2019年も残りわずかとなりました。今年1年間で起きた時事問題やヒット商品、話題になった出来事を、2019年に誕生した傑作広告コピーと共に振り返ります。

広告コピーは限られた文字数の中で商品やサービスの特徴、魅力を伝えつつ、いかに共感を生んだり、感情に訴えかけることができるかか大切です。世間で話題になった出来事は国民の関心も高く、そういった世相は広告コピーにもたびたび影響を与えているのです。

幸楽苑 「2億円事件。」

今年は何かと「働き方改革」についての議論が国会やSNS上でも活発に行われ、改めて自身の働き方について考えた人も多いのではないでしょうか。小売店で言うと、大手コンビニエンスストアでも24時間営業を見直す動きが増えてきました。

幸楽苑.png
出典:幸楽苑公式HP

ラーメンチェーン店の幸楽苑では「2億円事件」と題した新聞広告を掲載。2018年12月31日15時から2019年1月1日いっぱい、フードコートの一部店舗などをのぞく「全店」を休業させるという内容でした。1月1日の売り上げは「およそ2億円」にのぼりますが、「働き方改革を、お正月にも」という社長の思いから、創業64年で初めて休業を決めたそうです。

この率先した働き方改革の実施を「事件」として大々的に宣言した広告コピーは、結果的に会社に対する好感度を高める効果を生み出し、売り上げが落ちるどころか、堅調に伸びたそうです。

P&G 「#令和の就活ヘアをもっと自由に」

働き方改革は「画一的」「没個性的」と批判されることも多い「就職活動」にも影響を与えています。
パンテーン.png出典:#令和の就活ヘアをもっと自由に - パンテーン(Pantene)公式サイト
株式会社P&Gのブランド「パンテーン」では、ひとりひとりの個性を尊重する社会を応援する「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」キャンペーンを昨年から実施。その第4弾として発足したプロジェクトでは、令和元年の内定式に向けて、139社の賛同企業とともに社会全体でひとりひとりの就活生の個性が尊重される前向きな就職活動が行えることを応援するという内容でした。

いままで就活のスタイルというとスーツに黒髪が当たり前でしたが、そんな常識を覆す「令和の就活ヘア」という新鮮なワードを含んだこの広告コピーは、「あなたらしい髪の美しさを通して、前向きな一歩をサポートする」というパンテーンのブランド理念もしっかりと反映されている点で優れています。

三井住友カード 「奇妙なモノを持ち歩いてるもんだ お金ってなんなんだろう」

2019年はQRコード決済を中心としたキャッシュレスが大いに盛り上がった年でもありました。各社のキャンペーン競争が激化したことや、10月の消費税増税にあわせて実施された経済産業省の「キャッシュレス・消費者還元事業」の実施などが要因といえます。
三井住友.png出典:三井住友カードCM「Thinking Man」『プロローグ編』
三井住友カードのCM「Thinking Man」シリーズでは、現在までに放送されている全4篇を通じて今まで信頼を寄せていた「現金」というものの気づかなかった側面や、逆にどんな風にキャッシュレスと使い分けていったらいいのか、など様々な角度からお金について考える機会を提供しています。

クラウド人事労務ソフトを提供する株式会社SmartHRは、改元のタイミングにあわせて「平成も終わるのに、なぜ、年末調整の手続きは昭和のままなんだろう。」といういわゆる煽り文句の広告コピーで注目を集めました。年末調整というと、数年前までは膨大な紙資料での手続き・管理が当たり前でした。その当たり前に疑問符をつけることで、顧客の意識的な部分の変化を促した広告コピーです。

阪急三番街  「甘いものパワー、今も昔も最強かも。」

今年大流行した飲み物といえば「タピオカドリンク」でしょう。タピオカドリンクを飲むことを意味する「タピる」は「新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、特に若い女性を中心に空前のタピオカブームとなりました。
一方で、タピオカ店にわざわざ並ぶ人々の行列を見ると、「なんでタピオカってこんなに流行ってるんだ?」と思う方も少なくないはず。その答えをいとも簡単に表現してみせたのが、阪急三番街に掲示されたこの広告コピーです。
タピオカ.png出典:阪急阪神ビルマネジメント株式会社
昔懐かしい「クリームソーダ」と今をときめく「タピオカドリンク」の画像を半分ずつ合わせており、その中心には「甘いものパワー、今も昔も最強かも。」の広告コピー。流行の時代は違えど、甘くて見た目も楽しめる飲み物はいつの時代でも人気がある、ということを表現しています。短い一文ながらも、一瞬で納得してしまう、インパクトのある広告コピーですね。

ラグビーワールドカップ2019 「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」

日本初開催の「ラグビーワールドカップ2019日本大会」は日本代表がアイルランドやスコットランドなど強豪国に相次ぎ勝利し、史上初の決勝進出、ベスト8を記録しました。「ONE TEAM」や「笑わない男」などは流行語にもなり、大きな盛り上がりを見せました。
ラグビー.png出典:ラグビーワールドカップ2019日本大会 公式HP
ラグビーワールドカップ2019™日本大会公式キャッチコピー「4年に一度じゃない。一生に一度だ。- ONCE IN A LIFETIME -」は、大会期間前から電車の中吊り広告や街頭のポスターなどでよく目にしたことでしょう。
「初めて」は二度とやってこない「一生に一度」の経験。あえて大げさとも言える表現を使用したことで、ラグビーについてあまり詳しくない人でも、少なからずその熱狂や興奮を感じることができるキャッチコピーといえます。広告コピーではターゲットとなる人以外にも「当事者意識」を植えつけることも重要といえます。

