売上・利益共に好調なのに何故グループジョイン?フィードフォース・アナグラムが見据える新しい広告代理店の価値とは
2020年1月10日。今年初といって過言ではない大きなニュースが届いた。アナグラムのフィードフォースグループへのジョインだ。アナグラムは総資産、売上高、営業利益のいずれにおいてもフィードフォースを上回っているにも関わらず、何故この決断をしたのか。
ferretは真相を知るべく、グループジョインのキーマンである株式会社フィードフォースの代表取締役社長・塚田氏とアナグラム株式会社の代表取締役・阿部氏に話を伺った。
これからも戦い続けるための決断
アナグラム株式会社 代表取締役 阿部圭司氏
ferret:グループジョインはいつ頃から検討されていたのですか?
阿部氏:フィードフォースが上場した後なので、2019年の夏ぐらいですね。上場するっていうのは官報などを見ていたので何となく分かっていました。そのころは「最近、塚田さんと会ってないな」って思ってましたね。
塚田氏:話がまとまったのは発表のギリギリですよね。
阿部氏:年末ですね。
▷プレスリリース:アナグラム株式会社のグループジョインに関するお知らせ
ferret:検討のきっかけは何だったのでしょうか?
阿部氏:アナグラムと銀行の融資に関することがきっかけで。銀行側から「これ以上お金を貸せません」っていわれたのが去年、一昨年かな。
売上は上がってるし利益も出てますし、クリーンに経営してきたんですけど、銀行にそういわれたんで、もうこのあたりが限界値なのかなって思ったんです。
ferret:単純に融資の総額として厳しいということだったのでしょうか?
阿部氏:はい、そういう理由でした。結局、フタを開けたらまだ貸せるってなったんですけど。ただ、僕らの規模で上場してない広告代理店ってまずないんですよね。その理由がこれなんだなって思いました。
融資自体は実行されたんですが、この問題はいたちごっこになるなと思ったんです。今年は大丈夫だけど、来年の成長に必要な融資額は追いつかなくなってしまうので。事業はうまくいってるのに資金がないから戦えなくなるなんて、最悪のケースですよね。
成長しないってなると社内の空気も悪くなるし、想像しただけで嫌ですね。それこそ選択肢としてはベンチャーキャピタルやIPOももちろんあります。それと同時に、ただ広告代理事業だけやってもよくある広告代理店になっちゃうので意味がないなって考えてたんですね。時間やお金より「意味がない」って方が僕の中では大きかったんです。
ferret:「意味」を重視してパートナーとなり得る会社を探されていたのでしょうか?
阿部氏:実は以前からどこと組むのが一番いいかって考えてはいたんですよ。
そんなとき、アナグラムの元取締役だった岡田さんと代々木の喫茶店で話したんです。岡田さんは今、フィードフォースの社外取締役ということもあり、アナグラムもフィードフォースも知っているんですね。そこで岡田さんから「フィードフォースと一緒になったら面白いと思うんですよね」と、特に深い意図はなく言葉に出たんです。そしたら「それはアリだね!」といった形で盛り上がりまして。
冷静に考えても「アナグラムと一番補完関係にあるのはフィードフォースなんじゃないか」って勝手に思って。それで「この話を塚田さんにしてもらえませんか!」って岡田さんにいいました(笑)それがフィードフォースが上場してすぐくらいですね。
働いてる方も似たタイプの方が多いというか「ちょっと変わってるよね」ってお互い思われる会社ではあるんですよね。アナグラムには営業がいませんし、会う人には「いい人が多いよね」っていわれるとか。フィードフォースも同じで、いい人が多いというか柔らかいですよね、皆さん。声を荒らげるイメージがない。
株式会社フィードフォース 代表取締役社長 塚田 耕司
塚田氏:そういう人はいないですね。
阿部氏:カルチャーが似てると思いますね。
塚田氏は「お金を使う才能を持った人」
ferret:選択肢をどのように検討したのでしょうか。
阿部氏:選択肢だと、単独IPOは昔から選択肢の1つとしては見てましたし、投資家の中に融資してくれる方はいると思うんですよね。そういうのも全然ありだなと思っていました。
何年か前ですけど、著名な投資家さんにお会いする機会があって、その方に「資金を調達したいです」って話をしたことがあるんです。決算書を持って話してたんですけど、そしたらその方から「今はきついけど自分で頑張ってください。絶対うまくいくから」っていわれたんですよね。それがずっと頭に残ってるんです。
あと、僕は株が趣味なんです。20歳くらいからずっとやってるので、どういう株がどうなるっていうの何となく流れで分かるんですけど、アナグラムが単独で上場してもきつそうだなと感じていて。
じゃあ、どういう企業がいいのか僕なりに分析してました。資本主義と勝負していくっていうと、今だとSaaSのモデルだったり、テクノロジーを持っている会社、生み出せる会社じゃないでしょうか。
そうなれたら理想的だなと思って、うちも昔アプリを作ってたんです。半年くらい命かけて、数千万くらい費やしたんですけど、どうもうまくいかなくて。業界からは完璧だっていわれて絶賛されたんですけどね(笑)プロダクトは向いてないなってちょっと心が折れちゃいました。それで本業の広告代理事業に集中した方がいいって思っちゃったんです。
あと、クライアントを通して商売を見過ぎたっていうのも1つありますね。物販をやるにしても在庫やロジスティクス、利率とかをめっちゃ考えちゃうんです。僕の脳みそが他の事業に対して向かなくなっちゃったんです。
ferret:知りすぎちゃったんですね。
阿部氏:それを乗り越えるためにいろんな努力はしたんです。向き不向きに近いのかなって思ったとき、それがめちゃくちゃ得意な人に出会ったんです。
ferret:それが塚田さんですね。
阿部氏:はい。素晴らしい方だなと思いました。
ferret:阿部さんから見た塚田さんの印象はいかがでしょうか?
