見られます。
日本ではタクシーアプリのほうが人気ですが、世界的にはウーバー型のサービスのほうが人気です。
ゲーミングに関しても、日本ではRPG、シューティング、戦略ゲームといったミッドコアゲームが、西欧ではパズル、アーケード、シミュレーションといったカジュアルゲームがより好まれるという違いがあります。

ヘンシェル氏:
日本は女性のゲームユーザーが多いことも、主な特徴と言えます。
日本ではモバイルゲームを利用する人口の半数以上が女性です。
日本ならではの課題は、やはりフラウド対策ではないでしょうか。
日本のユーザーは高い価値を持っているため、エコシステムの中での不正も多く起こりえます。
そのため、アドフラウド防止のためのツールを使っていくことも大事です。

アドフラウド対策が進んでいる国はどこですか?
ミュラー氏:
これは国や地域よりも、一人ひとりのマーケターの洗練度に左右されます。
例えばサンフランシスコのベイエリアのように経験値の高いマーケターが集まっている場所もありますが、意識の高いマーケターなら、どこにいてもフラウドに対する意識が高いものです。
モバイル産業はグローバルな市場ですが、日本のマーケターは信頼してはいけないものを完全に信頼してしまっている危険があると感じます。
例えば、パートナーが不正にリセリング(再販)をしている場合にも、信頼してしまっているかもしれません。
だからこそ教育が大事ですし、不正防止に努めたいと考えています。
当社ではユーザーを対象にウェビナーやモバイルスクールを開催して、どのような脅威があるのか教育しています。
今後、日本でも重点的な教育を行っていきたいと考えています。
日本は非常に興味深い市場です。
ユーザーの価値が高く、文化的にアドバタイザーとネットワーク間の信頼を大事にするところがあります。
そのため、今後もアドフラウド防止ツールが採用される余地は十分あると考えています。

まとめ

今回はAdjust株式会社が開催するカンファレンスにおいて発表されたGlobal App Trends 2019および日本市場のデータをご紹介しました。

世界を取り巻くアプリ市場の現況と日本市場の特徴を、ざっくりと掴んでいただけたのではないでしょうか。

世界のトレンドを日本に持ち込むにはどんな工夫が必要なのか、また、日本で開発したアプリを世界に売り込むにはどうすればよいかなど、今後の戦略を考えるヒントにしていただければと思います。