PRという概念は一見マーケティングとは関係ないのではないかと思われがちです。しかし、マーケターにとって、PRの視点は非常に重要なもの。このインタビュー連載では、日本を代表する戦略PR専門家である本田哲也氏に、これからのPRについて伺います。

2回目は、「マーケターが持つべきPR視点とPRパーソンが持つべきマーケティング視点」です。

既存の認識を変えることがマーケターには必要_MG_5631.jpg

ferret:PR領域の方から見て、マーケターが持つべきPR視点はどんなものだと思われますか?

本田氏マーケティング領域で著名な方は必ず「PRは大事」ということをおっしゃっています。PRの理解が非常に深いですね。個人的にはマーケターがPRを理解することは、今後避けて通れないと思っています。

日本では「マーケティング=広告」という認識があります。本当はマーケティングの中にマーケティングコミュニケーションがあって、その中の一つが広告宣伝(アドバタイジング)であることが正しいのです。しかし日本では、マスCMをはじめとした広告宣伝が目立つし、マーケティングキャンペーンもほとんど広告で行われていたことから、マーケティング広告宣伝活動をほぼ同義に捉えている方が多い。

マーケティングを正確に説明すると、「新しい市場をつくることや新しい購買行動を起こすこと」です。今まで買われなかったものが、買われるようになることが本質なので、マーケティングは人を動かさなければいけません。最近特に重要なのが、あることに対する認識を変えていく「パーセプションのチェンジ」です。よく私も言っていることなのですが、現代はモノで溢れているので、新商品が出ても「この商品は私には必要なさそうだから買わなくていいや」「私はこんなライフスタイルを送っているから、この商品は関係ないな」と消費者は思います。

だから新商品が発売されたときに、「これからの生活にはこんな商品が必要」「新しい美しさとはこういうこと」と消費者の認識を変えなければいけない。新しいマーケットは認識を変えなければ出て来なくなってきているので、今の時代、マーケターの仕事はどんどん新しい商品を世に知らしめることよりも、既存の認識を変えていくことが避けて通れないと思います。それを担うのがPR視点です。

マーケターは社会的視点(PR視点)を

ferret:マーケターはどのようにPR視点を持てばいいのでしょうか?

本田氏:PRの分野は専門家やPR会社に任せておけばいいとマーケターが思っていた時代もありましたが、PRの発想で考えること自体がマーケティング戦略そのものになってくる場合が多いので、マーケターがPRを理解しているのとしていないのとでは戦略に大きく差が出てきます。

マーケティングの仕事している人は情報感度が高く、流行りものにも敏感でいろんなトレンドスポットに行くことなどを当たり前としてやっている方も多いです。しかし、ちょっと視野を広げていくと、案外、知識が乏しくなることもあります。

例えば、食べ物のマーケターだったら、食べ物や飲み物に関しては、普段から情報収集していて店によく足を運ぶのは当然です。化粧品のマーケターだったら、ドラッグストアにはプライベートでも調査しに行くし、美容雑誌は全部網羅しているというのも当たり前です。でもそういう人が社会的なニュースや報道をPR視点で見ているか、食べ物やスキンケアと関係ないところで起こっている社会の動きを自分の仕事と関連付けて見ているかというと、結構見ていない人の方が多い。今は消費者の認識を変えるときに、狭いところだけを見ていたらダメなんですよ。

例えば新しいスキンケア商品を買っていただくために、「今までのスキンケアよりこういう点で優れていますよ」と商品の利点だけを訴えかけても消費者の認識は変わらないかもしれない。しかし、「このブランドは多様性を大事にしていて、LGBTQの人たちにも支持されています」という方が、いいブランドだと思ってもらえる可能性があります。つまり、マーケターはスキンケアの情報だけを見ていてはダメで、社会の潮流にも敏感でなければならない。ジェンダーイコーリティーの話題が今日本ではどうなっているのか、政治家のマイノリティに対する差別的な発言に対してSNSがどう反応したかなど、世の中で起きているあらゆる事象を把握しなければいけません

これから求められるマーケターというのには、世間で話題になっていることやトレンドから、商品やサービスをどのようにしてアピールしていくかという勘所が必要になります。そうなると、もうちょっと社会全体を見ていなきゃいけない。それこそがPR視点です。