情報発信に取り組みたいけれど、社内にメディア運営の経験者がいない。

オウンドメディアやコンテンツマーケティングを進めていく上で、適任者不在という悩みを抱える企業は多いようです。

これまでやってこなかったことを新しく始めるのですから、社内に適任者がいないのも仕方のないこと。情報発信に取り組もうとする企業は、未経験ながらも可能性のある人に”編集長”を任せます。

任された人も、いきなり“編集長“に抜擢されて、右も左もわからない中、手探りでメディアの運営に取り組んでいるはず。一体、企業内で編集長に抜擢された人に、求められるスキルやマインドセットとは何でしょうか。
  
事業会社でメディアを立ち上げ、運営している編集長は、日々どのようにして仕事をしているのか。事業会社で編集長として苦悩しながら活動してきた人たちに、ヒントを聞いてみたいと思います。

今回は、株式会社LITALICOにて、発達障害のポータルサイト『LITALICO発達ナビ』編集長を務めている傍ら『編集長ことはじめ』という編集長について学ぶコミュニティを運営している鈴木悠平さんに話をうかがいました。

●鈴木悠平
編集者・文筆家。東日本大震災後の宮城県石巻市におけるコミュニティ事業の立ち上げ、コロンビア大学大学院での地域保健政策の研究を経験した後、株式会社LITALICO入社。発達支援教室「LITALICOジュニア」での指導員、「LITALICO研究所」の立ち上げ・運営業務等を経験したのち、発達障害に関するポータルサイト「LITALICO発達ナビ」の編集長に就任。

  

足りないところは助けてもらって運営するのがメディア

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鈴木悠平さんが編集長を務める『LITALICO発達ナビ』は、 発達が気になる子どもを育てる保護者に必要な情報を発信したり、会員同士で支え、相談し合えるコミュニティを運営する発達障害ポータルサイトです。

発達障害や子育てに関するコラム、様々な分野で活躍する人のインタビュー記事などを掲載しています。記事コンテンツを配信するほかに、発達が気になる子どもが通うことができる福祉事業所の施設情報やクチコミ、子育てに関するQ&Aを投稿できるコーナーなどが用意されているサイトです。

鈴木さんが編集長という役割に就いて、最初から全てが順風満帆ではなかったものの、『LITALICO発達ナビ』は右肩上がりで成長し、2017年3月現在で月間180万UU/540万PVという規模まで拡大しています。

鈴木さんは編集長に就任するより前から、『greenz.jp』などの媒体でライター経験がありました。全く何も経験がないよりはマシではあったものの、1人だけでは立ち上げることが難しかったのでは、と当時を振り返ります。
  
鈴木さん「ライターと編集長では、求められる職能は異なります。ですが、偶然にも僕はコンテンツを作る経験があり、同期にコンテンツを届けるためのSEOマーケティングの知識のある人間が部内にいたため、足りないところを補うことで、メディアの立ち上げを比較的スムーズに行うことができました」。
  

編集長は「コンテンツの質」を保つ最後の砦

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スタート時はかかわる人数も限られていた『LITALICO発達ナビ』も、成長とともに関わる人数も増えていきました。

鈴木さん「『LITALICO発達ナビ』の運営には、事業部全体で約30名の社員(常勤・非常勤含む)がいます。事業部長以下、マネージャー、企業営業、カスタマーサポート、エンジニアなどメディアの運営を支える様々な職種で構成されており、僕が管掌する編集部は、コンテンツの制作・配信、ユーザーコミュニティの活性化、カスタマーサポートなどを担うチームです。編集部には、編集長の僕と4名の常勤編集スタッフ、約10名の非常勤ライターが所属しています。また、社外にも寄稿してくださる外部のライターさん(発達障害のある子どもの保護者、成人当事者や専門家の先生など)が約20名ほどおられます」。

人が増えると、編集長が手を動かすことは減りますが、これだけ多様なメンバーのマネジメントをしなければなりません。マネジメントを行いながら、編集長として日々の業務の中で大切にしているのは、「コンテンツの質を追求すること」だと鈴木さんは語ります。

鈴木さん「『このコンテンツは、胸を張って世に出せるか』を毎日考えながら、記事の企画・編集をしています。編集長がコンテンツの質にこだわれなければ、そのメディアのクオリティは決して高くなりません。編集長は、メディアの質を保つ最後の砦なんです」。

時には、編集者やライターが指針とできるように編集長自らが記事を執筆し、事例を作っていくこともあるそうです。

鈴木さん「チームができたばかりの頃は、まだ執筆・編集マニュアルや制作フローなども体系化されていません。編集部のメンバーも『自分たちはどんな記事を作るべきで、良い記事とは何なのか』という基準やイメージを持てていない状態でした。そんな立ち上げ期に編集長に求められるのは、自ら行動して『基準』を打ち立てること。例えば、検索順位で1位になるSEO記事を書く、ソーシャルメディア上で数千シェアされる記事を書く。色々なことに編集長は挑戦するべきです。自身が成功体験を積み重ね、それを体系化してマニュアルに落とし込んでいくことで、再現性が生まれます。自ずと、チームとして質の高いコンテンツを出せる打率が上がっていくはずです」。

コンテンツの質が落ちないようにチェックを厳しくし、時には自ら参考となるコンテンツを作る。メディアの要であるコンテンツの質が落ちないよう、配慮するのが編集長の役割です、と鈴木さんは語ります。