明日の会議までに資料をまとめておいて欲しい」と、何気なく部下に指示を出したものの、資料に必要な情報が不足していたなど、「指示」と「アウトプット」にズレを感じた経験のあるマネージャーもいるのではないでしょうか。

とはいえ、部下一人ひとりのスキルに合わせて都度指示を出すのは、決して効率が良い方法とはいえません。
部下たちの能力や認識の差を前提としたマネジメントを課題に感じることもあるでしょう。

そこで解決の糸口となるのが、トヨタ自動車の”ものづくりの知見”を一般化した「トヨタ生産方式」という考え方です。中でも「自工程完結」という手法はマネジメントに応用できます。

今回は、トヨタ生産方式の「自工程完結」という手法をビジネスの現場で活用する方法をご紹介します。

トヨタ生産方式とは

トヨタ生産方式とは、国内大手自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社が提唱する「生産の効率化」と「品質の向上」を目指した生産システムです。トヨタ自動車が掲げる「顧客に対して、品質の高い自動車を素早く届ける」という背景から生まれた考え方と言えます。

トヨタ生産方式は、「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」を軸に、「カイゼン」、「見える化」、「かんばん方式」「自工程完結」のように様々な手法で成り立っており、その考え方は製造業だけでなく、様々なビジネスで応用されています。

冒頭で述べたように、トヨタ生産方式の中でも「自工程完結」という手法はマネジメントの効率と質を向上させるために活用できます。

参考:
トヨタ | トヨタ生産方式

自工程完結とは

「自工程完結」とは、自動車製造を行う中で、各工程ごとの担当者が責任をもって業務を進め、品質を保証することです。最終検品の際「不良品や不適合品を作らないこと」を目的として生まれた手法です。

目的から業務の工程を逆算して言語化することで、誰でも安定した品質でアウトプットを行えるようになります。そのため、担当者の属人的な能力による差をなくせるという特徴があります。

求められた品質を満たしているかどうかの「達成条件」を担当者自身が把握し、業務の意思決定を行えるのも自工程完結の特徴です。
そのため、必要以上に上司への確認作業を行わなくて済みます。自工程完結を実施することで、質と効率どちらの側面においても改善が行えると言えるでしょう。

参考:
自工程完結とは | Kaizen Base - カイゼンベース

自工程完結をマネジメントに活用する方法

自工程完結は、製造の現場から生まれた手法です。では、非製造業の分野で適用させるには、どのように取り組めば良いのでしょうか。

1.業務における目的やゴールを明確にする

トヨタ自動車の顧問・技監である佐々木眞一氏によると、部下に出した指示から、求めた通りのアウトプットを得るためには、依頼した業務の「目的」と最終的な「ゴール」は何かを明確に伝えることが大切とのことです。

先の例のように「資料作成」を依頼する場合、「明日の会議の資料をまとめておいてほしい」では、部下は何のために資料をまとめれば良いのかわかりません。単純に情報を羅列した資料を作ってしまうことも考えられます。

そこで、「新規事業を役員に提案するための会議資料を作ってほしい。(目的)この提案が通れば、業界全体として初の事例になる(ゴール)」のように目的とゴールを明確に共有します。目的とゴールを部下が理解することで、アウトプットへの認識のズレを防げるほか、「行う意義のある業務」として部下自身のモチベーション向上にもつながるでしょう。

2.些細な業務のプロセスをすべて明文化する

どんなに目的とゴールを明確に伝えられたとしても、依頼した部下のスキルによって、アウトプットにギャップが生まれることがあるでしょう。そこで、アウトプットに向けた業務のプロセスを明文化します。

大まかな業務の順番を洗い出し、各工程ごとに行う具体的な作業内容を分解し書き出してみましょう。そして、「必要な情報を揃え、資料のアウトラインが決まった段階で直属の上司に確認を取る」のように、作業を進める上で関わる関係者も明確にします。

すると、部下はどういったプロセスで具体的に何を行うのか理解できるため、円滑に取り組むことができます。また、仮に問題が起きたとしても「どの段階でミスをしたのか」をマネージャーが把握できるため対策を取りやすくなります。

3.次のプロセスに進むべきか「判断基準」を設ける

業務のプロセスを明文化することで、能力の差にかかわらず業務に取り組めるようになります。1つ1つのプロセスが確実に実行されるために必要なのが「この状態になったら次のプロセスへ進む」のような、「判断基準」です。

プロセスだけでは、「これくらいで次に進もう」と判断を属人化してしまう可能性があり、最終的なアウトプットに差が生じることになります。
資料作りを例に挙げると「アウトラインの見出しの整合性が取れていること」「提案内容の根拠となるデータが含まれていること」など、どの段階で次のプロセスに進んで良いのか、部下自身が判断できる基準を設けることが大切です。

そうすれば「資料の抜けや漏れを防げる」「不必要なデータ集めを行わなくて済む」ため、質の向上と効率化を図ることができます。また、部下は上司の指示に従うだけでなく、当事者意識を持って取り組めるようになるでしょう。

3.上記のプロセスごとの達成に必要な条件を定める

部下はプロセスに従って、自身の判断基準で業務を進めることができるようになりました。とはいえ、その判断基準の精度にも「経験がある・ない」による、ある程度の属人性が生じることがあります。

判断基準の精度を高めるために行うのが、プロセスの達成に必要な条件を設定することです。トヨタ自動車の製造の現場では「良品条件」と呼ばれており、製造プロセスごとに必要な条件を定めているそうです。

条件には、各プロセスごとに用いるツール、関わるする人材、人材のスキル、必要性や意義、注意点などをリストアップします。業務の抜けや漏れを防げるほか、達成条件を事細かに設定することで最終的なアウトプットの質を高めることができるでしょう。

5.業務の振り返りと共有を繰り返す

上記の方法からアウトプットを完了したら、「振り返り」と「共有」を行います。まず、完了したアウトプットは良いものだったかどうか、プロセスの中で問題は生じたかどうかを振り返ります。

問題があれば、同じミスを繰り返さないために課題を洗い出しましょう。それらをすべて、明文化して記録することが大切です。担当した部下以外のメンバーにも共有を行うことで、後任の担当者に円滑に引き継ぐことができるほか、類似した業務への応用もできるでしょう。

参考:
1.トヨタ流 みんなの知恵が織り込まれ、スピード感もある経営(3ページ目) - 日経テクノロジーオンライン
2.トヨタの自工程完結で、仕事の手順ごとに必ず問われる「必要なもの」 | トヨタの自工程完結 ウェブ版 | ダイヤモンド・オンライン
3.現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方 | Amazon

まとめ

「自工程完結」は、あらゆる業務のプロセスを仕組みとして落とし込むことがポイントです。マネージャーが部下に業務を依頼する上で、個人の能力に頼らず効率的に質の高いアウトプットを得られるでしょう。

一見すると、プロセスの分解や判断基準の設定、必要条件のリストアップなど準備など、取り入れるに当たって工数が多いと感じることもあるかもしれません。
しかし、作業を進める上でのトラブル回避や、仕事の属人化の防止が実現できれば、結果として効率化につながります。

チームをマネジメントする上で、アウトプットの質や効率化に課題を抱えているのであれば、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。