映画『JOKER』ポスター 「本当の悪は笑顔の中にある」

今年の邦画と洋画を合わせた興行収入の総額が、2016年にアニメ「君の名は。」が社会現象化して記録した2355億円を上回り、過去最高となる見通しとなりました。今年のヒット映画といえば、新海誠監督の「天気の子」やディズニー映画「アラジン」などが挙げられます。
ジョーカー.png出典:映画『ジョーカー』ポスター
今年度のヒット作品のひとつ、「ジョーカー」は、ハロウィンで主人公の仮装をする人が出現するほどの社会現象となりました。ポスタービジュアルでは、不敵な笑みを浮かべるジョーカーの姿と共に「本当の悪は笑顔の中にある」というキャッチコピーも印象的で、短い文章ながら映画全体に漂う狂気が感じられます。

KINTO  「まだ車買ってるんですか?」

ヘルスケア、ファッション、食をはじめ、さまざまなジャンルで「サブスクリプションサービス」が盛り上がった今年は、「サブスク元年」とも呼ばれており、「サブスク」は流行語にもノミネートされました。
KINTO.jpg出典:KINTO CM「定額なる一族」
トヨタが展開している、車のサブスクリプションサービス「KINTO」のCMでは「まだクルマ買っているですか?」というキャッチコピーで衝撃を与えました。自動車生産・販売が本業のトヨタが、あえてこの宣伝文句を使用するのは、「若者の車離れ」や「高齢者の運転問題」などの問題が浮き彫りとなった、自動車産業の大改革時代ともいえるこの年から、モビリティカンパニーへの変革を目指すトヨタの強い意思表示が感じられます。

映画『尾崎豊を探して』メッセージ広告 「この国は今、自由ですか?」

今年8月には愛知県で開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」にて、慰安婦像の設置や昭和天皇の肖像写真を焼く演出に批判が相次ぎ、開催3日目で中止に。
また、企業が発信した広告メッセージが思わぬ反発を受けて延期や中止に追い込まれる、いわゆる「炎上広告」のニュースも頻繁に報道されました。こういった一連の流れを受けて、「表現の自由」に関してどこまで許されるのか、SNS上でも話題になりました。
尾崎.png出典:尾崎 豊 オフィシャルTwitter
2020年1月より2週間限定で公開される映画『尾崎豊を探して』。そのメッセージ広告には尾崎豊の歌の歌詞が。しかし、現代で考えればコンプライアンス的によろしくないであろう箇所が黒く塗りつぶされています。そして、メインのメッセージは「この国は今、自由ですか?」。
自由を歌い続けた尾崎豊という存在を通して、令和の世にあらためて自由とは何か、この国は今本当に自由なのかと問いただすメッセージ性の強いコピーです。尾崎豊のファンに限らず、多くの人々の共感を生み出していることでしょう。

Netflix 「12.31、嵐。」

今年1月に発表された、人気アイドルグループ「嵐」の2020年いっぱいでの解散。日本中に衝撃が走りました。

出典:嵐 公式 Twitter

そして、今年の大晦日に、嵐のドキュメンタリー「ARASHI's Diary -Voyage-」が、Netflixで独占配信されることが発表。過去のアーカイブ映像から、2020年12月31日の嵐の活動休止までを追った映像を通じ、活動休止にいたるまでのメンバー5人の揺れ動くリアルな思いを切り取った内容になるそうです。
これに先立ち、渋谷のハチ公前に巨大な屋外広告が登場。黒を基調とした看板に「12.31、嵐。」の文字とNetflixのロゴで構成されたシンプルなもの。一見すると内容がわかりませんが、「嵐」という抜群の認知度を誇るキーワードがあるからこそ、余計な言葉は使わずとも、広告コピーとして成立しています。
このように究極に洗練された広告コピーは見た人の記憶に鮮明に残ることでしょう。

広告コピーは世相を映す

広告コピーでは商品・サービスの魅力、特徴を伝えつつ、それに加えて見た人の感情を揺さぶるようなインパクトのあるメッセージが必要です。なので、多くの人の関心が集まる時事ネタや話題の商品は広告コピーを作る題材として最適なのです。
そして、今回のように広告コピーを通してその年の出来事を見てみると、物事をさまざまな角度から考えることができる良いきっかけとなるでしょう。

広告コピーについて学ぶ

25,000件以上の広告コピーを解析!2019年の世相を象徴する一文は「さらに平成と向き合います。」

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かっこ株式会社と東京コピーライターズクラブが共同で「広告コピービッグデータ解析」に取り組んだ。2019年TCC賞選考の広告コピーを対象に自然言語解析を実施。その中で使用頻度や2018年と比較して増加率の高い言葉とともに複合・編集し、「マッシュアップコピー」を作成した。

イメージコピーで認知度を高める!名作&最近話題のキャッチコピーまとめ

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今回は、企業のスローガンや広告コピーをタイプ別にご紹介します(2016年8月現在では変更されているものも含む)。また、最近SNSで話題となったコピーについても取り上げています。認知されやすいフレーズにはどんなものがあるのか、コピーづくりの参考にチェックしてみてください。