日本独自のブランディングを行う「求人検索エンジンIndeed」。テレビCMを活用することで短期間での認知拡大、市場のポジションを獲得したIndeedの広告戦略に迫ります。この記事では、2020年2月7日に幕張メッセで開催された「Japan マーケティング Week 春」での、Indeed Japan株式会社 マーケティングディレクター水島 剛氏の講演内容<世界NO.1求人検索エンジンIndeedのCM戦略>についてレポートします。

登壇者

水島 剛 氏
Indeed Japan株式会社 マーケティングディレクター

2004年米国ボストン大学学士号取得。05年博報堂入社。戦略プランナーとして、家電、車、ゲーム、流通、コスメ、飲料、教育、インフラ、動画コンテンツ等、様々な企業やサービスのマーケティング課題の解決業務に携わる。15年LINE(株)に入社。『LINEバイト』『LINE Pay』のマーケティング責任者として、戦略立案から施策実行まで全プロセスをリード。18年2月より現職。Indeed Japanにおける求職者、及び採用担当者向けのマーケティング・コミュニケーションを統括する。

Indeedとは

Indeedは、「Job Seeker First(全ては求職者のために)」というコンセプトで運営されている求人プラットフォームです。

2004年にアメリカで創業され2009年に日本でサービスを開始。世界では60カ国、28の言語に対応し、利用人数は2.5億人にも上ります。また、Indeedのビジネスモデルは、採用活動をしたい企業がIndeedに対しサービス利用料を支払うというものです。求職者はIndeedを利用して仕事探しをする際、お金を払う必要はありませんが、Indeedのすべての活動は「Job Seeker First」というコアバリューに基づいて行われています。

Indeedは検索エンジン

Indeedには他の求人プラットフォームと決定的に異なる点があります。それは検索エンジンであることです。Indeedでは、インターネット上に存在する求人案件をロボットによって巡回し情報収集。収集した情報を整理し、検索可能な状態にしています。巡回・収集するページには、企業の採用ページだけではなく、各種求人媒体も含まれています。

つまりIndeedとは、「ネット上にあるさまざまな求人案件を一気に検索できるサービス」なのです。

Indeedの広告活動

Indeedは動画をメインに広告宣伝活動をしています。ここからはIndeedがどういった流れで動画広告活動をしてきたのかを解説していきましょう。

グローバルCM時代

Indeedが日本で最初に流したCMは、Indeed本社のグローバルブランドチームが作成したものです。当時はまだIndeed Japanにマーケティング組織が作られていなかったので、CMは既存のものに日本語をつけているだけでした。そんな状態だったため、CMを放送してもIndeedの認知度はほとんど上がらなかったのです。

この時代にIndeedの認知度が上がらなかった理由としては、英語のロゴだけだったことが挙げられます。英語のロゴだけだと、そもそもどう読むのかすら伝わりませんでした。

IndeedがあえてこうしたCMを作ったのは、グローバルなサービスであることを追求する狙いがあったのですが上手く行かず、結果として日本オリジナルのCMを作ることになったのです。
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日本でのCM

日本でCMを作るときに意識したのは、「Indeedは仕事を探すときのサービスである」ことをしっかりと刷り込んでいく点です。そのためには、視聴者が覚えやすいCMを作る必要がありました。

そこで、短期間でいろいろなパターンのCMを流すことで、視聴者が飽きずに覚えやすくしていったのです。またテレビCMだけでなく、YouTubeへの展開も行っています。Indeedに対して一貫したイメージをもってもらうために、あえてCMをベースで動画を展開したのです。

結果として、Indeedの認知度は短期間のうちにみるみる上がりました。

利用促進

しっかりとしたCMを作成することで認知度は上がりましたが、今度は利用してくれる人を増やす取り組みが必要になりました。Indeedのターゲットは「求職者」ですが、実際日本では求職をしている人の数がそこまで多くないのです。それは転職回数に現れており、アメリカの転職回数を10だとすると日本は3程度と言われています。

