インターネットやPC、スマートフォンなどの多様な技術の普及は、私たちの生活を大きく変えていますが、マーケティングの世界においてもそれは例外ではありません。

テクノロジーの進歩のおかげで、従来では不可能だった生活者のデータが入手できるようになっており、多くの企業が新たなプロジェクトの立ち上げや、商材・サービスの開発に活用しています。当社(インテージ)も新たな技術をマーケティングに応用するための取り組みを続けています。

今回は、その一端を株式会社インテージの長崎貴裕が紹介します。

◆Profile
長崎 貴裕(ながさき・たかひろ)

株式会社インテージ 執行役員 開発本部長
株式会社インテージホールディングス R&Dセンター長
株式会社IXT(イクスト) 代表取締役社長 

TVCM評価に“表情解析”技術を活用

表情の変化をカメラで追う「表情解析」や、脳の反応を計測する「ニューロ解析」などのセンシングデータのマーケティングへの活用が始まっています。

特に表情解析はニューロに比べ収集のコストやハードルが低く、分析結果が出るまでの時間も短いため、TVCMの評価によく用いられています。これはモニターにTVCMを見せて、顔の変化から“驚き”や“不快”といった感情の動きを探るもので、あるシーンに対して、男性は笑っている一方で女性からは笑顔がパタッと消えた、などという対照的なデータが取れることもあります。

こうした結果から、どのような感情を起こさせることがその商品に有効なのかを調べ、カット割りを変更するなどの施策が実際に行われています。

「スマートテレビ」のログデータから見える新たな視聴実態

当社では、複数のテレビメーカーから収集した、ネットに結線されたスマートテレビ57万台・録画機60万台(2018年 1月現在)のログデータからTV視聴のリサーチを行っておリます。このリサーチによって、従来では調査不可能だったTV視聴の実態がわかるようになりました。

その一つが、視聴率調査での活用が始まりつつある“県別データ”です。例えば「プロ野球日本シリーズの視聴率は何県と何県で高かった」、「このドラマの視聴率は何県で高かった」など、みなさんが通常見ている視聴率データとは全然違うようなことが県別のデータでは起きています。これからは県別にTVCMの内容を変えることが当然となるなど、視聴率データの使われ方も異なってくる事が想定できます。

さらに現在は、県別どころか郵便番号別レベルでの調査の試みも始まっています。視聴者の家族構成などの付帯情報や、性年代だけの視聴率ではなく、例えばビールを飲んでいる人がよく見ている番組がわかる「ビール視聴率」といったデータ収集も可能です。

こうしたデータによって視聴者をより深掘りすることができるようになります。

シングルソースデータとカスタマージャーニー

近年、同一個人から購買、広告接触、意識、属性などの情報を継続的に収集する、「シングルソースデータ」に注目が集まっています。もともとマーケティングリサーチのデータは、調査対象者の負担を軽減するために別々の人間から取得していました。

しかし、ログデータの活用により対象者への負担が減ったことで、こうしたデータ収集が可能となりました。

これにより、単一ユーザーのプロフィールと、購買やTV視聴、ネット行動(PC・スマートフォン)の状況を連携させた消費者パネルが実現しております。その結果、図表のように広告が到達し購買に至るまでの動線(カスタマージャーニー)を可視化することも可能になっています。

▼「〇ラーメン」購入者のカスタマージャーニー▼

スクリーンショット_2018-02-06_21.07.58.png

DMPによる効果的な広告リーチ

上記のケースは、あくまでリサーチに協力する調査パネルで構成されたものですが、これに加えて、調査パネルではないシングルソースデータが構築されつつあります。それがDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)です。

狭義のDMPはネット広告をターゲットに表示するためのデータベースですが、これを上手に応用していくことで、広告を配信する側としては、単に競合製品の購入者に向けて自社商品を宣伝するだけでなく、リサーチによって炙り出された潜在的な顧客に対して、効率的に広告をリーチさせていくことができます。

例えば、デリバリーピザの広告であれば、

「最近1カ月間ビザを注文していない会員に50%OFFのクーポン付きバナー広告を配信」 
「夕方に雨が降ったらデリバリー可能な地域のユーザーにピザの広告を配信」 
「今まで注文したことのない人には全商品30%OFFのクーポンを配信」 

このような施策も可能になります。

地道な研究活動と環境に合わせた調査手法の変化

このように、この狭い国土の中、マーケティングリサーチで収集・活用されるデータはどんどん細かくなっています。当社内にもいろいろな研究を行うグループが存在し、その中には表に出ないものも多数あります。

Webの調査画面の構成を変えるとどのように回答が変わるのか、また世の中に存在しない商品を調査画面の中にさりげなく入れたら、一体どれくらいの人が「認知している」と“誤回答”するのかを測定したこともあります。

さらに、独自にとある県の人口推計を毎年行うといったフィールドサイエンス的な研究も地道に行っています。

しかし取得したデータの信頼性についてはいろいろな議論があります。世論調査では慎重を期して、いまだに固定電話や訪問調査でデータを取っていますが、10代のデータを固定電話で収集するというのは絶望的でしょう。

そのため、携帯電話を含めた調査手法に切り替わりつつあり、さらに次回の国勢調査ではインターネット調査で回答できなかった場合にのみ訪問調査が行われるといった方法がとられます。

まとめ

調査の手法は、一時期はそれが正しくても環境が変わると機能しなくなるケースがたくさんあります。

マーケティングリサーチは自然科学ではなく社会科学なので、不変の真理を求めるのではなく、社会の変化に合わせて常に手法を変えていくべきでしょう。