アプリ市場で近年注目を浴びている分野の1つが「コミックアプリ」です。

インプレス総合研究所が提供している『電子書籍ビジネス調査報告書2017』によると、
週1回以上コミックアプリを利用しているユーザーは67.4%にのぼり、大手出版社からITベンチャーまで様々な企業が新規参入しています。

コミックアプリは出版社が発行しているマンガとは異なり、基本料金無料のビジネスモデルとなっています。そのため、どのように利益を確保しているのか気になっている方も多いのではないでしょうか。

今回は、コミックアプリのマネタイズに関する市場動向と、2017年9月14日に開催されたRepro株式会社主催「Growth Hack Talks #6 秋だ、読書だ! 漫画アプリ特集」より、事業単体で経常黒字化を果たした「マンガボックス」編集長 安江氏による講演内容をお届けします。

参考:
[2016年度の電子書籍市場規模は前年比24.7%増の1,976億円 電子出版市場は5年後に3,500億円市場へと成長 『電子書籍ビジネス調査報告書2017』| 株式会社インプレス] (https://www.impress.co.jp/newsrelease/2017/07/20170727-01.html)

※2017年10月2日 本文中の一部を修正いたしました。

各コミックアプリのマネタイズは〜広告から単行本販売まで〜

スクリーンショット_2017-09-15_12.11.46.png
引用:
[若年層でスマートフォンからマンガを読む習慣が定着~ニールセン マンガアプリの利用状況を発表~ | ニュースリリース | ニールセン デジタル株式会社] (http://www.netratings.co.jp/news_release/2017/03/Newsrelease20170328.html)

調査会社「ニールセン」が行った調査によると、コミックアプリの利用者は現在LINEマンガがもっとも多く279万人となっており、cimicoやマンガワンがそれを追う形となっています。

Googleストア上だけでも240以上のコミックアプリが公開されており、企業間でも苛烈な競争が始まりつつあります。
*では、各コミックアプリではどのようにマネタイズを行っているのでしょうか。*一部を紹介します。

-comico:チケット制による課金、タイアップ広告
-マンガボックス:広告、電子書籍の販売(ストア)、コンテンツ提供による印税
-少年ジャンプ+:単行本販売、コイン制による課金、成果報酬型広告

このように、多くのコミックアプリでは広告からの収入を得ています。
インプレス総合研究所が行った調査によると2016年のコミックアプリ広告市場は78億円であり、2017年には101億円に拡大すると予測されています。2014年から急激な成長を遂げており、コミックアプリ広告が注目を浴びていることがわかります。
スクリーンショット_2017-09-15_12.22.48.png
引用:
2016年度の電子書籍市場規模は前年比24.7%増の1,976億円 電子出版市場は5年後に3,500億円市場へと成長 『電子書籍ビジネス調査報告書2017』 7月31日発行 |株式会社インプレス

しかし、広告収入だけでは広告枠を販売する労働集約型のビジネスモデルになりがちです。
そのため、コミックアプリが継続的に成長していくためには広告に依存しないマネタイズが必要となるでしょう。

そんな中、2013年のリリースから4年目にして事業単体で経常黒字を達成したコミックアプリがあるのをご存知でしょうか。
株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)が講談社や小学館と提携してリリースした「マンガボックス」では、広告・電子書店・コンテンツ印税という3種類のマネタイズによって黒字化を達成しています。

では、この黒字化の裏にはどういった歴史があったのでしょうか。
マンガボックス編集長 安江氏は、Repro株式会社主催「Growth Hack Talks #6 秋だ、読書だ! 漫画アプリ特集」にて、以下のように経緯を語っています。

参考:
6つの無料マンガアプリを分析!Webサービスで収益を得るビジネスモデルのあり方とは|ferret [フェレット]
マンガ|Google Play の Android アプリ

登壇者紹介

IMG_1425_mod.jpg

株式会社ディー・エヌ・エー
IPプラットフォーム事業部 事業部長 兼 開発一部 部長 兼 マンガボックス編集部 編集長
安江亮太氏
引用:【9/14(木)】Growth Hack Talks #6 秋だ、読書だ! 漫画アプリ特集

マンガボックスとは

マンガボックス__MangaBox____人気マンガ家の新作連載が無料で読める!.png
https://www.mangabox.me/

マンガボックスはDeNAが提供している基本無料のコミックアプリです。2013年12月にリリースされ、2016年4月には1000万ダウンロードを突破しました。

講談社や小学館と提携し、各社の人気作品が読めるほか、自社でも「マンガボックス編集部」を持ちオリジナル作品を制作しています。また、「マンガボックスインディーズ」として5,600人のアマチュアクリエイターによる作品も取り扱っているのが特徴です。

参考:
人気マンガ家の作品が無料で読める週刊のマンガ雑誌アプリマンガボックス12月4日創刊!~講談社、小学館などとの提携で人気マンガ家の描き下ろし28作品を連載~ | 株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】
『マンガボックス』が累計1,000万ダウンロードを突破 | 株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】

4年目にして経常黒字化!マンガボックスの歴史はマネタイズの歴史?

