「メタバース」は2020年頃から注目され、Facebookが2021年10月に社名を「Meta」へ変更したことがきっかけに、大きく話題になりました。

この記事では、最近よく耳にするものの、まだメタバースに馴染みがない方に向けて、基礎知識の解説と自社のマーケティングのヒントになるような取り組み事例を紹介します。

目次

  1. メタバースの定義とは?
  2. メタバースはどんな分野で活用されているの?
  3. 日本企業のメタバース活用事例は?
  4. メタバースが注目されている背景とは?
  5. メタバースはいつ本格的に普及するの?

メタバースの定義とは?

まずは「メタバースとは何か」から、その輪郭をつかんでいきましょう。

統一された定義はまだない

現時点(2022年8月)では、メタバースの統一された定義はまだありません。2021年7月に経済産業省が公開した資料によると、メタバースの定義とは「一つの仮想空間内において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供される場」とされています。

出典:【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)

「クローズドメタバース」と「オープンメタバース」

「一つの仮想空間内において」とされてはいますが、現在提供されているメタバースは、基本的に各社がそれぞれで仮想空間を構築する「クローズドメタバース」と呼ばれるもので、各社のサービスの互換性はありません。

メタバースには、1社単独で構築する「クローズドメタバース」と、複数のサービスで相互的に運用する「オープンメタバース」の大きく2つの方向性があり、「オープンメタバースを構築するには、これからの技術的な進化が必要です

ちなみに、メタバースは、“meta”(超越した)と “universe”(世界、領域)を合わせた造語で、アメリカの作家Neal StephensonのSF小説「Snow Crash」(1992年)に登場する、架空の仮想空間の名称が「メタバース」の原点とされています。

メタバースはどんな分野で活用されているの?

メタバースの利用が最も浸透しているのはゲーム業界です。アメリカのEpic Games(エピックゲームズ)社が開発するオンラインゲーム「Fortnite(フォートナイト)」の登録アカウント数は5億人超となっており、現在のメタバースのトレンドの基点といえるサービスです。

ストリーミング上映ができるゲームモードが実装されてからは、多くのアーティストがオンラインコンサートを開催しています。2020年8月には米津玄師がパフォーマンスし、日本のメディアでも数多く取り上げられました。

米津玄師 2020 Event / STRAY SHEEP in FORTNITE

日本企業のメタバース活用事例は?

企業によるメタバースへの参入も広がってきており、日本でも活用事例が増えてきています。

株式会社HIKKYが8/13〜 28に開催した、メタバース上のVRイベント『バーチャルマーケット2022 Summer』から、最新事例をピックアップして紹介します。

みずほ銀行

Mみずほ銀行.jpg

みずほ銀行は、1階に銀行店舗をイメージした交流スペース、2階からはボルダリング体験ができるタワーを出展しています。タワーの頂上まで登るには、途中で出題される金融クイズに正解する必要があり、頂上に登るとメタバースエリア内の大阪の街並みが見られる仕掛けを用意しています。

期間中には、1階の交流スペースで、みずほ銀行の行員による座談会も実施されました。

SMBC日興証券株式会社

SMBC日興証券.jpg

SMBC日興証券は、『投資について学べるミステリーダンジョン』ブースを出展しています。投資に関する様々な格言をクイズ形式で学びながら、ダンジョンをクリアしてゴールを目指す体験型アトラクションとなっています。ゴール特典として、証券取引所のセレモニーなどで使われるお祝いの鐘を打つ体験もできます。

期間中には、オリジナルアバターのプレゼントや、メタバース上で行う投資に関する相談会なども予定されました。

焼津市

焼津市.jpg

企業だけでなく、地方行政からの出展があるのも、2022年の大きな特徴です。

静岡県焼津市は、大阪内の空港を模したエリアにて、焼津市のPR動画やふるさと納税返礼品の紹介など、市の魅力を発信するブースを展開しています。

ブース内では、来場者に魚の街・焼津に親しんでもらう体験として、『バーチャルマグロ解体ショー』を設置。さらにブース内にあるデジタルポスターから直接ふるさと納税寄附サイトに遷移し、その場で寄附をすることが可能です。

株式会社ビームス

BEAMS.jpg

小売業界はメタバースと相性がよく、複数回目の出展となる企業もあります。

4度目の出展となるBEAMSのバーチャルショップでは、関西の実店舗に勤務するショップスタッフを含む約50名が交代でVR接客を行います。

リアルのアパレル商品だけでなく、アバター用衣装(3Dモデル)も販売し、期間中には、アバターファッションを楽しむユーザーコミュニティが集うパーティーをバーチャルショップで開催しました。また、VRゴーグルバッグなど、VRが身近にある暮らしを想像してキュレーションしたインテリア雑貨も販売します。

株式会社大丸松坂屋百貨店

大丸松坂屋百貨店_外観.jpg

大丸松坂屋百貨店_店舗.jpg

同じく4度目の出展となる大丸松坂屋百貨店は、リアル店舗の特徴を盛り込んだデザインの百貨店ブースを制作し、夏にぴったりな“ごちそうグルメ600点をリアルで購入することができる他、オリジナル食品3Dモデル14点の販売も行っています。

大丸松坂屋百貨店の歴史を知ることができるアトラクションも用意。屋上には昔ながらの「デパートの屋上遊園地」を連想させる遊具も登場します。また、スタッフアバターを2体制作し、メタバース接客を行います。

