この記事は株式会社Asobica 取締役・小父内信也氏からの寄稿記事となります。

企業と顧客をつなぐ「コミュニティ」について、BtoCBtoBの成功事例を掘り下げて解説します。

本題に入る前にまずはおさらいです。
前回の記事ではコミュニティが注目される理由を「信頼の構築」「経営資源の最適化」「カスタマーイン思考」の3つのキーワードで説明しました。

顧客中心の思想のもと、企業と顧客の信頼関係を強化し、限りある経営資源を最適に分配する。そしてファンの声を丁寧に拾い上げ、顧客と共創することでブランドを唯一無二の存在へと昇華してくれる最良の手段がコミュニティです。

▼前回の記事

Cookieレス時代にコミュニティが再注目される理由

Cookieレス時代にコミュニティが再注目される理由

Cookie規制が進む中、企業は早急にマーケティング活動のあるべき姿への舵きりを迫られています。本記事では、Cookieレス時代に抑えておくべき考え方と顧客との関わりかたについてお伝えし、その対策としての「コミュニティ」についてご紹介していきます。

従来のマーケティングモデルとの違いを図で説明します。
左の図は、テレビCMや大量の広告投下によるマスプロモーションが主流の作れば売れる時代のものです。

ファンコミュニティによるマーケティング

一方、現代は右の図のようなロイヤル顧客を起点としたピラミッド型のモデルが増加傾向にあります。パレードの法則や口コミ効果により事業が拡大していく構図です。まさにブランドを愛してくれるロイヤル顧客が企業の成長を後押ししてくれるイメージです。

BtoC/BtoBのコミュニティの活用目的

ひとえにコミュニティと言っても、対象となる顧客群によって目的や関わり方が異なります。BtoCBtoBのコミュニティについて、それぞれの事例とともに説明します。

BtoC(Business to Consumer)、BtoB(Business to Business)のコミュニティは、さまざまな目的のもとで運営されています。

BtoC(Business to Consumer)のコミュニティの活用目的

・顧客エンゲージメントの促進

プロダクトやサービスに関する情報を提供し、企業と顧客との双方向のコミュニケーションにより興味関心を醸成し、顧客エンゲージメントを高める。

・VoC収集

いわゆる顧客の声と呼ばれる顧客の意見や要望を収集し、プロダクトやサービスの改善に役立てる。顧客の声を直接聞くことで、事業戦略やマーケティング戦略の改善につなげる。

・ブランドロイヤリティの促進

顧客の信頼を築き、ブランドへの忠誠心を高める。企業が事業に対する想いや情熱を発信したり、顧客と真摯に向き合うことで、ブランドへの愛着が増加する。

・サポート機能

顧客がプロダクトやサービスに関する疑問や課題を解決するためのサポートを提供し、顧客満足度を向上させる。

BtoB(Business to Business)のコミュニティの活用目的

・プロダクトフィードバック

プロダクトやサービスの改善点や要望を顧客の目線から提言してくれる。また不具合などを早期に発見するなど、プロダクトのフィードバックを得ることができる。

・オンボーディングの代替

プロダクトやサービスの使い方や注意事項、活用方法などを顧客が能動的に発信・共有することで、初心者や不慣れなメンバーもインプットが加速し、理解が進む。契約時からコミュニティに参加することを条件にしている企業も増えている。

・ナレッジシェア

特定の業界や市場に特化したノウハウやナレッジを共有し、業界トレンドやホットなトピック、最新の市場動向を知ることができる場となる。

・シナジーの創出

新しいビジネス機会の創出やパートナーシップの可能性を見出し、ビジネスの成長を後押しする。企業同士のコラボレーションにより新たなプロジェクトを始動することもできる。

・サポート工数の削減

通常サポートセンターなどで問い合わせを受ける形式が一般的で、コストセンターと表されることも多い。一方、コミュニティはファンやヘビーユーザーが多く集まるため、顧客同士の会話から質問や課題解決を自発的にしあったり、たくさんの記事や事例がたまっているため自己解決したりと、工数の削減に大きく寄与する。

BtoCBtoB問わず、コミュニティは企業のポリシーのもと、それぞれの顧客層やビジネスニーズに合わせてデザインされ、顧客中心の経営を後押しする最適な手段となるのです。

