相手のハッピーな未来を描く - プレゼンにおける「ビジョン」とは
皆さんこんにちは、日本マイクロソフト株式会社の澤円です。
第2回目の記事はいかがでしたでしょうか?
レストランの経営に例えて、「素晴らしいプレゼンに不可欠や要素」について書かせていただきました。
プレゼンテーションは「しゃべりが上手い」だけでは不十分で、「ビジョン」そして「核」が必要であることをお伝えしました。今回は、「ビジョン」について深堀していきたいと思います。
参考:
人気レストランの経営に学ぶ「プレゼンテーション」で最も大事なもの|ferret [フェレット]
プレゼンテーションにおける「ビジョン」とは
皆さんは、何かしらの「ビジョン」を持っていますか?
キャリアに関するものでもいいですし、趣味や子育て、もっと人生の大きなテーマに関するものでも構いません。
「ビジョン」とは、「将来自分はこうなりたいな」「こういうことを実現したいな」という究極的な要素です。
そのビジョンを具体的に言葉にして自分自身が理解していないと、普段の言動の軸を作ることはできません。では、プレゼンにおける「ビジョン」とは具体的に何をさすのでしょうか?
私はこれを「聴いている人たちのハッピーな未来」と定義しています。
「聴いている人たちがハッピーな未来」の描き方
プレゼンは、「話しておしまい」というものではありません。素晴らしいプレゼンとは、プレゼンターが話し終わった後に、聴いた人たちが何かしらの行動に移すことです。
例えば、選挙に立候補した人の演説。候補者が話しかける相手にしてほしい行動は「自分に投票してくれること」です。
しかし、闇雲に「私に投票してください」と言い続けたとしても、得票につながるとは言えません。なぜなら、有権者はとっては、その候補者に投票する「だけ」ことが目的になることはないからです。
では、候補者は何を語ればいいのか。それは「有権者の人たちのハッピーな未来」にほかなりません。
「保育園を増やして、働くママさんを応援します」
「高校の授業料を無料にして、学びやすい環境を作ります」
「減税に向けて、無駄な投資をカットします」
様々な粒度がありますが、共通しているのは「有権者にとってのメリット」です。あくまで自分が当選することは、有権者の幸せな未来への手段でしかない、というトーンで演説をするのが基本中の基本です。
その候補者が描く未来像が、自分が望む未来像と一致するからこそ、有権者は投票という行動を取るのです。
これは、どんなプレゼンテーションにも共通していることです。
どんなプレゼンテーションでも、あくまでも伝えなくてはならないのは「相手のハッピーな未来」です。ハッピーな未来が聴いている側と一致させられれば、プレゼンテーションは成功に大きく近づきます。
*プレゼンテーションの主体は「聴いている人たち」です。*聴いている人たちを意識しないプレゼンテーションに、成功は絶対にありえません。
そして、聴衆は「自分に関わりのある事」以外には興味を持ちませんし、ましてや行動につなげることはありません。
聴衆が「自分ごと」にできるビジョンを持つ
地球温暖化対策のために「電気を使う生活をやめよう」と思いますか?
