コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除された後も、先行き不透明な状況が続いており、各社のマーケティング活動にも今後さまざまな変化があると推測されています。

「ポストコロナ時代」を見据えて各社で構想やチャレンジが推進されている中、企業のマーケティング活動の変化を捉えるべく、マーケティング責任者・担当者を対象としたアンケート調査が2020年5月に実施されました。
 
その結果、アフターコロナで投資拡大予定施策の1位が「SNS活用・SNS広告」という結果に。 この記事では、マーケターはこれからの時代、何に注力していくのか、要因や背景を深掘りしていきます。

「コロナウイルスの感染下におけるマーケティング活動調査」の結果から見えること

このアンケート調査は、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社が緊急事態宣言解除前の2020年5月13日~5月25日にかけて、「コロナウイルスの感染下におけるマーケティング活動調査」と題して企業のマーケティング責任者・担当者159名を対象にWEBアンケートを実施したものです。

その結果、新型コロナウイルス感染拡大によるマーケティング活動への影響が明らかになりました。

マーケティング活動へ影響があった「98%」

[図1]は、マーケティング活動への影響有無を示したグラフです。
01_『コロナウイルスの感染下におけるマーケティング活動調査』|AMN調査リリース.png
出典:[AMN調査リリース] コロナ禍で注力するマーケティング活動は「SNS活用/SNS広告」が6割に迫り、ファンや既存顧客に向けたデジタルへの投資が顕著に|Agile Media Network

[図2]は、マーケティング活動への影響について具体的な項目をまとめたグラフです。
02_『コロナウイルスの感染下におけるマーケティング活動調査』|AMN調査リリース.png
出典:[AMN調査リリース]コロナ禍で注力するマーケティング活動は「SNS活用/SNS広告」が6割に迫り、ファンや既存顧客に向けたデジタルへの投資が顕著に|Agile Media Network

緊急事態宣言中、企業のマーケティング責任者・担当者の回答によるとほぼすべての会社(98%)が「マーケティング施策に影響があった」と回答しています。

その詳しい内訳は、「予算削減やリプランニング」(75%)、「プロモーションの停止」(75%)といったものが上位を占める結果に。

一方で「顧客とのコミュニケーション手法の変化」(60%)、「デジタルトランスフォーメーションの推進」(37%)、「注力分野の変更(店頭販促からeコマースなど)」(35%)といった回答も見られます。

このことは、マーケターが「コロナで何もできなくなった」とただ困惑しているだけではないことを表します。コロナ禍を変化の好機と捉え、今後を見据えたポジティブな行動を起こし始めた企業も存在する、ということを示しているとも言えます。

デジタル施策へ投資拡大傾向に

[図3]は、コロナ禍で各社のマーケターが投資を拡大した、または拡大予定・関心の高い取り組みを示したグラフです。
03_『コロナウイルスの感染下におけるマーケティング活動調査』|AMN調査リリース.png
出典:[AMN調査リリース] コロナ禍で注力するマーケティング活動は「SNS活用/SNS広告」が6割に迫り、ファンや既存顧客に向けたデジタルへの投資が顕著に|Agile Media Network

ここで注目すべき点は、「SNS活用/SNS広告」が突出して多いことです(57%)。それに続く回答も「eコマース」「オウンドメディア」「動画活用」「オンラインイベント/セミナー/展示会」「Web接客」といずれもデジタルシフト加速の意向が伺えます。

投資の抑制と拡大

[図4]は、コロナ禍における各社マーケティング施策の取り組みについて、「投資の抑制と拡大」の比較を表した表です。
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出典:[AMN調査リリース] コロナ禍で注力するマーケティング活動は「SNS活用/SNS広告」が6割に迫り、ファンや既存顧客に向けたデジタルへの投資が顕著に|Agile Media Network

デジタルシフトが進みそうだということは先述しましたが、ここで「投資の抑制/拡大」を並べて比較してみると、「イベント・ポップアップストア」「マス広告」「店頭販促・分析」「交通広告」とオフライン施策はいずれも「抑制」の方向に向かいそうだ、ということがわかります。

参考:[AMN調査リリース] コロナ禍で注力するマーケティング活動は「SNS活用/SNS広告」が6割に迫り、ファンや既存顧客に向けたデジタルへの投資が顕著に|Agile Media Network

アフターコロナ時代におけるマーケティング活動のこれから

改めて、SNS広告を利用するメリットとは?