マンガボックスでは、連載作品で構成された「マンガボックス」本誌、誰でも投稿可能な「マンガボックス インティーズ」、電子書店の「ストア」の3つのサービスを展開しています。
ですが、この3つのサービスに落ち着くまでは、様々な経緯がありました。

Reproスライド.jpg
特にマネタイズに関しては、「原始時代・縄文時代・戦国時代・現代」の4つのフェーズがありました。この4つのフェーズを経て、サービスリリースから4年弱の現在では事業単体で経常黒字化しています。
では、どうやって経常黒字化したのかをお伝えします。

原始時代〜縄文時代:先読み機能で1話30万円の売り上げアップを達成

s_IMG_1391_mod.jpg
リリース当初の半年弱くらいはマネタイズはなく、とにかくサービスを起こすことに集中していました。『金田一少年の事件簿』を使ったCMも覚えている方もいるかもしれません。とにかくサービスを起こすことに集中していました。
これは原始時代です。その次にはマネタイズに取り組む縄文時代に突入します。

縄文時代は連載作品でのマネタイズを目指しました。

1.単行本の発売

マンガと言えば単行本ということで、まずは『天空侵犯』などの連載作品を紙媒体と電子書籍で発行しました。これらの作品群は講談社から刊行されています。
この時、連載開始と同時に単行本を出すという取り組みもやっていました。1話を読んだ状態ですぐに単行本1巻を変えるという取り組みです。

2.先読み機能

先読み機能とは、マンガの情報をSNS上でシェアしたり、特定のアプリをインストールしたりすると公開日が後日に設定されている連載作品を先に読める機能です。現在はありません。
リワード広告成果報酬型広告)として収入を得ることができ、あるタイミングに関して言うと1話更新するだけで30万円ほど売り上げがありました。

ですが、この2つの売り上げでは、まだ不足していると感じていました。

参考:
[「マンガボックス」、インディーズ作家に広告収益を還元へ|CNET Japan] (https://japan.cnet.com/article/35061939/)

戦国時代:純広告を展開して4,5千万の収益を確保

次のフェーズとしては、広告でのマネタイズです、

「マンガボックスは広告が多い」と一時期言われたほど、積極的に行っていました。
様々な広告手法を取りましたが、最初はGoogleのDSPを使った純広告を採用しています。

※注釈
「DSP(Demand-Side Platform)」とは、広告主がGoogle AdWords のようなプラットフォームを通して複数社の媒体に出稿できる仕組み。媒体の内部に広告を掲載する「純広告」にも利用されている。

ただ、DSPにシステム上円滑に繋げなかったため、レスポンスが遅く、効果が上がらないという問題がありました。
広告以外には、ゲームや一般商材のタイアップ広告も行っています。
また、DeNAアドプラットフォームという広告フォーマットを開発して、独自のアドネットワークを通じた広告出稿を行っていました。

これらの取り組みで売り上げは上がりました。アドネットワークを通じた広告収入では1ヶ月あたりで数千万、純広告でも1月あたり4〜5千万円の収入を得ていました。
ただ、純広告に関しては「単体で大きな案件があって収入が増える」ということが多く、営業が案件を取れば収益が得られるという労働集約型のモデルとなっていました。

現代:「恋と嘘」アニメ&実写映画化〜マルチメディア化による収益

TVアニメ「恋と嘘」公式サイト.png
http://koiuso-anime.com/

とうとう現代です。現代では、急成長を続ける電子書籍市場を見込んだマネタイズを行なっています。それが電子書店でのマネタイズです。
マンガボックスで連載していない作品を電子書籍として発売する「ストア」を開設し、ずっと右肩上がりで売り上げを伸ばしています。現在では、大体億単位での売り上げを記録しています。
これでやっと、安定して利益を出せるものになりました。

しかし、今では*「利益だけ追求するのって漫画アプリじゃないよね」*という思いに立ち返って、オリジナル作品の立ち上げやマルチメディア化に積極的に投資しています。
そのきっかけとなるのが『恋と嘘』という作品です。『恋と嘘』は2014年に『次にくる漫画大賞』を受賞し、現在では単行本の販売部数が累計160万部突破しています。

2017年7月にはTVアニメ化もしていて、10月には森川葵さん主演で実写映画化もします。リリースから4年経って、ようやくこういったマルチメディア展開が行えるようになりました。現在では、広告・電子書店・コンテンツ印税で1:1:1に近い割合の安定した利益を実現しています。

参考:
映画『恋と嘘』公式サイト

まとめ

マンガボックスでは、連載作品の単行本販売から電子書店の展開にいたるまで、様々なマネタイズの手法を積み上げてきました。
中でも電子書店でのマネタイズは億単位での売り上げを記録しており、2013年のリリース当初は10名ほどだった事業部も2017年には約30名体制へと拡大しています。

コミックアプリ広告と課金という2つの軸でマネタイズを実現している場合が多く、その手法に注目が集まりがちです。その点、マンガボックスは『恋と嘘』のマルチメディア展開に代表されるIP(知的財産)ビジネスとしての展開まで行っているのが特筆すべき点でしょう。

今後も、成長していくと見られるコミックアプリ業界、それぞれの企業がどういったマネタイズを行っていくのか注目です。