コミュニティ運営の成功事例

それでは、実際にコミュニティによって事業成長を遂げている企業事例をご紹介します。

成功事例1:入部制のコミュニティで商品開発

  • 企業名:株式会社すかいらーくホールディングス
  • ブランド名:しゃぶ葉
  • コミュニティ名:おやさい学校 しゃぶしゃ部

※招待制の限定コミュニティです

しゃぶ葉のコミュニティ

全国チェーンのすかいらーくホールディングスの「しゃぶ葉」では、熱狂的なファンが大活躍しています。

以前よりSNSの運用に力を入れており、同社から発信するプロモーション活動としては十分活用できていたものの、ユーザーインサイトをもっと深掘りしたいという思いから、コミュニティを開設しました。

コミュニティに入部希望される方には熱い想いを語っていただき、入部のハードルを敢えて高くしたことにより、とりわけ熱狂的なロイヤル顧客が集まりました。それにより、数としては少ないけれど、自ら情報収集をして楽しむ能動的な方や、しゃぶ葉に対して意見を持っている方に出会うことができました。

そしてコミュニティで生まれた成果として、「新だしの共同開発」と題し、ロイヤル顧客と一緒に開発する施策に取り組みました。コミュニティ内でアンケートを取り、そのアイデアを基に顧客と共創した「おだし」を11月に発表する予定です。

「おだし」の共同開発のようにコミュニティだけでその価値を測るのではなく、コミュニティから発生する価値をコミュニティの外の多くの人に提供し、全体への波及効果を確認することで、コミュニティでの活動をより意義の高い取り組みにできた事例と言えるでしょう。

成功事例2:ユーザーヒアリングから商品リニューアル

  • 企業名:有限会社九南サービス
  • ブランド名:タマチャンショップ
  • コミュニティ名:タマリバ

タマチャンショップのコミュニティ
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宮崎県都城市に本拠地を置く自然食品屋として、安心・安全で、おいしく栄養いっぱいの「しあわせ食」をインターネット通販で販売する有限会社九南サービスの事例です。愛用者のレビューを募り、もっと好きになってもらうための場としてオンラインコミュニティを運営しています。

成功の秘訣として、いきなり大きく始めるのではなく、「タマチャンショップ」ブランドの世界観に共感している顧客の方を中心にスモールスタートを切りました。

積極的にレビューやレシピ投稿をしてくれているロイヤル顧客にコンタクトをとり、コミュニティにどんな機能がほしいか、どんな企画であれば楽しんでもらえるか直接ヒアリングして決めていったそうです。

日々たくさんの顧客の方の投稿が発生していて、ユーザー同士の交流も盛んに行われています。それだけでもコミュニティとしては成功していると言えますが、さらに具体的な成果として定量的にも結果を出しています。

コミュニティ内のユーザーにヒアリングし、おつまみ商品「キノコッチ」の味をリニューアルしました。その結果、注文数が約60%、高評価率が20%増加しています。まさに顧客との共創のリアルな事例と言えるでしょう。

商品のことをよく知り、愛着を持っている顧客が集まっているからこそ、何度も商品へのフィードバックをもらい、商品開発に活用することができる非常に参考となる事例だと思います。

キノコッチ

顧客の声をもとにリニューアルした「キノコッチ」

成功事例3:成功事例への解像度が上がり、事業グロースへ

  • 企業名:株式会社DMM Boost
  • ブランド名:DMMチャットブースト
  • コミュニティ名:Booster

DMMチャットブーストのコミュニティ

LINE公式アカウントの機能拡張プラットフォームを提供するDMMチャットブーストでは、契約事業者向けの「Booster」コミュニティを運営しています。

コミュニティの活用目的は、DMMチャットブーストのマーケットでの認知を向上させること。そして「チャットブースト」がマーケットで第一想起される存在になることです。これらを達成するために、既存顧客の熱量を高め、顧客から魅力を発信してもらえるような状態を作ることが必要と考えました。

Boosterが特徴的なのが、深い関係性を顧客と築いている点です。2人のコミュニティマネージャーが絶妙な距離感とフラットなコミュニケーションで、顧客との親密な関係性を構築できています。そのため、コミュニティを取り巻く雰囲気はとにかくあたたかく、心理的安全性が担保されているのです。コミュニティに参加する顧客は積極的に発言したり、交流しあったり、ノウハウを共有するなど活発に活動しています。