前項で挙げた調査結果を大きくまとめると、「今後はマス広告・交通広告などオフライン施策は抑えて、SNS活用・SNS広告などデジタル施策に注力する」と集約できるのではないでしょうか。

では、ここで改めて、SNS広告を活用するメリットをおさらいしてみましょう。

まず、「デジタルデータを用いて細かくターゲティングできる」というメリットが挙げられます。

ユーザー属性や居住地、趣味嗜好などに合わせてターゲティングでき、自社の広告とマッチするユーザーのタイムラインに広告を表示できます。ユーザー視点では、あくまで通常のタイムラインを流し見る中に、自然と広告を溶け込ませることができるのがSNS広告の特徴です。日常生活の中で何気なくSNSの画面を眺めているユーザー、つまり潜在層へのアプローチに適しています。

「何気なく眺めている中に自然と広告が出てくる」という点ではマス広告とも似ていますが、決定的に違うのは属性や居住地、趣味嗜好などに合わせて細かくセグメントを切った上で配信できること。つまり、いわゆる「スモールマス」にリーチすることが可能になります。(※この「スモールマス」という概念については後述します。)
 
また、SNS広告は、広告からコンテンツ(例:ランディングページなど)への流入データを細かく計測することも可能です。そのため、データの活用次第では「潜在顧客はどのSNSの、どんなコンテンツを見て、ランディングページに訪問しているのか?(つまり、どんな興味関心を示しているのか)」「性別は?」「年代は?」「居住地域は?」といったことを可視化することもできます。

今さら聞けない「SNS広告」の特徴や使い分けの基本

今さら聞けない「SNS広告」の特徴や使い分けの基本

潜在層向け、顕在層向けのように“狙いやすいユーザー層”が異なるため、それらを踏まえて広告の運用戦略を練らなければなりません。今回は、運用型広告の中でも「SNS広告」に焦点をしぼり、SNS広告の特徴やそれぞれの使い分けの基本について解説します。

コロナ禍で、ユーザーのSNSに対する見方はどう変わったか?

アライドアーキテクツ株式会社が、2020年4月8日~4月12日に約4,100名のSNSユーザーを対象に行った調査によると、

・「ステイホーム」でユーザーのSNSに対する可処分時間が増えているか?と言うと、実はそうでもない。以前とそれほど変わらない人が多い。
・「SNSを見る時間が増えた」人は、主にTwitterの利用が増えた。Twitterでは「コロナウイルス感染症に関連する様々な情報」を主に見ている。次いで、「企業公式アカウントの投稿(キャンペーン情報も含む)」を目にする機会も増えた
・SNS上での企業投稿に肯定的な見方を示している人が圧倒的に多い(94%)

という点が明らかになっています。

ほとんどの人が、SNS上での企業投稿に肯定的な見方をしている、という点はこれからSNS施策を強化しようとするマーケターにとって、注目すべき点だと言えるでしょう。

【調査データ】コロナ禍の今、消費者は企業の公式SNSをどう見ている?

【調査データ】コロナ禍の今、消費者は企業の公式SNSをどう見ている?

アライドアーキテクツが、同社のSNSプロモーション総合支援プラットフォーム「モニプラ」を活用して、4,157名に「新型コロナウイルス感染症拡大に伴うSNS利用実態調査」を実施しました。

ユーザーの目に触れやすいのは、マス広告よりSNS広告?

