マーケティングにおける有名な言葉の一つに「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」という格言があります。

顧客は「穴を開けたい」というニーズを解決する手段の1つとしてドリルを選んだにすぎません。しかし、商品を得る立場からみると、商品を買いに来たのだから商品が欲しいに決まっていると本質的なニーズを見誤ってしまいます。
マーケティングにおいて、この言葉は商品を売るには顧客にとっての価値から考えるべきだという示唆を与えています。

この言葉に近い考え方として、ジョブ理論という考え方があります。
ジョブ理論では、顧客の本当にしたいことを「Job(仕事)」として捉え、新規サービスを開発する発想法として用いられています。

今回は、ジョブ理論とは何か、どのような事例があるのかを解説します。
新規サービスの開発に携わる方だけでなく、顧客のニーズに向き合わなければいけないマーケティングの担当者にとっても参考になる理論です。
顧客の真のニーズとはどのような部分にあるのかを一緒に考えていきましょう。

ジョブ理論とは

ジョブ理論とは「人間はしたいことやしなくてはならないこと=Job:ジョブを完遂するための、商品やサービスを雇っている」とする理論です。

ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるクレイトン・クリステンセン氏が提唱し、イノベーションを起こす商品開発の発想法の1つとして活用されています。

では、一体「ジョブ」とは何を示しているのでしょうか。

例えば、ある人の1日を考えた時、下記のようなものがジョブに該当します。

・目を覚ます
・顔や口の中を清潔にする
・朝食をとる
・仕事先に向かう
・仕事を行う
・昼食をとる
・リラックスする
・取引先に向かう など

このように人間は生活の中であらゆる行動をタスクとして処理しています。
ジョブはタスクであり、食事などの基本的な欲求に伴うものや病気などの解決すべき課題、リラックスするのような精神的な活動まですべて含まれます。

ジョブ理論では*「人間はジョブを完遂するために商品やサービスを雇っている」*と考えます。先ほどの例を出すと、歯ブラシを使うのは「口の中を清潔にしたい」「虫歯にならない」というジョブを完遂するためのものと言えるでしょう。

ジョブを考える時の注意

ジョブを認識する際に注意したいのが、商品やサービスをすでに雇っている状況をジョブと定義してしまうことです。
社会に定着している商品やサービスであるほど、この誤解は生まれやすいでしょう。

例えば、あなたが書店に行くのはどのようなジョブを完遂させたいからでしょうか。
「本を買いたいから」というのは本質的なジョブではありません。
「特定の知識を得たいから」「面白い内容を知って楽しみたいから」などが挙げられるでしょう。

このジョブが見えるようになると、実はユーザーのジョブを完遂させるためには「本」である必要はないことに気づきます。
「特定の知識を得たい」なら、Webでもいいかもしれませんし、専門家に話を聞くのもいいかもしれません。

新商品の開発を行う時には、ターゲットとする顧客のジョブに向き合うことで、ジョブを完遂できる新たな商品・サービスを考えていきます。
先ほどの例でいえば「特定の知識を得たい」というニーズに応えて、専門家の直接相談サービスを開設することが想定できるでしょう。

新しいサービスを考える時には、既存の商品からより発展した高機能な商品や顧客のイメージ像にあった商品に目が行くかもしれません。
ジョブ理論では、商品中心の視点や顧客のイメージ像よりもさらに根本的な「行いたいこと」に注目しているのが特徴です。

そのためジョブを土台とした商品やサービスは「本当はこういうのが欲しかった」という、すでにあったニーズに顧客自身に気づいてもらえる商品が生まれるかもしれません。

参考:
[「マーケティング課題」を解決する、クリステンセン教授の“Job to be done”とは?]
(http://bizzine.jp/article/detail/1229)
[イノベーションの始祖、クリステンセンが語る「成長企業の条件」]
(https://www.projectdesign.jp/201601/chance-in-mature-industry/002617.php)
[顧客自身が気付かない“面倒くささ”を見つける]
(http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/062400001/020400013/)
[“ドリル”に注目しても「顧客のジョブ」は掴めない-「顧客ジョブマップ」の理解と活用]
(http://bizzine.jp/article/detail/1264)