いま日本には、少子高齢化や情報技術の進歩による産業構造の変化が訪れており、私たちの暮らしも変化せざるを得なくなっています。

2017年9月5日、京都大学が日立京大ラボによって開発されたAI技術を用いて、約2万通りの未来シナリオを予測した上で持続可能な日本の未来政策を提言しました。

参考:
「地方分散型」の政策選択を 京大と日立、AI活用し近未来提言 |日本経済新聞

この提言では、今でも過疎化が進む地方を活性化させることで、持続可能な日本の未来が期待できることを主張しています。地方の活性化は、社会貢献性の高さからソーシャルビジネスでも注目されている課題のひとつです。

参考:
ソーシャルビジネスが成長中!歴代の日経ソーシャルビジネスコンテスト大賞解説|Ferret[フェレット]

今回は、このAI技術によって予測された未来と、これからの社会や私たちに求められることを分かりやすく解説します。将来を知ることで、新しい事業アイディアのヒントを得られるかもしれません。

日立京大ラボとは

「日立京大ラボ」とは、日立未来課題探索共同研究部門の通称です。
未来の社会課題の解決策を模索するため、株式会社日立製作所と京都大学の共同で開設されました。

総合研究大学として先進的な学問研究を進める京都大学と、株式会社日立製作所の高度なインフラ技術とIT技術を使った、新しい価値の継続的な創出が目的です。

今回、京都大学のこころの未来研究センターが、日立京大ラボで開発されたAIを活用し、日本の未来を予測しました。その上で、持続可能な日本のために政策を提言しています。

政策提言までの3つの過程

政策提言プロセス.png

引用:
AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言|株式会社日立製作所

上図が、政策提言までの3つの過程です。AIが活用されたのは、2番目の選択肢検討の段階です。収集した情報をもとにどのようなシナリオが考えられるか、AIのシュミレーションを使って検討しています。

この流れに沿って、未来シナリオ完成までの過程を解説します。

情報収集(モデル化)

まず、日本の変化によって発生している社会問題を8つに分類しました。

【1】人口・出生率
【2】財政・社会保障
【3】都市・地域
【4】環境・資源
【5】雇用の維持
【6】格差の解消
【7】幸福
【8】健康の維持・増進

上記の社会問題は今でも進行しており、政府単位での解決が求められています。

「【1】人口・出生率」を例にみてみましょう。現在日本は少子高齢化に悩まされています。総務省がまとめた下記グラフを見ると、ひと目で理解できます。人口の総数が減少する中で、65歳以上の割合が増加し、高齢化率が右肩上がりに増加しています。

こうした状況は、個人の力では解決できません。政府による新しい政策や制度改革が必要不可欠です。

人口推移.png

引用:
平成28年版情報通信白書|総務省

AIによる選択肢検討(シュミレーション・解析)

日立京大ラボは、前述の「少子化」「高齢化」などの要素を「社会要因」としてまとめました。社会要因は、他の社会要因ともお互いに影響を及ぼし、社会を変化させていきます。これを「因果関係モデル」と呼びます。

因果関係モデルは、社会要因がそれぞれどのような条件で顕在化するかによって、複数のパターンに分かれます。そのパターンをAIを使って全て網羅し、まとめた結果、2018年から2052年までの35年間で、約2万通りの未来シナリオを予測しました。
更にそのシナリオを、23個のグループに分類しました。

例えば、「【1】少子高齢化が進行し人口は減少」しており、「【2】財政は改善し社会保障は充実した」ものの、「【3】都市に人口が集中している」シナリオなどです。

戦略選択(政策提言)

シナリオを分類した結果、人口が「都市に集中」するか「地方に分散」するかで大きく傾向が分かれました。その上で、今回のテーマでもある「持続可能であるか」に焦点を当てました。

シナリオが「持続可能」であるか、あるいは「破局」してしまうかが分岐する時期と要因を解析し、その結果を政府への提言としてまとめました。

約2万通りの未来シナリオから生まれた2つの観点

都市集中シナリオ

技術革新を先導する企業が都市に集中し、自然と人口も都市に流れていきます。地方は労働人口を失い、やがて過疎化し衰退します。個人の格差が拡大し、幸福感が低下します。出生率の低下も深刻化しますが、政府の財政は回復します。

地方分散シナリオ

地方へ人口が分散し、格差は縮小します。出生率も回復し、幸福感も増加します。一方で、地方分散により政府財政の逼迫や環境悪化なども懸念されるため、このシナリオには細心の注意と配慮が必要です。

持続可能な未来に向けた政策提言

8〜10年後までにシナリオの選択を

日立京大ラボは、8年から10年後に*「都市集中シナリオ」「地方分散シナリオ」*の分岐点が発生すると述べています。それ以降、2つのシナリオの分岐が起こることはありません。

持続可能な地方分散シナリオの実現

持続可能性の観点では、「地方分散シナリオ」が望ましいとされています。しかし、地方分散シナリオを実現するには、労働生産性の改善、環境に配慮した再生可能エネルギーの普及、地方の公共交通機関の整備など課題が山積しています。

17〜20年後までの継続した政策実行

地方分散シナリオは、前述したとおり持続不能となるリスクも抱えています。そのため、財政・雇用・環境・地方活性といった政策を継続的に実行する必要があります。
地域での経済循環を促し、日本中のどこでも暮らしやすく働きやすい環境を整えることが、これからの政府の重要なミッションとなるでしょう。

まとめ

京都大学が提言した未来政策の重要なポイントは、地方の活性化です。前述したとおり、地方の活性化は今様々な企業が積極的に取り組んでいる課題のひとつです。

参考:
地方創生で長門市と山銀など3者 温泉街再生へ、投資促進図る/山口|毎日新聞

現地の方々の意識や意欲も高い課題のため、自社に貢献できる分野を見つかられれば、協力して新しい価値を提供できるかもしれません。

地方の活性化以外でも、それによって起こりうる社会や暮らしの変化にまで視野を広げ、自社の価値をもう一度考えてみてはいかがでしょうか。