ブランドマーケティング事例1:マーケットの大きな変化

希釈タイプから缶・ペットボトルへ

大越氏:カルピスはブランド危機が、1980年代から90年代と、2000年代の中頃から後半あたりに、2度ありました。

1980年代から90年代に起きた最初の危機は、先ほどの4つの基本価値は忠実に行っていたのですが、マーケットの「飲料の飲み方」が大きく変化したことが、売上減少に非常に影響しました。具体的には、「自動販売機がアウトドアへ設置され始めた」ことや、「コンビニエンスストアの登場」です。

その結果、飲料は「家に帰って飲む」ものから「外で飲む」ものに大きく変化しました。お客さまはわざわざ希釈タイプの飲料を外で割って飲みませんので、世間のアウトドアの需要を全く取り込めていなかったんです。そこで、1991年にアウトドアのニーズに対応した『カルピスウォーター』を発売し、「いつでもどこでもカルピスを飲めます」と提案しました。

技術革新なしでは実現しなかった

大越氏:カルピスウォーターの発売にあたり、技術革新もありました。家庭で希釈タイプのカルピスをグラスに注いで、氷や水で割ってそのままにしておくと、だんだん上の方が水っぽくなり下の方に乳成分が沈殿しますよね。これは比重の関係で起きるのですが、単に希釈タイプのカルピスを缶で販売しようとすると、同じ現象が起きてしまいます。そこで、当時難しかった「乳たんぱく成分の均質化」の研究を進め、ようやく1991年にカルピスウォーターを発売でき、空前のヒットとなりました。

その後、缶からペットボトルでの販売に変わります。カルピスは乳成分を含み光の影響を非常に受けやすいので、当初は遮光性のある緑のペットボトルに入っていました。しかし、全くカルピスらしさがない商品のため、最終的には遮光性はペットボトルに頼らず処方でクリアし、現在の透明ペットボトルでの発売に繋がっています。

ブランドマーケティング事例2:ブランド価値訴求の徹底で土台作りを

「カルピスは白いジュース」という認識を変える

大越氏:2008年頃に、他社から来られた社員の方に「カルピスって白いジュースですよね」という話をされたことがありました。この言葉は非常に驚きでした。「ジュース」というのは基本は果汁です。カルピスは牛乳からできているのに、消費者にとっては「ジュース」という認識。

調査してみたところ、お客さまにとってカルピスとは「単なる白くて甘い飲み物」であり、ブランド価値が伝わっていなかったのです。

<2008年当時のお客さまの認識>
・白い色は着色料?
・乳酸菌飲料…?
・甘い→カロリーが高い→太る
・子どもの飲み物
・単なる「カルピス」味の商品
・人工的、体によくない

そこで、ブランド価値訴求の長期プランを立てました。2009年頃から、カルピスは「牛乳と乳酸菌でできた自然な飲み物」という自己紹介を徹底してお客さまに伝えることが重要だと考えたのです。そしてそれが根付いてきた2015年以降、少し健康的なニュアンスを見せていくため、「発酵」や「カラダにピース」というキャッチコピーをテレビCMに使うなど、「どうせ飲むなら少しでも健康的なものを」と考える消費者に対して、少しずつブランドの認知と品質訴求を行っています。

ブランドを育てるためには、まず社員にブランドを愛してもらう

大越氏:「ブランドを育てるなら人を育てよう」と日頃から社内で口酸っぱく言っています。社員にブランドを愛してもらうための実例の一つなのですが、毎年、カルピスの誕生日である七夕に、社長、私を含め千人以上の社員が店頭に立ち、「社員の店頭試飲販売」を行っています。

カルピスの試飲販売では、基本的にはおいしいと言ってもらえるのですが、そのお客さまの言葉と笑顔をしっかりフィードバックしてもらうことで、社員にとって、「やっぱりいいブランドだな」という自信に繋がり、「いいブランドをもっと大事にしていこう」というサイクルができるのです。

ブランド基準を徹底的に守る商品作り

大越氏:商品開発をするにあたり、やはりマーケティング部門や営業部門だけではさまざまな面での見落としが発生してしまうため、いい意味でゲートキーパーとなる法務、品質保証部門とは徹底的に議論し合います。その際に大前提としてあるのは、ブランドミッションをかなり細かい部分までしっかり守ること。

例えば、ブランド管理基準の一例で、「カルピスの水玉」の基準があります。カルピスの水玉模様の正しい表記は「真円を均一かつ不規則に配置」すること。必ず真円で、それが満遍なく入っている状態が正なのですが、満遍なく入っていても、「規則的に」水玉模様が並んであるのはNGです。

他社さまとコラボする際にも、この基準の遵守は徹底しており、「ここまでやりますか」と言われるほどです。しかし、ここまでやるからこそ、お客さまの認識のなかにしっかりとカルピスの水玉が残っているのだと思っており、他社さまにも最後は納得していただけます。