「時代はモノ消費からコト消費へ」
そんな言葉をニュースや新聞でも多く見かけるようになりました。商品の所有に価値を見出す消費傾向を「モノ消費」、商品やサービスを購入したことで得られる体験に価値を見出す消費傾向を「コト消費」といいます。

では、なぜ「モノ消費からコト消費へ」という変動が今起きているのでしょうか。今回は、モノ消費・コト消費という言葉が注目されている背景と、コト消費に対応した事例、さらにもうひとつ注目を集めている消費活動「トキ消費」についても解説します。

*コト消費は国内市場だけでなく、訪日外国人によるインバウンド市場でも注目されています。*この機会に注目されている背景を学び、自社のビジネスにどのような影響があるのかを考えてきましょう。

モノ消費・コト消費とは

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https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&q=%E3%82%B3%E3%83%88%E6%B6%88%E8%B2%BB

Google検索に連動したGoogleトレンドで「コト消費」と検索すると、2006年頃から言葉が使われ始めたのがわかります。

では、そもそもモノ消費・コト消費とは、どういった意味で利用されているのでしょうか。

経済産業省の公表している『平成27年度地域経済産業活性化対策調査報告書』では、モノ消費とコト消費について以下のように説明されています。

【モノ消費】
個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること。価値の客観化(定量化)は原則可能。
【コト消費】
製品を購入して使用したり、単品の機能的なサービスを享受するのみでなく、個別の事象が連なった総体である「一連の体験」を対象とした消費活動のこと
引用:平成27年度地域経済産業活性化対策調査(地域の魅力的な空間と機能づくりに関する調査)報告書

経済産業省の「コト消費空間づくり研究会」では、コト消費について以下のように説明されています。

コト消費とは、魅力的なサービスや空間設計等によりデザインされた「時間」を顧客が消費すること。例えば、まち歩きや外湯巡りなど。
引用:「コト消費空間づくり研究会」報告書をとりまとめました~地域の魅力的な空間と機能づくりを支援していきます~

つまり、コト消費とは*「商品・サービスによって得られる経験に価値を感じて使うこと」を指しています。一方、モノ消費は、「商品・サービスの機能に価値を感じて使うこと」*と言えるでしょう。

モノ消費からコト消費へ変化している背景

モノ消費からコト消費の変化は、2つの顧客層を対象に言われています。1つは国内消費、2つめに訪日観光客によるインバウンド消費の2つです。

特にインバウンド消費に関しては、近年の訪日観光客の増加に伴いニュースとして取り上げられることも多くなりました。では、それぞれどのような背景で、モノ消費からコト消費への変化が起こっているのでしょうか。国内消費・インバウンドに分けて見ていきましょう。

国内消費:国内市場の成熟化

モノ消費からコト消費への変化の背景には、日本国内における消費の成熟化が挙げられます。

「三種の神器(冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビ)」や「3C(カラーテレビ ・クーラー・自動車)のような商品は人々の生活を豊かにするもとして、多くの消費者に選ばれました。

ですが、現在ではそのような必需品はほとんどの人に行き渡っています。
その結果、機能的な価値を提供するだけでは消費者に選ばれにくくなってきています。

実際、株式会社ジェイアール東日本企画が行った「普段の生活に関する定性調査及び定量調査」によると「家にモノが溢れていてこれ以上持ち物を増やしたくない」という質問に対して「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人は全体の52.1%にのぼりました。

そういったモノ自体へ意欲の低下が、コトを重視する消費動向への変化につながっていると言えるでしょう。

参照:
ジェイアール東日本企画が、「コトの時代の生活者にモノが愛されるためのキーワード」を発表

インバウンド消費:訪日観光客内でのリピーターの増加

訪日観光客が、家電や生活雑貨のようなモノではなく、温泉巡りや着物体験などのコトを楽しむようになった背景にはリピーター客の増加が挙げられます。

観光庁の『訪日外国人消費動向調査』によると、2016年10~12月期の訪日観光客のうち、初めて日本に来るという人はは38.4%であり、*2回以上来ているという人は61.6%*にのぼりました。

このようにリピーターは訪日観光客の半数にのぼり、中には10回以上訪れている人も14.3%います。そこから日本製の製品はすでに購入し尽くした顧客が、製品とは異なる価値を求めて訪日していると予測できます。

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引用:訪日外国人の消費動向訪日外国人消費動向調査結果及び分析平成28年10-12月期報告書

実際に同調査では、訪日観光客の多くが次回訪日した際に実施したい行動として「四季の体感」や「自然体験ツアー・農漁村体験」といった体験を挙げています。
一方では、ショッピングに関して、今回実施した人は80.5%という高い数値ながら、次回実施したい行動としては43.1%に留まりました。

国内消費・インバウンド消費ともに、本質的には同じ*「すでにモノ(商品)は買い揃えてしまった」*という現状があります。
すでに物的な豊かさは得ているなか、さらに充実した生活のために精神的な豊かさを求める消費者感情がコト消費へとつながっているのでしょう。

