様々なSaaSの中でも「使いこなせなければ意味がない」のがMA(マーケティングオートメーション)ツール。しかし担当するマーケティング部署の人数は大企業でも意外と少なく、自社内に充分なノウハウが揃っている企業はそう多くありません。

前回の記事 では、「Pardotユーザー会」の運営リーダーの皆様に集まっていただき、メンバーの活性度を維持するための運営の工夫や、ユーザー企業として運営に携わっているからこそのやりがいや学びについて語っていただきました。

連載3回目となる今回、前半ではPardotユーザー会に参加者として登壇やコンテンツ作成など積極的に参画しているコアなメンバーから、ユーザー会で得られるノウハウが日々の業務にどのように活きているのか、実際どのようなやりとりが交わされているのかの“リアル”な話をインタビューしていきます。

また後半では、Pardotの共同創業者であり、現在は米国セールスフォース・ドットコム Marketing Cloud CEOを務めるAdam Blitzer氏から見た、日本の「Pardotユーザー会」についてお届けします。

_DSC1823 SIZE.jpg
profiles_1.jpg

Pardotユーザー会参加のきっかけ

_DSC1726.jpg

ferret:皆さんのユーザー会参加のきっかけや参加動機についてお聞かせいただけますか?

上村:最初は他社の活用方法やTipsを得るために参加しましたが、途中からただ聞くだけでなく、聞いた内容を実践し、その成果を積極的にアウトプットするようになりました。他の参加者の何か新しい気づきになればとの思いで登壇するのはもちろんなのですが、登壇して発表すると、それ以上のインプットをコミュニティから返してもらえます。

また、登壇者同士で後日に情報交換することも多いですね。頻繁に情報交換していくうちに、お互いの得意分野もわかってきます。こういう課題だとこの人に聞けばいい、と会社の枠を超えて相談できる仲間がたくさんできたのは大きな財産です。

Pardotユーザー会で得られる活用事例を通して、自社のマーケティング課題に応用できる様々な示唆が得られたおかげで、導入から2年でリード数5.7倍、商談数2.2倍まで伸ばすことができました。

小林:ノウハウが本当に身につく時は、誰かにアウトプットする時なので、Pardotという共通のツールを使っているメンバーの集まりは貴重です。また、私の場合はコミュニティマーケティングの運営ノウハウも、この会への参加を通じて学べていますね。参加者の巻き込み方や相乗効果の作り方が非常に上手いなと感じます。

千葉:Salesforceのサポート窓口への問い合わせでは、設定方法や機能の説明を受けることはできますが、ユーザー個々のマーケティング事情を加味した運用面のヒントまでは期待してもなかなか難しいと思います。ただユーザー会のメンバーや、オンラインのTrailblazer Communityのメンバーはその機能をどう応用して使うかにまで踏み込んで共有し合えるので、実務で成果を上げる上では無くてはならない存在になっています。

土屋:Pardotユーザー会のコミュニティは、「アウトプットファースト」のカルチャーが参加者に自然と共有されているのが特長です。積極的に発信することでつながりが広がり、結果的にそれ以上の情報やヒントがコミュニティから返してもらえるという良いループが生まれることを参加者が自覚し、行動しています。

いい意味での「公私混同」が情報濃度を上げる

_DSC1713size.jpg

ferret:連載の第一回 で小島 英揮氏が「良い意味での公私混同が非常に重要だ」とおっしゃっていましたが、皆さんをみているとまさにそうですね。

上村:仕事の話をできる友人という感覚ですね。マーケティング部署は社内で少人数なことも多いので、会社の中でMAツールの会話や相談ができる人は非常に少ないのが実状です。企業を超えて同じ問題意識を持ったメンバーと会話できるのは貴重です。

千葉:Pardotユーザー会のメンバーとは共通点が多いこともあり、他のコミュニティ活動と比べても高い頻度で会っています。休日も会うこともありますが、半分以上はマーケティングの話に熱中しています。

社内だけにいると自社の基準でしか物事を考えられなくなるので、発想のものさしが固定化しがちです。Pardotユーザー会のメンバーと議論すると、毎回新たな発見がありますね。

土屋:コアな参加者の中にはマーケティングのプロフェッショナルも多いので、コンサルティング会社に相談する以上の示唆がその場で得られることもよくあります。

小林:マーケターは「課題好き」なので、オンもオフも考え続けている人が多いですが、同じ会社の中でそうした話題が通じる人を見つけるのは大変です。そんなマーケター同士が集まるコミュニティであることと、且つ、Pardotという共通のプロダクトを使っているということが、コミュニケーションのきっかけとしては大きいと思います。

ノウハウ以外に得られるもの

_DSC1671.jpg

ferret:ユーザー同士の“濃い”情報交換の他に、Pardotユーザー会参加によって得られたものはありますか?

