デジタルは生活の中に自然と取り込まれていく

これまで、スピーカーや液晶は一様に音や光を出していました。しかし、ホログラム技術を活用することで、ある特定の空間だけで音や光を出すということができるようになりました。

ホログラム技術は、今は主にアートとして受け入れられているものの、これからは生活の中に自然と取り入れられていくと落合 氏は言います。

どこまでが“デジタル”で、どこからが“アナログ”なのか?

ホログラム技術のように、様々な技術が生活の中に取り入れられるようになると、人々は「どこまでがデジタルで、どこからがアナログなのか」区別がつかなくなってくるかもしれません。

これから生まれてくる世代は、そもそもそんなことを気にすることもないでしょう。

「生まれて10ヶ月になる僕の子どもが、iPadの画面に映ったドラムの上で手を握ったり開いたりすると、音が鳴ります。だから本物のピアノの上でも同じことをするんですけど、ピアノは鳴らない。今度は木琴をバチで叩いていたかと思えば、iPadをバチで叩き出す。でも、鳴らない。

彼の中では今壮大な自己矛盾が起こっているはずですけど、恐らくもう少しすれば解消されて、それが自然になっていくでしょう。元々コンピューターグラフィクスっていうのは、『どうやってフィジカルな世界を真似するか』がキーワードなんです。」(落合 氏)

デジタル技術によって、世界のあらゆる物は交換可能になる

上の動画は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究のひとつです。ハイスピードカメラで撮影した植物の葉のわずかな振動を計測し、その空間に流れていた音を復元しています。

光は音に影響し、音は光に影響しているという「交換性」は、この研究のように、コンピューターによって記述できるようになることが分かります。

ただ、その交換性の境界は、未だに明確にはなっていないようです。

「例えば、僕はタイムチケットで時間を売れます。僕の時間と物が交換可能かと聞かれれば、一度お金にすれば交換できる。逆に言えば、ホログラムで存在している僕と現実の僕がどう違うかというと、多分光の面では同じかもしれないけど、ひょっとしたら赤外線では見えないかもしれない。

そんな風に、どこまでは交換可能でどこまでが交換不能で、どこまでは物理的に存在していて、どこまでが物理的に存在していないかというのは、しっかり考えられてはいない。」(落合 氏)

落合 氏は、デジタル技術によって世界のあらゆる物の交換性を高めることで、人間がイルカのような存在に近づくことを目指しているのかもしれない、と言います。

「イルカは音で周囲を認識して、音で他のイルカに情報を伝えられる。だけど、我々は光で情報を認識しても、声でしか伝えられない。

僕が目で見たものを、一発で他人の目の奥にあてられたらいいのに、その機能を僕らは持っていないんですよ。ただ、映像を相手に直接出力できたり、音声のコミュニケーションを相手の耳に直接与えることができたりすれば、それは実現できるかもしれない。」(落合 氏)

テクノロジーによって、“人為的な社会”から“自然的な社会”に近づいていく

テクノロジーの進化によって、デジタル技術はより私たちにとって自然なものへと変わりつつあります。

壁に絵を描いていた時代は、その図面やフレームの中でどのようにコミュニケーションをとるかを考えていました。映像をスクリーンに投影していた時代は、どのようにデザインし、コンテンツにして消費するかを考えていました。

そして今は、テクノロジーの進化により、一人ひとりが違う音や光を感じることができたり、違うコミュニケーションをとれたりするようになっています。

「僕らが今すごく燃えているのは、この“フレームがなくなった世界で、どのように物質の構造や生物の性質といった情報を交換するか”という課題。それが解決するにしたがって、我々の社会は“人為的な社会”から“自然的な社会”に近づいていくんじゃないかと思っています。」(落合 氏)