近年、「生産性」に関するニュースを良く目にするようになりました。社内でも、「生産性高く仕事しよう」といった声を経営層や上司から聞かされたことがあるかもしれません。

このような場合に使われる「生産性」という言葉は、労働についての生産性のことを指しているため、正しくは「労働生産性」といいます。

「労働生産性を上げる」ことについて、「業務効率を上げる」「残業しないで成果を出す」などの漠然としたイメージはあるでしょう。ただ、「労働生産性」の意味や算出方法について明確に説明できる方は、少ないのではないでしょうか。

自社や自分自身の労働生産性を正しく把握できていない限りは、「業務効率化」「生産性の向上」といったことを目標に掲げても、現状と理想が可視化されていないため意味をなしません。

今回は、労働生産性とは何か解説した上で、算出方法についても詳しく解説します。

生産性とは「いかに少ない労力で多くの成果を生み出すか」

労働生産性を説明する前に、まず「生産性」の意味を確認しましょう。

生産性とは

生産性とは、生産力の度合いのことです。近年「生産性をあげよう」という言葉をよく耳にしますが、これは「少ない労力で多くの成果を生み出そう」ということを意味しています。

生産性は、以下の計算式で算出できます。

生産性=産出(成果)/投入(労力)

つまり、「1日に10個製品を製造できる機械」と「1日に15個製品を製造できる機械」がある場合、後者の機械の方が「生産性が高い」といえます。

近年では、「生産性」というと一般的には後述する「労働生産性」を指すことが多いようです。

労働生産性とは

労働生産性とは、労働における生産力の度合いのことです。「労働者1人が1時間あたりで生み出す成果」、または「労働者1人が生み出す成果」を指します。

労働生産性は、この「成果」に何を置くかによって、2種類に分ける事ができます。

【1】物的労働生産性
【2】付加価値労働生産性

【1】物的労働生産性

物的労働生産性で算出する成果は、生産量です。以下の計算式で算出できます。

物的労働生産性=産出(生産量)/投入(労働者数or労働者数✕労働時間)

例えば、2人の従業員が2時間で12個の商品を生産したとします。物的労働生産性を算出する場合、次のような計算を行います。

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【2】付加価値労働生産性

付加価値労働生産性で算出する成果は、付加価値です。付加価値とは、生産額(売上高)から原料費や加工費、運送費など外部から購入した費用を除いたものです。一般的に、企業は購入した原料に様々な加工や工夫を施します。その加工や工夫などによって新しく付け加えた価値を金額で表したものが、付加価値です。

付加価値労働生産性は、以下の計算式で算出できます。

付加価値労働生産性=産出(付加価値)/投入(労働者数or労働者数✕労働時間)

例えば、2人の従業員が2時間で20,000円の売上をあげたとします。このとき、外部から購入した費用は8,000円であるため、付加価値は12,000円です。

付加価値労働生産性を算出する場合、次のような計算を行います。

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日本の労働生産性

日本の労働生産性はGDPで算出する

ニュースなどで、「日本の労働生産性」が取り上げられることがあります。

国としての労働生産性を算出する場合は、付加価値労働生産性の算出方法を用い、付加価値には「GDP」を当てはめます。GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、国内総生産を意味します。1年間で国内生産されたモノやサービスの金額の合計を表しています。

日本の順位

日本生産性本部は、毎年GDPと労働生産性の国際比較を行っています。少高齢化で就業者の大幅な増加を期待できない日本では、国民1人当たりのGDPを豊かにしていくために、より効率のいい成果を生み出すことが求められています。その定量的な指標のひとつとして、労働生産性に焦点が当てられています。

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引用:
労働生産性の国際比較2016年版|公益財団法人日本生産性本部

上図は、OECD加盟諸国の35ヶ国の労働生産性を比較したものです。なお、OECDとは、「経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)」を指します。

参考:
OECDとは?|経済産業省

2015年の日本の労働生産性は、74,315ドル(783万円)でした。OECDに加盟している35ヶ国の中では22位です。

アメリカと比べると約6割の水準で、この割合は1980年からほぼ変わっていません。この格差について、アメリカコロンビア大学ビジネススクールのヒュー・パトリック教授は、日米の価格戦略の違いが影響していると指摘しています。

日本企業は1990年代から、デフレに対応して利益を削ってでも低価格化を実現し、競争力を強化してきた歴史があります。一方アメリカは、生産性を向上することで付加価値を拡大してきており、その差が労働生産性にも現れているのではないかと考察しています。

今後日本がより労働生産性の向上を目指すなら、業務の効率化と並行し、新しいサービスを生み出すことで付加価値を拡大していく戦略も重要になってくると言えそうです。

業種別

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引用:
主要産業の労働生産性水準|公益財団法人日本生産性本部

上図は、日本企業を産業別・製造業業種別に見た労働生産性のグラフです。

産業別にみると、「不動産業」や「電気・ガス・水道」、「金融・保険業」、「情報通信業」など、労働力よりも設備や資本への依存度が高い産業で労働生産性が高くなっています。一方、「サービス業全般」や「農林水産業」など、労働力への依存度が高い産業では労働生産性は低くなっています。

自社の労働生産性を算出し、同産業の水準と比較することで、立ち位置を明確にすることができるでしょう。

まとめ

労働生産性について理解を深めることは、より少ない労力で高い成果を生み出していくために重要です。自社の労働生産性、自分自身の労働生産性を算出することで、これまで曖昧だった基準を数値で測ることができます。

現状を定量的に把握し、競合他社やライバル社員と比較した上で目標を設定することで、日々の行動計画も明確になるでしょう。一度計算してみてはいかがでしょうか。