小林:Pardotの運用について、今のやり方が正しいかどうかわからなくなることがありますが、ユーザー会という第三者がその正否や評価を教えてくれるので、自分の現在地を見失わないで済むので助かります。時には、社内の他メンバーから今の運用方法について物言いがつくこともありますが、ユーザー会で発表した自社活用事例に対する評価は、彼らへの説得材料や不満への抑止力にもなるので、新しい挑戦への大きな後押しになります。

また私自身マネージャーとして、チームメンバーへのマネジメントにおいても好影響が出ています。ユーザー会で登壇させていただいたり、皆さんから熱心なフィードバックをいただくことで私自身のモチベーションが上がるのはもちろん、チームのメンバーに対してもマーケティングの魅力を伝えることができるようになっています。ユーザー会で得た知識をもとにメンバーが実務を行って、さらに進化させていくというポジティブなサイクルができています。また、ユーザー会の方々と繋がることで、より広い視野で自身のキャリアや、チームメンバーのキャリアを考えるようになりました。

上村:私もPardotユーザー会を通じて会社を知ってもらえ、その繋がりから自社に優秀なインサイドセールスのリーダーを採用できました。私がユーザー会で登壇した時にプレゼンを聞いており、発表の内容や業務での取り組みなどを知ってくれていたので、非常に前向きに話を進めやすかったです。

千葉:私の場合は、Pardotユーザー会での会話がきっかけで、ビジネス上のコラボレーションにつながったこともあります。

また、他社のマーケターの方とビジネスを超えたつながりができるので、業務上のヒントだけでなく仕事へのモチベーションも毎回もらっています。皆さん情報感度が高く、キャリアを考える上での刺激も得られます。Trailblazer Communityでの会話がきっかけで、新しい資格をとったこともあります。

ferret:なるほど。皆さんのお話を伺っていると、既に毎日の業務はもちろん、キャリア設計やモチベーションの源泉という意味においてもPardotユーザー会のネットワークは欠かせないものになってきているということがよくわかりました。

Pardot 共同創業者との座談会

_DSC1439.jpg

ここまでのインタビューを取材した日は、丁度米国セールスフォース・ドットコムでMarketing Cloud CEOを務めるAdam Blitzer氏が来日していました。Pardotユーザー会の運営リーダー、積極的に参画している参加者メンバー10名と、Pardot共同創業者であるAdam氏との座談会が催されました。

profiles_2最終2.jpg

プロダクトの生みの親と実際のユーザーの距離が近く、新しい知識を得ようという姿勢から積極的な意見交換が行われていました。海外のPardotユーザー会、Pardotで機能開発を強化している領域、アメリカのマーケターのトレンド、勢いのある企業など、様々なトピックでディスカッションを交わした後の皆さんに、座談会の感想を聞いてみました。

ferret:Adamさんとの座談会の中で、印象深かったことをお聞かせいただけますか?

上村:マーケターの業務がいつかは全部がオートメーション化されるのか、あるいは手動の部分が残るのかについて気になっていたので聞いてみました。BtoC領域は対象者の母数が圧倒的に多いのでオートメーション化が急速に進むが、限られたリードの中から顧客開拓をしていくBtoB領域においてはまだまだ人の手で対応する部分が残っていくだろうというお話が印象的でしたね。

また、改めてスリムなSaaSを目指しているという姿勢も強く感じました。Pardotは一部の尖ったユーザー向けのプロダクトではなく、利用者全員にとって使いやすいものを目指していること、だからこそなるべくスリムな設計になっているという開発の意志を改めて感じられたのはよかったです。これからのPardotの進化も楽しみになりました。