参考:
訪日外国人消費動向調査|観光庁
モノ消費ではなくコト消費の時代へ
アングル:インバウンド需要は「コト消費」へ、地方に恩恵も

コト消費の事例

では、実際にコト消費を捉えた商品・サービスにはどのようなものがあるのでしょうか。
インバウンド消費・国内消費の両方から事例を見てみましょう。

1.加賀屋

【公式サイト】和倉温泉 加賀屋___北陸 能登 石川-旅館_宿泊.png
http://www.kagaya.co.jp/

石川県に所在する老舗旅館「加賀屋」では、1995年に日系台湾自動車メーカーのインセンティブツアーを受け入れて以来、台湾現地の旅行会社を通じて営業を行ってきたことで、台湾からの宿泊客を伸ばしています。

加賀屋の特徴は、日本人観光客・外国人観光客ともに差別なく「おもてなし」を重視した対応を行っていることでしょう。

また、ホームページでは英語、中国語など6言語に対応しいるほか、Facebookで日・英・中3言語で情報発信を行うことで、インターネットからの個人予約客を増やしています。雪駄や下駄で館内を歩けるサービスや花見や雪見といった四季のイベントなどを提供し、ただ寝泊まりするだけでない空間作りを行うことでコトの需要にも答えています。

参考:
[平成27 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備事業(訪日外国人の消費促進のための観光関連サービス産業等の在り方に関する調査研究) ]
(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000115.pdf)

2.irina

ロールタワー|イリナスイーツコレクション_irina_sweets_collection_公式サイト.png

http://www.irina-irina.com/item-1.html

銀座にあるスイーツショップirinaでは、小ぶりのロールケーキをセットにした「ロールタワー」というロールケーキを販売しています。

このロールタワーは購入した顧客自身が積み上げることで完成する点が特徴です。
ただ商品として販売するのではなく、家族や友人とロールケーキを積み上げてパーティーを行う楽しさそのものを価値として提供しています。

参考:
日本一高い? いや格安なロールタワーケーキが人気になる理由:日経トレンディネット
※記事の公開は終了しております。

新たな消費活動「トキ消費」にも注目

トキ消費とは

最近は「トキ消費」という新たな消費活動にも注目が集まっています。SNSが発達したことで、多くの人々が「コト消費」で体験したことをSNSで拡散するのが当たり前になってきました。その結果、実際に自分自身が体験したことではなくても、インターネットを通じてまるで擬似体験をしているかのように多くの情報が手に入るようになっています。

そこで注目されているのが「トキ消費」です。トキ消費とは、音楽フェスやハロウィーンの集まりなど、「その日・その場所・その時間」でしか体験できないような物事に参加する消費行動のことです。

SNSが発達しているからこそ、SNS越しの擬似体験では味わえない、“ここで自分が参加するからこそ意味のある”と感じられるような消費に注目が集まっているのかもしれません。

参考:
「コト消費」では説明できない。博報堂生活総研が新たに提案する「トキ消費」とは? | AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議

目には見えない新たな価値を求めるように

モノ消費からコト消費への変動の背景には、国内市場・インバウンドともに*「生活に必要なもの・買いたいものはすでに揃ってしまったので、目に見えない価値が欲しい」*という価値観の変化があります。それは単純にモノが売れなくなったということではなく、モノに新たな価値が求められるようになったと捉えられるでしょう。

例えば、irihaのロールケーキではケーキという商品だけでなく、ケーキを組み立てる楽しさも商品の中に含んでいます。このように既存の商品であっても、利用することで消費者にとって楽しさや嬉しさを感じられる商品であれば、コト消費のニーズにも応えていけるかも知れません。

大手百貨店の三越伊勢丹ホールディングスが国内の百貨店全体の売り場面積を2~3割縮小し、代わりにエステや美術展のようなコト消費に合わせた売り場にすると発表するなど、モノからコトへの消費動向の変化はBtoC産業にとって関心ごとの1つとなっています。

モノ消費からコト消費への変化は、大きなビジネスチャンスでもあります。
社会のニーズの変化を感じ取りながら、自社の戦略へと反映していきましょう。

参考:
売り場面積2~3割縮小を検討 三越伊勢丹HD社長 コト消費に対応- SankeiBiz(サンケイビズ)

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近年、「物」ではなく「経験・体験」を提供するサービスに人気が集まっています。もしくは同じ「物」でも、何かしらの「感動」を付加価値としてアピールする商品も少なくありません。 物を所有することに価値を見出すのではなく、その物を購入することによって得られる経験、もしくはサービスの経験そのものの購入に価値を見出すことを、「コト消費」といいます。「コト消費」は、今や国内市場だけではなく、訪日外国人の観光施策でも取り入れられています。 今回は、2017年に話題となった「コト消費」の事例を15個ご紹介します。