ユーザー体験をデザインする「UXデザイン」がWebサービス業界の1つのトレンドとして語られる機会が多くなりました。

ユーザーの声がプロダクトに反映されるのが当然の時代において、UXを考慮したデザインは不可欠です。制作物を納品して終わりではなく、ユーザーやクライアントに歩み寄ってプロダクトに関わることが大切です。

しかし、その概念は理解できても、どうやって実務に落とし込むべきか悩んでいる担当者もいるはずです。

2018年6月、アドビ システムズ 株式会社が主催した「UX道場 Meetup 00:UXデザインが高めるデザイナーの価値とワークフロー」のパネルディスカッションから、デザイナーがUXデザインをワークフローに落とし込むヒントを探ってみましょう。

参考:
UX 道場(UI / Web デザイン) – Adobe Creative Station

登壇者プロフィール

長谷川恭久(デザイナー・コンサルタント)

Web/アプリに特化したデザイナー・コンサルタントとして活動中。組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためにできることを模索している。

アメリカの大学にてビジュアルコミュニケーションを専攻後、マルチメディア関連の制作会社に在籍。帰国後、数々の制作会社や企業とコラボレーションを続け、現在はフリーで活動。 自身のブログとポッドキャストではWebとデザインをキーワードに情報発信をしているだけでなく、各地でWebに関するさまざまなトピックで全国各地で講演を行ったり、多数の雑誌で執筆に携わる。 著書に『Experience Points』など。

引用:Adobe UX道場 スライドより引用

伊原力也(freee株式会社 プロダクト戦略 IA/UX)

アクセシブルなインタラクションデザインの実践を標榜標榜し、Webサービスやスマートフォンアプリの設計業務に従事。ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)理解と普及作業部会委員、HCD-Net認定 人間中心設計専門家および評議委員としても活動。

共著書に『デザイニングWebアクセシビリティ』、監訳書書に『インクルーシブHTMLCSS&JavaScript』『コーディングWebアクセシビリティ』がある。クリエイティブユニットmokuva所属。

引用:Adobe UX道場 スライドより引用

轟啓介(モデレーター)

アドビ システムズ 株式会社 / 1999年、早稲田大学理工学部を卒業後、大手印刷会社に勤務。主にEC分野でJ2EE開発に携わるが、Flexとの衝撃的な出会いを機にRIAの世界へ。 2008年4月、アドビシステムズ入社。 Web製品のマーケテイング担当。

引用:轟 啓介 | Adobe

「UXデザイン」はデザイナーの価値とワークフローをどう改善する?

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(左から)長谷川恭久 氏、伊原力也 氏

轟 氏:
近年「UXデザイン」という言葉が注目されています。これがなんでも解決できる「魔法の杖」なのかっていうと、決してそうではありません。概念を勉強しても実践で使えないといった話を聞くことがあります。

本日は、UXデザインにおけるデザイナーの価値やワークフローを改善することはできるのか、というテーマを展開していきます。

まずはじめに、デザイナーとはどういう人を指すのでしょうか。

UXデザイン最前線の2人が語る「デザイナーの定義」

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伊原 氏:
仮説を立て、「合意形成をする人」ですね。私が担っている仕事の領域という話でもあるのですが、UXデザインのプロセスの中で、ユーザー調査とかペルソナ設計、カスタマージャーニーマップを作るというところから始め、最終的に合意形成までを行える人という感じがありますね。

長谷川 氏:
私の場合、「ぼんやりしているものを視覚化する人」だと思っているんですよね。視覚化というのは、どの工程にもあると思うんですよ。要件定義から納品するまで様々な領域で、ぼんやりしたものを視覚化し、言語化する。それができるのがデザイナーです。

絵にしてわかることってあるじゃないですか。制作よりも前、そもそもの段階で何かしら絵があった方が納得できることもありますよね。そういう仕事がデザインじゃないかなって思います。

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轟 氏:
なるほど、視覚化というのはたしかに良い表現ですね。

次に、受託制作会社と事業会社に所属するデザイナーの働き方の違いについて聞いてみます。

伊原 氏:
事業会社において「デザイン」っていうのは、どうしても数値を追うための1つの手段っていう感じはやっぱりあります。事業を成長させるドライバーの1つなんだけれど、それをビジュアルに寄って形作れるのか。そのデザインがユーザーにとってどうなのかというところを最終的には追っていきたいというのがあります。