阿部氏:noteでも書いたんですけど、僕にない強みでいったら「お金を使う才能を持った人」かな。作りたいものがどんどん出てくる人ですし、今回も一緒になったらこんなことやりたい、こんなもの作りたいよねって話をしている中で、結構作りたいっていうのも一緒になってて。
僕的には「きた!」というか。今までこういう話をしても分かってくれない人が多かったんです。近くの人に「こういうの作りたいんだよね」っていっても、うーんって。いってることは分からなくはないけど……、くらいの感じだったんですけど、塚田さんに僕こういうの作りたいと思ってるんですよね、いつかやらなきゃいけないと思ってるんです、っていうと、実はもう手掛けていたり、発想にはあって。まさかそんなことがあるなんて思ってもみなかったですね。
▷リンク:アナグラムのフィードフォースグループジョインに関するメモ
理論上、完璧なパートナーはアナグラム
ferret:塚田さんはアナグラムをどのように思われていましたか?
塚田氏:僕も前からアナグラムはいい会社だって思ってました。岡田さんからこの話を聞いたときに、本当にいい話だなって、「ぜひ前向きに検討させてください」って返事をしました。
ferret:アナグラムのグループジョインの決め手は何だったのでしょうか?
塚田氏:一番は阿部さんもいわれてましたけど、カルチャーが近いことは大前提でした。カルチャーが違う会社が一緒になる、グループになるって不幸なことだと思うんですよね、お互いにとって。いってしまえば、売上や利益だけを追いかける会社もあるわけじゃないですか。そういう会社とそうじゃない会社が一緒になると、すごく不幸になると思う。
やっぱりカルチャーが近くて、大事にしているものや目指している未来が似ているとか。そこは両社、本当に合いますよね、と。
その上で双方が持っているサービスのラインアップなどを見たときに、これはほぼほぼ被ってないんですよ。サービスも補完関係にあるし、アナグラムが今後やろうとしてることを聞いたときに、ここも僕らが今後やろうとしてることとは被ってない。近いんですけど被ってないんです。
今後も両社で補完しながら、クライアントに対して広くサービスを提供できるっていうのはすごくいいなと思いました。あえて決め手といえばこのあたりですね。
ferret:カルチャーに考え方、向かう方向性、役割やサービスの補完関係。グループジョインの会社として完璧ではないでしょうか!