メタバースを活用する業界の幅は広がっている

株式会社HIKKYの広報担当によると、これまでは小売業界がリアル・ECに次ぐ、第3の商空間としてメタバースに注目するケースが多かったとのこと。

今回のイベントでは、みずほ銀行、三井住友海上火災保険が初出展、SMBC日興証券が2021年に続く出展と金融・証券会社の参入が増え、泉佐野市、焼津市といった地方行政からの初出展がある状況を見ると、メタバースに注目している業界の幅は確実に広がっているとのことです。

企業のメタバース利用目的

企業が同イベントに出展する目的は、大きく3つあると言います。

  • 自社の名前、ブランドを知ってもらうPR
  • リアル製品、3Dモデル商品の販売
  • ファンづくり、コミュニティ形成

重要なのは、メタバース空間だからこその遊びの要素を取り入れ、リアルではなかなか接点を持てなかった人とつながる仕掛けづくりです。紹介した企業のブースからも、そのための工夫が見てとれます。

メタバースが注目されている背景とは?

前出の通り、Facebookが社名を「Meta(Meta Platforms, Inc.)」へ変更し、「メタバース企業になる」と宣言しました。この社名変更で「メタバース」の用語の知名度は上がり、様々な企業の参入が続きましたが、注目されている要因は他にもあります。

株式会社日本総合研究所が2022年7月に公開した資料によると、メタバースが注目されているのは、3つの主な要因があります。

  1. VR技術の進化
  2. NFTによる仮想空間上での経済活動
  3. コロナ禍による受容の変化

出典:メタバースの概要と動向 ~ビジネスシーンでの活用に向けて~(2022年7月1日
株式会社日本総合研究所先端技術ラボ)

1.VR技術の進化

VR技術により、仮想空間の中で身振り・手ぶり・顔の表情などを通じて、より自然なコミュニケーションをより手軽に行えるようになったことがあげられます。

2002年に構築された、アメリカのLinden Lab(リンデンラボ)社の「セカンドライフはメタバースの先駆けです。日本では2007年頃に注目されましたが、翌年には下火になりました。その主な要因は、技術が未成熟だった点にあります。当時はまだガラケーが一般的で、パソコンも通信速度も遅く、コアなユーザーのみがアクセスできるものでした。

Metaが開発した一体型のVRヘッドセット「Oculus Quest 2」
Quest2_.png
出典:Meta

現在は、パソコンやゲーム専用機だけでなく、スマートフォンやVRヘッドセットなどを用いてメタバースサービスを体験でき、サービス利用に対する障壁が格段に低くなっています

ちなみに、メタバースは、スマートフォンやPCを含めて何かしらのデバイスで体験するものなので、VRゴーグルが必須なわけではありません。専用デバイスを通して仮想空間を作り出す技術はAR・MR・VRがあり、その総称は「XR」と呼ばれます。

名称 説明
AR(Augmented Reality:拡張現実) スマートフォン・タブレット・スマートグラスなどを介して、現実世界にデジタル情報を投影する技術
MR(Mixed Reality:複合現実) MRデバイスを通して、現実世界にいながらデジタルとリアルの情報を重ね合わせる技術
VR(Virtual Reality:仮想現実) VRデバイスを通して、100%デジタルな環境(仮想世界)を作り出す技術

2.NFTによる仮想空間上での経済活動

仮想空間の中で行われる経済活動を補完するような技術「NFT」(Non-Fungible Token非代替性トークン)が発展したことも、注目を集める理由のひとつです。

NFTは、「ブロックチェーン上で発行された、代替不能なデジタルトークン」です。
メタバース内のアバターやアイテムといった、デジタルコンテンツにNFTが付与されて取引されることで、デジタルアイテムの保有者情報をブロックチェーンの技術を使って管理できるのです。

また、複数のメタバース・サービス間でデジタルアイテムや通貨が相互利用できるようになることで、NFTの市場が拡大し、メタバースが新しい経済圏になる可能性が期待されています。

話題の「NFT」とは何か?注目される背景、活用事例を紹介

話題の「NFT」とは何か?注目される背景、活用事例を紹介

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、簡単に言うと「持ち主を証明できるようにしたデジタルデータ」です。NFTはどのようなものか、なぜ注目されているのか、具体的な活用事例を交えながら紹介します。

3.コロナ禍による受容の変化

COVID-19の影響で物理空間での集会に制約が生まれた結果、オンラインによる対話やイベントが普及したという、社会的な要因も重なりました。ビジネス、プライベートを問わず、豊かなコミュニケーションや多様な体験を実現できるオンライン空間として、メタバースが期待されています。

メタバースはいつ本格的に普及するの?

前出の通り、メタバースの利用が活発なのはゲーマー層です。メタバースの本格的な普及のためには、ゲーム以外の領域で用途や利用者が増えていくことが欠かせません。

PwCコンサルティングは2022年6月7日、日本企業1,000社超を対象とした「メタバースとNFTのビジネス利用に関する調査」の結果を発表しました。

メタバースの認知率.png
出典:メタバースは「ゲーム・エンタテイメントのための仮想空間」からビジネス活用のフェーズへ

調査によると、メタバースの認知率は47%と約半数に達しています。そのうち、自社ビジネスでの活用に関心がある企業は10%、メタバースという用語は知っているがビジネス活用に関心がない企業が残りの37%という結果でした。

認知率は少しずつ高まっていますが、本格的な普及には、日常生活でも使われるようなメタバースのサービスの登場が待たれます。