一方で、受託制作会社は頼まれ仕事がスタートです。依頼される前の段階でプロジェクトのロードマップが引かれており、整理された上で「具現化するために手伝ってほしい」というケースが多いのではないでしょうか。

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轟啓介 氏

轟 氏:
理想的には、ということですよね。とはいえ、本当に整理されてからデザイナーに依頼が来るものなのでしょうか。

伊原 氏:
確かに完全に整理はされていないかもしれません。しかし、受託制作であれば頼まれる段階で、ある程度決定してから依頼を受けますから、その「決め具合」の違いですよね。依頼する会社によってスタート地点が違うんだろうなと思います。

轟 氏:
長谷川さんはいかがでしょうか。

長谷川 氏:
デザイナーであればなにか良いものを作りたいと思っています。良いものを作ることでユーザーに価値を提供したいという思いが強いんです。

しかし、現場の担当者が高いモチベーションなのかというと、実は違ったりする場合があります。上司から言われたからやっているという人も多い。そのモチベーションの違いによって、デザイナーがどこまで入り込んで担当をしたら良いのかわからないという問題はあると思います。

もう1つ、じゃあ制作会社のモチベーションがいつも高いのかというと、そうではないケースもあるんです。例えば、制作してポートフォリオが1つ増えればそれでいいと考えることもあります。

さらに、(契約などで)特に取り決めがなければ、売上などの数字に責任がない中で制作せざるを得ないのです。このように具体的な問題が認識されていない場合に、制作会社はUXデザインという文脈で語られる「課題解決」をできるのかどうか、クエスチョンマークが浮かびます。

それに、制作する側が頑張ったところで、「課題解決」に対する対価がもらえないケースもあるわけです。だからお金に変換するのも難しいケースもあります。

「UXって何から始めるべき?」デザイナーの役割から紐解くと......

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轟 氏:
次のスライドをみてみましょう。ワークフローのサイクルです。

伊原 氏:
僕が所属しているfreee株式会社では、会計ソフトとか人事労務ソフトを作っています。その中で私が何をやっているかというと、今はプロダクトの要件を作っています。ロードマップを引いて、次の機能をどうするかとか、最低限リリースできるものとしてどういう形にしようかというところ。ユーザー調査を通して、導出するという流れです。

いま、それと併せて進めているのが、デザインシステムの作成を別のチームでやっています。デザインのパターンを作り、ガイドライン化。フロントエンドのコードも作りますという、この要件はデザインシステムによって実現されるという仕組みです。

先に出た「受託」対「事業」っていう話でもあるのですが、受託制作会社と事業会社は構造的に進め方が結構違うなと思います。これは、事業会社に入ってかなり実感しました。

長谷川 氏:
これに関しては、攻め方の1つだと思っていて。例えば、ワークフローの中にUXという項目がありますけれど、そのUXデザインのプロセスは「書籍などで定義されているUX」がきちんとなされているかというと議論の余地があります。どうすれば自分たちが求めている状態になるのか、そのやり方に近づけるのかという点において、freee株式会社さんの場合、1つの仮説の中で進めていると捉えてもいいですよね。

伊原 氏:
そうですね。僕たちの場合、ウォーターフォール(段階的に順番通り)で開発はできないため、UXのプロセスは、かなりリーン(無駄を省いて効率的な開発)にしなければならない。いわゆる「人間中心設計のプロセス」っていうのを順に踏んでいくことができないんです。でも、省いても問題ない勘所をどうみつけるのか、リリース後に仮説検証する方法でどこまで補えるのかということを日々考えています。

長谷川 氏:
UXデザインって何から始めれば良いのかわからないとか、なかなか実現できていないというのであれば、いまクライアントさんとどういう関係なのか、組織の中でデザイナーとしてどういう役割を担っているのかというところから考えないと難しくなると思いますね。

書籍とかブログとかで書かれていることって、超理想的なことじゃないですか。じゃあ、どうやってるの?と。伊原さんがスライドでワークフローを視覚化してくれているように、組織におけるデザイナーとしての自分の役割を考えてみると(何から始めるべきなのか)見えてくるかなと思いますね。