_DSC1654.jpg

土屋:私は、業務においてSaaSのプロダクト開発に日々携わっているのですが、『開発ビジョンを明確に持ち、社内外から寄せられる様々な要望に対して「ビジョンに沿っているかどうか」という尺度で判断する』というAdamさんの姿勢に共感しました。

小林:私はインサイドセールスとマーケティングに携わっているのですが、明確なビジョンを判断に軸にするという話は、マーケティング業務にも共通しますし、マネジメントとしても非常に重要な考え方であると感じました。

_DSC1462.jpg

Pardot 共同創業者から見た「Pardotユーザー会」

ferret:日本のPardotユーザー会の皆様とお話をされてみて、どのような印象を持たれましたか?

Adam:定期的に日本に来て皆さんにお会いしていますので、中にはすっかり顔見知りの方もいらっしゃいます。皆さん常にエネルギッシュで、いつも熱量やパッションをもらえますね。日本のPardotユーザー会の盛り上がりの度合いから、B2Bマーケターという役割の必要性が高まっていることを感じます。

ferret:他の国と比較して、日本のPardotユーザー会の特徴としてお感じになられる点はありますか?

Adam:それぞれの国に特徴がありますが、日本のユーザー会の一番の特徴は、非常に家族的な雰囲気があることですね。参加者の皆さんの関係性が近く、お互いの結びつきが強いと感じます。

_DSC1484.jpg
ferret:それはさきほどの座談会の様子を見てもたしかに感じられますね。Adamさんに是非お伺いしたいことがあります。Adamさんが思い描く「究極のPardot」の姿とはどのようなものでしょうか。また、そこに向けて直近取り組まれることは何でしょう。

Adam:最終的にはBtoC領域だけでなく、BtoB領域においてもAIが中心となり、セグメンテーションやパーソナリゼーション、カスタマージャーニー等全てにおいてPardotのパフォーマンスが飛躍的に向上しているでしょう。その頃にはAIは特別なものではなくなり、マーケターは人間と一緒に働くように毎日AIを使って仕事をするようになります。

その状態に向けて、まずこれから数年間はPardotはさらにプロダクトの中にAIを取り入れていく計画です。同時に、それらの活用についてユーザーやマーケターに啓蒙していく必要もあります。

ferret:なるほど。その過程においても、Pardotユーザー会の果たす役割は大きそうですね。

Adam:もちろんです。プロダクトの進化に合わせて、ユーザー会もますます進化していくでしょう。まずPardotユーザー会に参加しているTrailblazer(先駆者)の方々が最初に実践していただき、他のマーケターへの普及を進める中心となることと思います。セールスフォース・ドットコムにとって、ユーザー会は非常に重要な存在です。これからもリーダーの皆様・積極的に参加いただいている皆様とともに、企業の枠を超えてポジティブな効果を創り上げていきたいと思っております。

ferret:ますますPardotユーザー会の活動も盛り上がっていきそうですね。本日はありがとうございました。

編集後記

連載の取材を通して感じたことは、Pardotは単なるマーケティングツールではなく、ひとつの「カルチャー」であるということだ。プロダクトの生みの親であるAdam Blitzer氏はもちろん、Pardotユーザー会の運営リーダー、そして参加者が「Pardot」という共通言語で一体となっている。Adam氏が言うように、まさに「家族」のようなビジネスを超えたつながりの輪が形成され、その強固な基盤が画期的なマーケティングアイデアの創出を支えている。これからますます重要になるマーケティングオートメーションの流れに合わせて、Pardotユーザー会もさらに進化を遂げていくだろう。

連載バックナンバー

-vol:1 2019年12月24日公開 コミュニティマーケティングの第一人者・ 小島英揮氏が訊く。「Pardotユーザー会」が国内最大級のMAユーザー会へと成長した理由

-vol:2 2020年1月24日公開 「Pardotユーザー会」運営リーダーが語る 。国内最大級のMAユーザー会を維持・拡大する秘訣とは

-vol:3【本記事】 「Pardotユーザー会」参加者が、Pardot創業者と語る。参加者同士の“深い”つながりから生まれる価値とは

写真:片岡龍太郎