私がプレゼンテーション講習会で「自分ごと」について話すときに「地球温暖化」を引き合いに出します。
地球温暖化は、とても大変なことであるという意識は、多くの方が持っているのではないかと思います。しかし、「電気を使う生活を一切やめよう」とまで思う人は少数派ではないかと思います。
これは地球温暖化が喫緊の「自分ごと」になる機会が少ないからです。
それを責めるわけでも問題だというわけではありません。これは至って自然な人間の振る舞いと言えます。
なので、プレゼンテーションをする際には、参加者の大多数の「自分ごと」になるようなビジョンを用意しておく必要があります。そのためには、できる限り聴衆のプロファイルを集めておくことをお勧めします。
「思い込み」は止めて相手に直接質問をする
社内や学内であれば比較的容易ですね。会議体のオーナーに問い合わせて、参加者のリストを見せてもらいましょう。そうすれば、どのあたりをプレゼンテーションのストライクゾーンに設定すべきかを知ることができます。
BtoB顧客向けのプレゼンテーションの際にも、なるべく多くの事前準備をしておく必要があります。特に営業担当者が顧客向けにプレゼンする場合、自分たちの製品やサービスの視点だけで話すのは、失敗への一本道を全力疾走している状態です。
顧客のニーズを知るのというのは、単にその企業や組織、ユーザーがどんな課題を抱えているのかだけには留まりません。プレゼンテーションを聴くことになる人たちそれぞれの立場や思考パターンも把握しておくことが、成功をどんどん近づけるアクションになります。
顧客ニーズの思い込みは危険です。「この人はこう思っているに違いない」と決めつけてしまうと、想定を外した場合のリスクが極めて大きくなります。
なので、常にプレゼンの現場においても相手のプロファイリングを行う習慣づけをしましょう。
やり方は簡単です。その場で相手に質問すればいいのです。
「今日はどんな話をお聞きになりたいですか?」
「何を持って帰れば今日参加した甲斐があったことになりますか?」
「会社が、ではなく皆さん自身がやりたいことや達成したいことは何ですか?」
このように、漠然とした「在籍している会社」や「所属している組織」を主体とするのではなく「参加している一人一人が主役」という姿勢で臨めば、聴いている人たちは「自分ごと」として聴いてくれる確率は上がります。
大人数を相手にプロファイリングする方法とは?
「そのやり方は、大人数相手のイベントでは無理なのでは?」と思った方もいるのではないでしょうか。確かに、1人ずつに質問して回るのは現実的ではありません。
しかし、別のアプローチで1人ずつ質問して回ることに近い状況を作り出すことができます。それは質問に対して「手を挙げて答えてもらう」というシンプルなものです。
「皆さんの中で、朝起きた時にパソコンではなくスマートフォンを最初に見るという方はおられますか?」
「AIの発展がなんとなく怖いと思っている方はいますか?」
「仕事の内容が営業という方は?マーケティングの方は?人事や総務などの間接業務の方は?」
こんな感じですね。
ポイントは「大多数が該当する質問をする」ということです。
一回の質問で大体カバーできるパターンでもいいですし、何度か繰り返すことでカバー範囲を広げるアプローチをしていくのも効果的です。
いずれにせよ「これから行うプレゼンテーションは全員に関係するんですよ」という状況を作り出せば、ビジョン設定の準備としては十分です。
そして、そのプロファイリングを元にして「そんな皆さんに、こんなハッピーな未来をお届けします」という話をすれば、参加者は全員何かしらの幸せのイメージを共有することができます。
ビジョンを軸に言葉を選択する 〜エンジニアの場合〜
私が先日あるイベントで設定したビジョンをお伝えします。
そのイベントの参加者はITのインフラのエンジニア、つまりサーバー機器を設定したり、ネットワークの設定をしたり、ユーザーが使うパソコンをセットアップしたりする人たちの集まりでした。
その人たちのプロファイルはある程度わかっていたので、参加者の皆さんが「全員当事者」にするために「1024という数字が、キリがいいと思う人」という質問をしました。
実は、「1024」という数字は、エンジニアにとっては馴染みのある数字です。コンピューターは二進数で処理するため、「1024ギガバイト」などよく目にする数字だからです。しかし、それ以外の人にとっては「中途半端な数字」に見えます。
つまり、エンジニアにとっての常識と一般ユーザーの理解にはかなりのギャップがあるのです。
このギャップによって、エンジニアは苦労したり絶望したり、大きな失敗が起きたりしています。
そんなエンジニアが「自分の仕事に誇りを持ち、これからやってくるAI時代でヒーローになる」というのが、私が定義したビジョンでした。
おかげさまで大変な好評をいただき、そのイベントにおける最高得点を獲得することになり、ビジョン設定の重要さを自分でも再認識できました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
皆さんもご自身のプレゼンテーションに「ビジョン」があるかどうか、じっくりと見直してみてください。
最初のうちは戸惑うこともあるとは思いますが、とにかく「聴いている人がどうやったらハッピーになるのか」を考え抜いてみてください。これは極めてポジティブな脳内作業です。やればやるほど、楽しくなるはずです。試してみてください。
次回は、プレゼンテーションの「核」についてお伝えしたいと思います。
- BtoB
- BtoBとは、Business to Businessの略で、企業間での取引のことをいいます。
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