企業が取引を行うとき、状況によって自社の秘密情報を相手先に開示する場合があります。その際、秘密情報の利用や漏えいを防ぐ目的で交わす契約のことを「秘密保持契約」といいます。

秘密保持契約は、一般的には従業員の入退社時、企業間の業務提携のときに交わされます。企業秘密は事業発展のための大切な情報なので、この契約はほとんどの企業で慣例化されています。

一方、近年はクラウドソーシングで、企業が個人と業務委託を結ぶ機会が増えています。そのときも、業務内容によってはきちんと秘密保持契約を結ぶ必要があります。
契約した個人から質問された場合、それがどのような契約であるか説明できるでしょうか。

今回は、秘密保持契約とは何か、業務委託での契約の交わし方を解説します。

秘密保持契約とは

秘密保持契約とは、取引を行う上で企業秘密などの非公開情報を開示する場合に、その情報を利用したり、外部に漏らさせたりしない目的で交わす契約のことです。英語では「Non-disclosure agreement」といい、「NDA」と略すこともあります。

ほとんどの企業が、先方が情報を漏らしてしまった場合の対応を秘密保持契約内で明記しています。万が一漏えいが起きた場合は、損害賠償の請求などができるよう対策しています。事業成長にとって重要な要素となる企業秘密を守っているのです。

秘密保持契約が必要になる場合

企業間取引では慣例化している秘密保持契約ですが、それが企業対個人での契約となると徹底されていないこともあります。クラウドソーシングサービスを利用して個人と業務委託契約を結んだり、フリーランサーに直接仕事を依頼する場合は注意が必要です。

例えば、クラウドソーシングサービスでリリース前の新商品のパッケージデザインの制作を依頼するとします。イメージに合わせたデザインを制作してもらうため、新商品の詳しいコンセプトや仕様を受託者に伝えます。
その受託者がどの程度企業秘密の重要性を理解しているかは、本人にしか分かりません。もしかしたら、悪意がなくともついSNSやブログで仕事の内容を漏らしてしまうことも考えられます。

このようなリスクを低減するためにも、企業秘密が関わる業務委託に関しては、多少手間がかかっても秘密保持契約を結ぶことが大切です。

秘密保持契約の流れ

秘密保持契約を実際に交わす際の流れを解説します。

契約内容の確認

まずは契約内容を確認します。委託する業務に応じて、社内で秘密保持契約の内容、期間、情報が漏れた場合の補償義務、裁判所の管轄などを取り決めます。社内の関連部署とも協力し、内容の不備に気をつけましょう。

契約書作成

インターネットで検索すると、様々な法律事務所や行政書士事務所が秘密保持契約書のテンプレートを配信しています。それぞれ内容や項目が異なっているため、よく確認して利用しましょう。

用途も、「従業員の入退社時」「業務提携時」「他社の見学時」などによって異なります。業務委託時に利用する場合は、「業務提携時」用を利用すると便利です。また、業務委託契約書の中に「秘密保持」に関する内容を入れることもできるため、確認しておきましょう。

調印(契約)

契約内容を修正・確認し、完成したら受託者と契約を交わします。書面の場合は2部用意し、企業側と受託者側の双方が保管します。Web上で契約を交わす場合は、必ず確認場面を挟むなど必要な対応事項もあるため、事前に確認して実行しましょう。

もちろん、契約前には受託者が理解できるよう、きちんと内容を説明します。

秘密保持契約書(業務委託の場合)の参考例

今回は、秘密情報漏えい防止のために経済産業省が策定しているハンドブックから、業務提携時に利用する契約書の参考例をもとに解説します。

参考:
各種契約書等の参考例|経済産業省

第1条(秘密情報)

この契約における「秘密情報」の定義を記します。どの情報が秘密保持契約の対象となるか明確にするためです。基本的には、自社が先方に開示した技術上あるいは営業上の情報、また開示の際に秘密情報であることを示した情報のことを定義づけます。秘密情報を特定できる場合には、出来る限り具体的に表記しましょう。

また、業務委託を結ぶ前の検討段階で開示した情報も、秘密情報に含めるよう定めることもできます。その場合は、後述する有効期限は短くなることが一般的です。

第2条(秘密情報等の取扱い)

秘密情報の取り扱い方について記します。概要は以下の通りです。

・秘密情報は厳重に管理・保管すること
・この取引の目的以外では使用しないこと
・資料などをコピーする際は、原本と同様に管理・保管すること
・万が一漏えい・紛失・盗難などの事態が起こった場合は、すぐに通知すること
・取扱責任者を定め、氏名と連絡先を通知すること

何らかの事情で情報を第3者に開示する場合は、書面で自社の事前承諾を得る必要があること、その第3者にも同様の秘密保持の義務が発生することも明記します。

第3条(返還義務等)

この取引で開示した秘密情報に関する資料は、不要となった場合、もしくは自社が請求した場合にはすぐに返還することを記します。もし先方の持つ媒体などに記録されている場合も、その情報を消去し、消去したことを自社に書面で報告するよう定めます。

第4条(損害賠償等)

取引先の従業員や、第2条で記した第3者が自社の秘密情報を漏らしてしまった場合、自社の求める措置をすぐに行い、自社に生じた損害を賠償する義務が発生することを記します。

第5条(有効期限)

この契約の有効期限について記します。

第6条(協議事項)

この契約で定めていないことで問題や疑問が生じた場合は、協議によって解決することを記します。

第7条(管轄)

この契約に関する裁判所の管轄を指定します。

まとめ

クラウドソーシングサービスサイトのひとつであるクラウドワークスは、2016年6月から、秘密保持契約を結んでいる受託者だけに仕事を閲覧・応募してもらうオプションを選択できるようになりました。

クラウドワークスがあらかじめ登録している受託者と秘密保持契約を結んでいるため、仕事を委託する際に自社が契約を交わす必要がありません。

契約書作成に不安がある、作成する時間がない緊急の場合などは利用してもいいかもしれません。ただその際も、クラウドワークスの契約内容は事前に確認しましょう。

参考:
【新オプションのお知らせ】NDA(秘密保持契約)を締結したクラウドワーカーだけが、お仕事を閲覧・応募できるオプションが利用可能になりました!|クラウドワークス

事業成長において、企業秘密を守ることは大切なことです。万が一の場合に備えて、きちんと確認しておきましょう。