[図5]は、「仕事や学校の休み時間・休憩中」に利用するメディア・プラットフォーム 上位15位をまとめた表です。
ビデオリサーチ「メディアポジショニング調査」 2019年10月 インターネット調査.png
出典:可処分時間をテレビに向けてもらうには(2) テレビコンテンツ視聴時間の市場開発~生活者と「映像コンテンツ」の"いま・これから"第九回~|ビデオリサーチダイジェスト

上記の図は「M1層」「F1層」が可処分時間にどのようなメディア・プラットフォームに時間を割いているかを示したものです。

SNSをはじめとしたデジタルメディアが上位を占めていることが分かり、自ずと、SNS広告を目にしてもらえる機会も多いだろう、と推測できます。

一方、M1・F1層が可処分時間を「テレビ」に割く時間はそれほど多くないこともわかります。つまり、マス広告を目にしてもらえる機会というのも、もはやあまり多くはないことが伺えます。

マス広告の課題

テレビCMがいつ放送され、どのように⾒られたかというデータは、次の4つの要素に分解されます。

 ①ターゲット(誰に)
 ②クリエイティブカバレッジ(どの商品)
 ③エリアカバレッジ(どこで)
 ④データ量(尺度と期間)(どれぐらい)

ここで「①ターゲット(誰に)」という部分でどれぐらい細かくデータを取れるのか、という点ですが、F1(20~34歳の女性)、M1(20~34歳の男性)といった15歳刻みの性年齢別の区分で見ることができます。

しかし、SNS広告のメリットで述べたような、「趣味嗜好」まで細かく絞ってターゲティングすることはできません。

参考:テレビCMデータ分析、細かいペルソナが無駄になる理由|日経クロストレンド

多様化する消費者の趣味嗜好の中で、ユーザー視点・行動をどう汲み取るか

前項までの部分では、

・アフターコロナ時代、各社のマーケティング活動はデジタルシフトが進みそうである
・SNS広告の利点、マス広告の課題

について触れました。

ここからは補論として、「SNS時代」とも言える昨今の消費者の視点や嗜好・行動についてもう少し触れていきます。

「スモールマス」という概念

大手消費財メーカー「花王」のデジタルマーケティング戦略の中では近年、「スモール
マス」という概念を提唱していると言います。これは、従来の画一的な「マス受け」「多数受け」マーケティングから、生活者の「個」(趣味嗜好、生活背景、希望、ニーズ、悩みなど)にもっと細かくフォーカスし、小さくセグメントを切ったマーケティング手法こそが今の消費者に響く、という考え方です。

先にも述べましたが、属性や趣味嗜好まで含め、セグメントを細かく切ることができるSNS広告は、まさにこの「スモールマス」の考え方と非常に相性が良いものだと言えます。

参考:マスより一歩踏み込んだ「スモールマス」とは?|宣伝会議
日本コカも注目? 花王で「スモールマス」をつくった男を直撃|日経クロストレンド

パレートの法則 「一部の熱狂顧客が消費を支える」説 

パレートの法則(80:20の法則)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、マーケティングに当てはめると「20%の顧客が80%の消費を支えている」という考え方です。

つまり、ごく一部の顧客を「熱狂顧客(ファン顧客)」に育成することで、売上の大部分を作ることができる、という理屈です。まさに前項の「スモールマス」の考え方にも通じるものだと言えるでしょう。

画一的で、多数受けするような広告を打って売上を狙うより、ごく少数の悩みやニーズを掘り下げた「スモールマス」に響く広告を打って、その少数を熱狂顧客に育て上げたほうが、売上を作っていきやすい、という考え方です。

消費者の趣味嗜好が多様化・細分化している現代において、SNS広告をはじめ、細かなユーザーデータをフル活用できるデジタルマーケティング施策を打つ際には、このような考え方も参考にしていくべきでしょう。

参考:80:20の法則を活用する3つの方法。仕事も勉強も効率が5倍に!?|STUDY HACKER

デジタルシフト+消費者視点を細やかに考えよう

コロナ禍で各社のマーケティング戦略は、ますますデジタルシフトが進みそうである、ということをリサーチデータから述べました。しかし、「ウィズコロナ、アフターコロナの時代だから、対面でのオフライン施策ではなく、非対面でのオンライン施策を進めるべき」と単純に言い切れない背景も存在します。

消費者の趣味嗜好、悩み、ニーズが非常に細分化している時代。「少数に刺さる」「その少数を熱狂顧客に育て上げる」という視点も必要になってきます。アフターコロナのマーケティング活動において、デジタル施策に注力するならば、昨今の消費者視点も考慮し、さまざまな仮説を組み合わせて施策を投入することが功を奏すると言えそうです。

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