また、アルバイトをする方々は仕事を探す頻度が高いですが、常時アルバイトを探しているわけではありません。よって、Indeedの利用促進のためには、現時点では「仕事をあまり探していない人」に向けてもアピールをする必要が出てきたのです。

利用促進のために「レアジョブ」を作る

Indeedが利用促進を図るために行った施策の代表例といえるのが、「レアジョブ」作りです。レアジョブとは、通常の仕事とは異なり、特別な体験ができる仕事」のこと。そのレアジョブをフックに、Indeedで仕事検索をする人を増やそうとしたのです。実際にサービスを利用してもらうことで、Indeedの使い勝手や素晴らしさを伝えようとしました。

認知度を増やした後に理解を促すことで、利用を増やそうという流れもあるのですが、Indeedでは認知してもらったら、まず利用してもらう、というフェーズに移行。利用してもらえばサービスの良さや使い勝手がわかるので、よいサービスなら利用頻度の向上が見込めます。

Indeedは、認知度向上の次の過程である理解の促進を飛び越え、利用に結びつけました。つまり、ブランドパネルを飛び越えたアプローチをしたと言えるのです。

「面白い」という付加価値

Indeedでは、ただ漠然とサービスを伝えるよりも「Indeedにはこんな面白い仕事があるから探してみて」というようなアピールをしました。Indeedとユーザーの間に「特別な仕事」というコンテンツを設置し、そのコンテンツを宣伝していく方が、ただサービスを説明するよりも、魅力が伝わりやすい。つまり、訴求メッセージをクリエイションすることで、サービスの良さや素晴らしさを広めていったのです。

「面白い」という価値を付加した仕事をコンテンツとして訴求することで、より魅力的なアピールができたと言えます。

コンテンツの具体例

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実際にコンテンツとして、Indeedが募集した面白い仕事を紹介します。テレビCMなどで流れたのを、一度は観たことがあるのではないでしょうか。

サッカー好きだけでつくるCM

「CMを作る仕事に応募しませんか」というアプローチをして、実際に求人募集ページを作り、仕事探しを体験してもらう企画。本当にIndeedのページで、サッカー好きの仕事や、CM作りへの仕事の応募ページを作り、実際に応募できる仕掛けを作ったのです。

このCMで伝えたかったのは、「Indeedが検索エンジンである」ということ。検索ボックスに自分だけのキーワードをいれることで、関連する仕事が表示されるという特徴をアピールしました。事前に準備されたタブを選んで探す、従来の求人プラットフォームと異なり、「キーワードを記入することが検索の第一歩になる」ことを重点的に伝えたのです。

なぜ、検索ボックスへの記入をアピールしたかというと、好きなものや重視したいことで仕事を探せることが大切なため。まさに、「好きから仕事を発見できるサービス」なのです。

たくみひろい

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俳優の斎藤工さんと一緒に、ハロウィンの翌日に六本木の街のゴミ拾いをしよう、という試みが「たくみひろい」という仕事です。たくみひろいをアピールするために、CMの最後に表示されるIndeedの検索画面の中に「たくみひろい」と表示させました。ユーザーが「何だろう」と思い検索すると、ちゃんとたくみひろいの仕事が存在し、応募すれば働ける、というアプローチです。

また、このCMをYouTubeでも色々な動画で配信。さまざまなパターンの動画広告を作り、アピールしました。さらに、オフライン面では、屋外の色々な場所に広告を吊るすという宣伝もしたのです。偶然にも、ハロウィン当日に渋谷でトラックが横転させられた、というニュースがあり、その翌日にゴミ拾いをしたことで企業イメージの向上にも繋がりました。