塚田氏:理論上は(笑)
今、このタイミングでなければ実現していなかった
ferret:今回のアナグラムのグループジョインは、フィードフォースが上場していたからこそ実現したことだと思います。フィードフォースが上場企業のあり方を示したといえるのではないでしょうか。
塚田氏:上場で得た資金に関しては、使途はMAではなく今後の事業拡大としてのものです。とはいえ上場してるからこそ、銀行も融資してくれたっていうのはありますね。
ただ自分もラッキーというか恵まれてるなと思ったのが、アナグラムみたいないい会社とご縁があって一緒になりましたけど、上場会社に持ち込まれるMA案件って、いろんな事情で合意できないものが多いんです。本当にいい案件って出回らないと思うんですよね。
阿部氏:MA業界あるあるですね。
ferret:お2人の話を伺って、さまざまなタイミングが合ったからこそ、今回のグループジョインが実現したのだと感じました。
阿部氏:最初にお会いした5、6年前だったら全く想像してなかったですし、3年前にこの話があってもお互いフェーズが違いましたね。「いやいや無理でしょ」ってお互いになってたと思います。
ferret:お2人が知り合いということはもちろん、フィードフォースは上場してますから情報を開示されてますし、アナグラムも考えや業務に関する発信を積極的に行っているからこそ、信頼に値する会社かどうか、客観的な視点からも分かったのではないでしょうか。
塚田氏:そうですね。あとは両社にうちの社外取締役の岡田が在籍していて、両社を知っていたっていうのも大きいですね。
阿部氏:彼が入ってる会社なら信頼ができるっていうのも僕はあります。本人が喜ぶかは分からないですけど、僕の中で彼は僕の「マスターヨーダ」なんですよ(笑)
仮に、起業家がジェダイだとすればダークサイドに堕ちる人ってやっぱいるじゃないですか。紙一重なんですよ本当に。僕もダークサイドに堕ちそうになったことが何回もあって。
そのときに彼が引っ張ってくれたんです。普段僕に意見するってほとんどないですし「いいと思うよ」しか基本はいわない。でもあるとき岡田さんが「阿部さんがこれやるなら俺辞めるよ」っていってくれたことがあって。滅多に怒らない人が怒ってる、みたいな。ということは本当にやばいんだって思いました。「光の道はこっちだ」って指し示してくれて、僕の中で「ありがとう」しかないんです。
テクノロジー×サービス=新しい代理店の価値
ferret:両社が一緒になることによって多くのシナジーが生まれると思います。今後、広告業界に対してどのような価値を発揮していくのでしょうか?
阿部氏:僕は、いわゆる広告代理店って第一世代、第二世代、第三世代ってあるかなと思ってます。第一世代は電通とか博報堂、第二世代はサイバーエージェント、オプト。第三世代として僕らが違う形を見せられないかなって。
新しいやり方、1つのあり方、それこそテクノロジーとサービスを合わせて、今までにない広告代理店の価値っていうのが出せるんじゃないかなと。そこはいけるんじゃないかなと正直思っているので、とりにいきたいなと個人的には思ってます。
ferret:新しい広告代理店の価値というのはクライアントと働き手、どちらにとってでしょうか?
阿部氏:もちろん両方です。今までの広告代理店のイメージって過酷なんですよね。別にそれが悪いとは僕は思わないんですけど、時代がそれを受け入れないフェーズに入ってきているので、時代にあったマネジメントやサービスがあって、その上に新しい広告代理店があるのかなと思っています。
アナグラムは属人性を伸ばすマネジメントなんですけど、昔よく「属人性を排除せよ」っていわれたんですよね。広告代理店は営業、運用、レポーティングって分業する会社が多いと思います。分業は二十世紀の発明の一つだっていわれてるので、それは全然いいと思うんですよね。でも時代に全然あってないんですよ。
それまでのマネジメントに対するアンチテーゼを唱えているのがうちの組織だと思います。その中で多少売上は上げることはできてきたので、組織が大きくなってもチャレンジをしたい。そして働いてるメンバーが誇りを持てる会社ではありたいなと思ってます。
全行程を理解することで初めて自分ゴト化できる
塚田氏:今阿部さんがいわれたことに近いです。まず対クライアントとの向き合い方でいうと、クライアントの抱える課題って、どんどん高度化していくと思っていて。
本当にいろんなものがデジタル化しますし、SNSもあれば実店舗もある中で、大手広告代理店のように顧客の課題を聞く人、プランニングする人、運用する人が分断された体制では高度化した問題にそもそも立ち向かえないと思っています。
それは優秀な一人が全顧客の課題を聞いて、考えて、運用して、ってコンサルタントのようにやることでしか立ち向かえないと思っているので。スケールを目指すというよりかは、少数精鋭になるのかもしれないですけどクライアントの課題にしっかり寄り添えるといいのではと思ってます。
今までみたいなやり方を望むクライアントもいるとは思います。その一方で、先の環境の変化も分かっていて、それでいてしっかり並走してくれるような広告代理店にお願いしたいというクライアントも一定数いると思っていて。我々のクライアントはそこだと思っているので、そのクライアントの要望にしっかりそこに応えられるような体制なり組織なり作っていきたいなというのが1つ。
もう1つがこれもさっき阿部さんがいってるんですけど、中にいる人たち、働いてる社員たちが自分ゴトであり続けるにはどうしたらいいかっていう視点で考えるということ。クライアントに価値を届けるまでのプロセスが分断されて、全行程のうちの一部しかやってない、その前後は分からないっていう人は自分ゴトにできないと思うんですよ。
1から10まで自分たちでやれていて、少なくとも周りを見渡せばその前後をやってる人たちがいて、自分たちで全行程を理解できてる状態で、初めて自分たちが世界に対してどういう価値を届けられてるかってことが理解できるので。
その状態をキープしたまま会社としてどういう成長を遂げるかっていうのは、結構チャレンジだなと思っていて。今の世の中の向かう方向はこっちだと思っているので、うまく作れたらいいだろうなって思ってます。
個を排除されたい人なんていない
ferret:会社のカルチャーや作りたいプロダクトだけでなく、組織や事業に対する考え方にも共通点があるように感じました。おそらく別々のアプローチから共通の考えに至っているのだと思いますが、どのようなきっかけでこの考えになったのでしょうか?
