11月17、18日の2日間に渡って開催された日本最大級のスタートアップの祭典「TechCrunchTokyo2016」。

その目玉企画の一つとして実施されたのが、スタートアップ企業が自社サービスプレゼンで競い合う「スタートアップバトル」です。
今回は116社が応募、20社が予選へと進み、その中から6社がファイナルバトルへと進みました。18日の大トリを飾る形で開催されたファイナルバトルの結果、優勝を勝ち取ったのは、小児医療について現役医師にオンラインで直接相談できる「小児科オンライン」でした。

平日18〜22時の間で、医師や看護師に電話で直接医療相談ができる「小児科オンライン」は、8年間小児科医として勤務されてきた橋本直也氏が中心となって事業化されました。

一般的なクリニックが閉まる17時、18時以降に救急外来に来る小児患者は多いものの、ほとんどが受診する必要のない症状である場合が多い一方で、重病患者のケアに割ける時間を確保することが難しくなっています。

核家族化が進み、育児について相談できる人が周囲にいない保護者が増え、病院に頼らざるを得ないケースが増えたことが受診数増加の一つの要因でしょう。

そのような状況を目の当たりにしていた橋本氏は、「病院に行く前に、受診する必要があるかどうかを相談できるサービス」の必要性に気付き、「小児科オンライン」を起ち上げました。

ferretでは、小児科オンライン立ち上げの経緯とこれから目指す未来について、代表の橋本氏にインタビューを実施しました。
今回はその様子をお届けします。

「小児科オンライン」とは?

小児科オンライン|お子様に関する悩みをチャットや電話で気軽に相談.png
https://syounika.jp/

「手のひらに小児科を」をコンセプトに、18〜22時の間でLINEや電話などで小児科医に気軽に医療相談できるサービスとして2016年5月にリリースされた「小児科オンライン」。
現在は企業や保育園、健保など法人単位での導入を進めています。

対応するのは全て現役の小児科医で、アドバイザーには東京大学名誉教授であり、国立成育医療研究センター理事長である五十嵐隆氏をはじめ、経験豊富な小児科医が数名就任しています。

既に厚労相とも密にコミュニケーションを取り、国が進める医療改革とも連携しながらサービスを成長させていくようです。

「小児科オンライン」橋本代表インタビュー

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小児科オンライン 代表 橋本 直也氏

ferret:橋本さんのこれまでの経歴を教えてください。

橋本氏:
研修医を経て、世田谷にあるこども病院で3年間勤務しました。
公衆衛生学の大学院で、在学中に起業しました。
起業した今も、週2日の外来勤務を続けています。

ferret:今のメンバー構成は?

橋本氏:
メインは6人ですね。
僕のほかに小児科医が2人、あとはエンジニアとマーケ担当がいます。

ferret:医療行為ではなく医療相談というコンセプトのサービスはほかにはないのでしょうか?

医療相談でいうと、#8000番(※)という、看護師さんに電話で相談できるサービスがあります。
これは日本国内であれば大体どこでも受けられます。
それと仕組み的には変わらないものですね。

※小児救急でんわ#8000
厚生労働省が提供している小児科電話相談サービス。夜間な休日に急に子供の体調が悪くなった時、受診するべきかどうかを電話で相談し、小児科医や看護師がアドバイスをするサービス。
全国に自治体が存在し、国内であればどこでも受診可能。利用は無料で、利用可能時間帯は自治体によって異なる。

参考:
小児救急電話相談事業(#8000)について |厚生労働省

ferret:サービスを広めていく手段は?

橋本氏:
困っているお母さんからはお金を取らないモデルを実現したいので、基本的には法人に導入してもらうように動いています。
法人向けなので、地道に電話営業しています。
あとは知り合いから紹介してもらったりですね。

ferret:かなり権威のある方々がアドバイザーとして参加されていますが、どのような経緯があったのでしょうか?

橋本氏:
アドバイザーの五十嵐氏は小児科医の中では一番権威のある方なんですが、僕が勤務していた病院の理事長だったんです。

その時代から既知の仲なので、話を持って言ったら、すごく共感していただいて、加わっていただきました。

ferret:アドバイザーはどの程度事業に関わっているのでしょう?

橋本氏:
相談員も僕らもまだ医者8年目ぐらいの若いメンバーでやっているので、やっていることが時代に合っているのかを厳しく見てもらうようにしています。
どの時代でも子育て支援は小児科医のやるべき仕事だと考えを持たれていて。
今はスマホがあるから、それを使えばいいと。
*「自分が若い頃やっていたことと同じことをやっているな」*とおっしゃってましたね。

これからは小児科医のいる場所に子供が行くのではなく、子供がいるところに小児科医が行く構造を作っていくべきだと考えています。
そうなれば子供の健康が守れる。
診療所を開いて「さあどうぞ」ってやっているだけではダメになってきているんじゃないかと思います。

家庭や保育園など、子供が生活しているところと小児科医が密に接点を持っていく。
発達障害や不登校、虐待、アレルギーなど、今増えている事象に対して、スマホのような身近な接点を使ってアプローチしていくべきではないかなと考えています。

ferret:小児科以外の領域も考えているのでしょうか?

橋本氏:
一番近しいのは産婦人科なので、まず広げるとしたらそこですね。
お母さんの生活習慣が良くないと子供の健康に悪影響がある。

子供の健康って受精のタイミングから始まっているので、そういうところの相談サービスもやっていきたいなと思います。
その先に成人医療があるかもしれないけど、その時は優秀な内科医がジョインしてくれたらやるんじゃないですかね。

ferret:最近、Web上にヘルスケア関係の信憑性が薄い情報が流れていることが問題視されています。小児科オンラインのように、正しい情報をユーザーに伝えられるサービスがこれから必要とされていくかと。

橋本氏:
そこは意地でもやっていきたいですね。今後、自分たちのメディアも持とうとは考えています。

外来でも、ネットで調べて不安になったという方にとても多く出会うんですよ。
そういう方々の話を聞くと、胸が痛みますね。

核家族化が進んでいるから、周りに相談できるようなおじいちゃんおばあちゃんがいないんですよね。
子育ての孤立は、ほっといてはいけない問題です。

ferret:今後、相談件数が増えていった場合はどう対応するのでしょう?

橋本氏:
今23名小児科がいて、徐々に増えていく予定です。
対応できるメンバーの数についてはボトルネックになるかなとは思うんですが、この事業は僕らができなければ誰もできないと思うんです。
なので、とにかくやるしかないですね。
自分たちの志を出していくことで医師は集まってくるので、そういう意味でも自分たちの信念にこだわっていきたいなと思います。

ferret:最後に、ユーザーに向けて伝えたいことがあればどうぞ。

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橋本氏:
「こんな些細なこと聞いていいのかな」と思うことでも何でもいいので、まずは気軽に相談してください。
小さな悩みでも自分で抱えない方がいいです。