サービスのPRだけでなく、プロモーション、ブランディングという要素が一つの施策によって形成され、成果として生まれた事例になったのです。

『ONE PIECE(ワンピース)』とのコラボ

『ONE PIECE(ワンピース)』とのコラボキャンペーンも開催されました。具体的には、「麦わらの一味」に関連する特別な仕事を作り、実際に募集をかけたのです。例えば、ゾロの斬られ役、サンジとのレシピ開発、など。

このキャンペーンのCMも多くのパターンをつくり、YouTubeやテレビで放送しました。独創的で印象に残りやすいCMだったので、覚えている方も多いのではないでしょうか。

リアリティの訴求

ここまではIndeedの面白いCMやキャンペーンを紹介してきました。こうした施策によって、確実に認知度をアップしサービスイメージが向上。次の一手として「Indeedを使うリアリティ」を伝えるCMを放送しました。

生活シーンへの浸透

サービス利用のリアリティを高めることで、「普段の生活の中でIndeedを使ってるよね」というイメージを刷り込もうと考えたのです。また、Indeedではバイトユーザーの方が仕事探しで利用することが多いものの、「正社員の仕事探しもできる」というイメージの強化も同時に行いました。

具体的には、ホワイトカラーの仕事も検索できるところをアピールできるCMを作成。これによって、「仕事を探す人全て」が使えるというイメージを訴求したのです。

テレビCM以外の訴求

Indeedでは、動画広告をテレビCM以外でも放送しています。例えば、斎藤工さんの運営している『たくちゃんねる』というYouTubeチャンネルでは、さまざまなコラボ企画の様子を配信するなどをしているのです。

また、ネットTV局「AbemaTV」にもアプローチ。『オオカミくんには騙されない』シリーズとコラボをして、出演者を使ったCMをAbemaTVで流すという取り組みもやっています。

CMでは、「友達と一緒」や「楽しい」というワードで仕事探しできることをアピール。ティーンに対して親和性の高いコンテンツを配信することで、利用意欲を高められました。

さらに、Twitterでも動画を活用しています。具体的にはTwitterドラマを配信しました。Indeedを実際に使ってアルバイトを探すシーンを、各所に散りばめているのです。

芸人との関係

2019年年末から2020年の年始にかけては、新しい試みをはじめました。複数の芸人さんを起用して、「仕事探しはIndeed〜♪」というジングルの中で6秒間のネタをアドリブで入れてもらうというもの。CM時間の15秒のうち、6秒間をお笑いのネタをする場所として提供することにしました。

年末年始というお笑い番組がたくさん放送される期間に、M1に出ない5組の芸人がネタを披露。「ユーザー投票に寄って選ばれた1組が、一定期間CMをジャックできる」というものでした。投票はTwitterなどを通じても行われましたが、1人100票をもった審査員を仕事として一般募集。1回の投票で1万円がもらえる仕事として話題を呼びました。

動画広告で大切なこと

現代では、CMは広告というよりも、一個のコンテンツになっていると言えます。コンテンツ制作においては、ユーザーが見たいものをいかに作るかが大切なのです。また、あくまで自然な形でサービスを認知してもらうための努力も忘れてはなりません。

以上のことからこれからの広告業界は、CMをコンテンツの一種として捉えることが重要と言えるでしょう。

画期的なキャンペーンを続け、世界中の人が幸せになれる仕事を見つけられる世界に

サービス認知のための動画活用では、ターゲットと目的を整理しその時の最適な活用方法が求められているのです。日本国内だけでなく世界との兼ね合いなど、複雑な状況もあり理想を現実にしにくいところがあるのも事実ですが、そのときにできる正しいことを一生懸命やることが大切です。

Indeedでは、年一回の画期的なキャンペーンを実施し、動画を効果的に活用しています。世の中のほとんどの人に認知されるようなレベルのキャンペーンを作りたい、という思いで行っているのです。今後もさまざまな課題を楽しみながら思案し、「世界中の人々が、幸せになれる仕事を見つけられる世界の実現」に向けて日々取り組んでいきます。