サッカーで東北を勇気づける「感謝」と「原点回帰」

震災後しばらくは頭の整理がつかず、「まったくサッカーに向き合えなかった」と選手たちは語っていました。Jリーグ再開が4月23日と決定してからは、気持ちが整わなくても東北を離れて関東でのキャンプが続きました。「地元がこんなときにサッカーなんてやっていていいのか」「自分たちだけ安全な場所にいていいのか」など、サッカーをしていることそのものに抵抗感もあったと言います。

しかし、徐々に「自分たちにはサッカーしかない」「サッカーで東北を勇気づけることしかできない」と気づき、「サッカーができていたことが幸せだった」「毎日カーペットのようにきれいな緑色の芝生の上でサッカーできていたことは当たり前じゃない」「スタンドを埋めてくれるサポーターの皆さんの存在は大きな感謝だと気付いた」など、選手たちは辛く、深く、長い葛藤から抜け出し、当たり前への感謝とサッカーに対する原点回帰ができたのです。その当たり前への感謝とサッカーに対する原点回帰が、満身創痍のなかでの原動力になったと思います。

結果的に2011シーズンのベガルタ仙台は、開幕から12戦無敗で一時は2位まで上り詰めました。J2での戦いが長かったチームとは思えない、そして震災で被害を受けているチームとは思えないほどの大躍進でした。そして、長いシーズンの中では、人間的な成長がいかに重要かを示す事実も見つかりました。開幕12戦無敗の絶好調から、途中9戦連続で勝利から遠ざかる試練に見舞われ、順位が一気にダウンしたときのことです。

優勝を目指して戦う普通のチームなら、優勝が遠退いた時点でそのまま崩れていっても不思議はありませんが、感謝と謙虚さを身に付け、原点回帰していた選手たちは、自分の地位や名誉のためではなく「東北を勇気づける」という大義のために闘っていたため、勝利から見放されてもまったく一体感は崩れなかったのです。ただでさえ苦しい夏場を一体感とともに乗り越え、リーグ終盤は再び11戦無敗の快進撃で4位というクラブ史上最高順位でシーズンを終えたのです。

シーズン後、監督との会話の中で印象的だったのは「俺が俺が、という欲が無くなり、チームのため、東北のために闘えるようになった」「労を惜しまない姿勢が身に付いた」というコメントです。やはり人間は、個人的な地位や名誉のためではなく、大義を感じたときの方が力を発揮するのかもしれません。サッカーチームとは言え、最後は人間的な成長がチームワークを下支えしているのです。

危機的状況を乗り越えるチームの共通点

・人間的な成長(感謝や原点回帰)
・チーム優先の行動
・地域への愛着
・明確な目標(目的)

前編でお話した横浜フリューゲルスと、ベガルタ仙台には「危機的状況」を乗り越えた際の行動に共通点を見出せます。苦しいストーミング(混乱期)を乗り越える過程で、チーム全員の共通理解として上記4点が備わったということです。

これらは、必ずしもサッカーだけにとどまらずビジネスシーンでも同じことが言えます。

前回記事の横浜フリューゲルス、今回のベガルタ仙台の快進撃は、いずれも期せずして起こった辛く苦しい出来事です。

前編と重複しますが、強調しておきたいことが1つあります。大きな問題が起これば一体感ができるというわけではなく、どちらのケースも不安・絶望・葛藤というストーミングをチームで乗り越えた末の勝利だということです。

まとめ

これら2つの事例から、ビジネスにつながるたくさんの共通点が見えてきます。
「感謝」「謙虚さ」「地域愛」「原点回帰」「チーム愛」「仲間意識」「当事者意識」「チーム優先」「ストーミング越え」「大義」「目標」そしてそれらすべてを下支えする「平時からの人間的な視点、教育的な視点によるアプローチ」などです。大きな危機に直面してもバラバラにならない組織体力を構築するためには、これら2つの視点は欠かせません。

技術や専門性の教育など、成果に直結する部分に時間を割くことは当然ですが、日々「人としての成長」を追求できる企業が、変化の時代でも勝ち残っていくように感じます。

日々の業務に追われるだけでなく、それと並行しながら、公的成功に関心を持てるメンバーを増やす社員教育、良好な人間関係づくり、社員が主役になれる場の創出、地域との交流など、この職場で1日も長く働きたいと思ってもらえるような方策を打ち出していく必要性を感じます。