阿部氏:教科書などにもよく書かれてますが、「事業を拡大するのであれば属人性を排除しなきゃいけない」というセオリーのようなものがありますよね。
これ、ずっと違和感があったんですよ。属人性を、個人を排除されたい人って世の中のどこにいるんだろうと思ったときに、何かつまらないなと思ったというか。でも、それがセオリーだよっていわれても、時代は変わっていくので、その逆はあるんじゃないかなってちょっと思ったんですね。
その世界を考えてみたときに、多分その方が楽しい。組織が急激に大きくなるか分からないですけど、元々無理して大きくしようと思って組織を作ってなかったんです。楽しくスペシャルな十何人くらいのメンバーで、みんな満足のいく報酬。楽しそうじゃないですか。そういうのできるんじゃないかなって思ったのがきっかけではありますね。
あと、やっぱり分業で悩んでる子たちが多かったっていうのも理由です。採用面接をしてると「お客さまに会ったことがない」っていうんですよ。
一番嫌だったのは「よく分からないけど怒られること」だって。やれっていわれたことをやっただけなのに、何か怒られた、みたいな。間に営業が入ると、「コノヤロー!」も「ありがとう!」も直接は届かないんです。
そういうことをうちの初期の社員がいってて、その後に入ってきた元同じ会社の子も同じで。みんなそうなのかと思って。何か不思議だなって思って。
ferret:セオリーがあるなら、あえてその逆もあるということでしょうか?
阿部氏:世の中にそういうセオリーというか、固定概念があるのであれば、僕は逆のアプローチでやってやろうと思いました。成功するかは分からないけど、ベンチャーなんだからトライしてみようと。そのために必要なことを洗い出したって感じですね。
かと言って、綺麗事をいってサラリーが低いのは意味がないと思っていて、そうじゃなくて綺麗事をいってちゃんと利益が出て、ちゃんとしたサラリーが出せる。そうじゃないと意味がないかなと思っていて。
資本主義を卑屈に捉える方っていらっしゃるじゃないですか。僕はそうじゃなくて、ルールがあるならルールの中でどうやるのかっていうのが一番大事だと思ってます。
ferret:広告運用にも通じることですね。
阿部氏:そうですね、本当に。ルールの中でも自由度は一定あるわけだから、その中で正しい方向に発揮すればいいんです。今はテクノロジーがあるし、それができる時代だと思う。
2社のシナジーが広告代理店を変える
塚田氏:僕は元々大学卒業して銀行に就職したんですね。銀行の働き方ってまさに「自分ゴト化」が難しい形で細分化されてて。身を持って、自分がやってることが銀行という組織の中の何にどう貢献してるのか、本当に分からないですし、世の中への価値提供という部分でリアリティがなかったんです。こういう状況ってよくないなと思い、自分で起業したら、まさに目の前にクライアントがいて。
最初は受託だったので、クライアントが欲しいっていったものを作って「これですか?」っていうと「これが欲しかったんだよ」って喜んでもらえるし、お金ももらえるっていうのが目の前で展開されるわけじゃないですか。
そのギャップがすごくて。限度はあるにせよ自分でやってることの価値がリアリティを持って受け取れるっていうのをどこまでキープできるか。多分それが100人200人くらいまでは大丈夫で、500人、1000人、10000人になってくると、もはや無理だと思うんですよね。
なので、大きくなることが必ずしもいいことではない。けど当然上場してるので売上や利益の成長は求められる。かつ、中にいる人のやり甲斐を損なわない。矛盾する問題をまとめて解決するようなやり方は何なんだっていうのを探っていきたいなと思ってます。
ferret:長時間にわたりお話をいただきありがとうございます。最後に今後のことをお伺いさせてください。2社でプロダクトやサービスを共同で作る予定はありますか?
阿部氏:作りたいなと。
塚田氏:今年中にはやりたいなとは思ってます。
阿部氏:どこから手を付けたらいいのか。今後はフィードフォース側とディスカッションをして理解し合おうと思ってます。
去年は本当に色々考えて。妻に「どうしようかな」って話をしたときに「どうせ一生仕事してるんだから好きに働きなよ」っていわれたんです(笑)だったらもう40代は命を燃やそうと決めたので、その上でどうなるのかが楽しみです。
ferret:ありがとうございました!
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