その本質は「顧客の成功を第一の目的とする」というスタンスにある

それでは、カスタマーサクセスにおいて最も大事な、“考え方”、“顧客への向き合い方”とは一体どんなものなのでしょうか。

端的に述べると*「顧客の成功を第一の目的とする」*という姿勢になります。カスタマーサクセスとは直訳すると「顧客の成功」になりますが、その名称自体にカスタマーサクセスという理念の本質が宿っているのです。

当然の話ですが、概念と行為の発生順は必ず行為が先になります。行為が先に発生し、後からその行為を称するための概念が生まれる、という順になります。カスタマーサクセスという概念にも必ず基になった行為があり、それらの行為には概念として抽象化するに足る共通項があったということになります。そして、その共通項こそ、「顧客の成功を第一の目的とする」という姿勢なのです。事業を大きな成長へと導いたカスタマーサクセスの成功例には、間違いなくこの姿勢が徹底されています。

前述の具体例の根底にも、共通する姿勢が見られる

ここで、先程の段落で挙げた例を振り返ってみましょう。それぞれの取り組みに対し、「なぜこのようなことをするのか」という理由を付け加えてみました。すると、根底には「顧客の成功を第一の目的とする」という姿勢が共通していることがわかると思います。

①タイヤメーカー

鉱山用や運送用といった特殊車両に対し、ローテーションや空気圧の調整などを適切なタイミングで行うために、タイヤやホイールの状態をリアルタイムで把握・管理する
→なぜなら、顧客が求めているのは、鉱山会社であれば「効率よく鉱物を掘って出荷する」、運送会社であれば「荷物を正確に効率よく運ぶ」ことであり、その成果を実現するためにはタイヤの販売だけでは十分でないから

②CRMプラットフォームを提供するソフトウェアベンダー

顧客にビジネスの基礎スキルを教えるために、アカデミーやユーザコミュニティを展開する
→なぜなら、顧客が求めているのは「効率的・効果的なマーケティングや営業」であり、その成果を実現するためには自社ツールの使用法を教えるだけでは十分でないから

③教育コンテンツサービスを提供する企業

提供価値を最大化するために、先生一人一人の課題に合わせた提案型営業やプロダクト開発を行う
→なぜなら、先生が求めている成果は「生徒に学習習慣がつく」「成績が向上する」「指導に良い評判が立ち入学希望者が増える」などそれぞれ異なり、それらを実現するためには画一的な営業やプロダクト開発では十分でないから

もしかしたら、これらの例を紹介した際に、売り上げの最大化には繋がらない非効率な取り組みではないか、と感じた方もいたのではないでしょうか。確かに、リアルタイムでタイヤやホイールを把握・管理するのは非常にコストがかかりますし、ビジネスの基礎スキルの不足は顧客の問題だと片付けられる話です。また、先生ごとに営業や開発を対応させるのは難易度が高いので、画一化した方が売り上げの最大化につながるでしょう。

しかし、これらの行為が*第一の目的としているのはあくまで「顧客の成功」*です。決して「自社の成功」ではありません。だからこそ、顧客の問題と片付けられる範囲にまで踏み込んでサービスを提供しますし、一見すると自社の売り上げの最大化に遠回りな営業方法やプロダクト開発の手法を取るのです。

そして、自社の成功は、顧客の成功を実現した先にあります。この順番が入れ替わることは絶対にありません。カスタマーサクセスによって真に成功した企業ほど、この順番を理解しているので、徹底して顧客の成果の創出にコミットするのです。

逆に言えば、根底に「顧客の成功を第一の目的とする」という理念がなければ、カスタマーサクセスとは言えません。例えば、世に言うカスタマーサクセスらしき行為として、購入後の手厚いサポートや特別な顧客体験の演出、アップセル・クロスセルの働きかけ、サービスのバンドル化などが挙げられるかと思います。そういった行為の第一の目的が「自社の成功」になっていたとしたら、それらはカスタマーサクセスではありません。カスタマーサクセスの目的は、あくまで顧客の成功であり、自社の成功が実現するのは顧客の成功を実現した後です。

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