その秘訣について聞いたところ、緻密な戦略が設計されていて驚きました。大きく「交流」と「学習」の二軸で動機を区分けしており、分断しがちなその二軸をうまく使い分けてシナジーを生み出しているとのことでした。オフラインのユーザーイベントを開催した際に、深いコミュニケーションを取りながら、その場の状況や空気感、タイミング等を見計らって、交流/学習にそれぞれフォーカスする時間をコントロールしているそうです。

具体的に言うと、以下が「交流」「学習」のコンテンツ例になります。

①「交流」のコンテンツ

自己紹介や、機能に関する雑談の話をコミュニティマネージャーとユーザー、またはユーザー同士で行っています。ユーザーが参加する勉強会でも状況に応じて雑談を交えるなど、積極的に双方の交流を生み出しています。

②「学習」のコンテンツ

EC運用に合わせたナレッジについて「成長を加速する」を軸に、ウェビナー開催、ユーザー同士の相談会、3か月ブートキャンプ実施など、ユーザーが学べる機会を設けています。実際にウェビナーのアーカイブ動画とプレゼン資料を見て、EC運用について体系的に学び即実践したユーザーは、当初の売上が100万円だったところ、瞬く間に4000万円に大きく跳ね上がり40倍の売上効果を出すことに成功しました。

これらの事例や、成功したユーザーを中心に、成功モデルを求めてユーザーが集まり交流サイクルに移り変わります。その交流を通じて、さらなる成功ケースを生み出しています。

コミュニティの展望について、コミュニティマネージャーに聞いたところ、「コミュニティを活用することによって成功事例への解像度がグンと上がり、将来の可能性が広がった。今後はコミュニティを活用して事業をグロースさせたい」とのこと。これからもコミュニティ「Booster」の動きに注目していきたいと思います。

成功するファンコミュニティの始めかた

では、最後に成功するコミュニティはどのように始めるべきなのか。筆者が立ち上げ支援としてコンサルティングする際の手順に沿って解説します。

まずファンコミュニティはプロジェクトと一緒で「目的」がなによりも重要です。コミュニティは企業の事業戦略の中心となるため、関連する部門や部署も必然的に多くなります。思い通りいかず、想定外のことも多々発生します。そのため、いつでもぶれずにいるための「目的」の設定が非常に重要になります。

そして先ほどの「タマチャンショップ」の事例であったように、焦らず小さく始めることがセオリーと言えるでしょう。逆にコミュニティの立ち上げで失敗しやすいケースとして、短期間に成果を求めてしまうことがあげられます。

大切な顧客との関わりである以上、その構築もしっかりと信頼を得ながら、少しずつ拡大していかなくてはなりません。大体の目安は、半年から1年間をかけて構築、成長していく時間軸です。まずは種を撒いて、下図のように、小さな種に丁寧にお水をあげて、たくさんの日光を浴びて、徐々に大木へと成長していくイメージです。

ファンコミュニティの始めかた

コミュニティ構築時に取り決める事項

  • 目的
  • ゴール(短期/長期)
  • 役割(位置付け)
  • ターゲット選定
  • ペルソナ設計
  • コミュニティマネージャーの選定
  • コミュニティリーダーの定義、選定
  • タイムラインの算定
  • コミュニティ規模の計画
  • 予算の確保
  • 体制の整備
  • ルール作り
  • オフラインイベントセミナー
  • カスタマージャーニー
  • タッチポイントの整理
  • コミュニケーションチャネルの施工
  • コンテンツの作成

コミュニティは誰のものか?」という問いに対しては、「自社と顧客と世の中のために存在しています」とお答えします。まずは焦らず顧客の声を集め、その声に耳を傾けて、しっかりと向き合っていくことが大切なのです。そして顧客とともに事業を加速していく。その姿勢がいま、企業に問われている真の姿であるのです。

2回に渡り、いまコミュニティが注目される理由と具体的な成功事例についてお伝えしてきました

まだまだ顧客中心の経営は浸透しているとは言えませんが、顧客と正面から向き合っていく経営スタンスは間違いなく拡大しており、今後ますますその重要性は増していくことでしょう。この記事が、みなさんの日々の業務や考え方に少しでもお役にたてられましたら幸いです。