Webディレクターは日本にしか存在しない!?

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轟 氏:
この話も続けたいところなのですが、海外のデザイナーと日本のデザイナーの違いを見ていきたいと思います。アメリカのデザイナーの平均的な年収を見てみると概ね850万円〜900万円くらいです。一方で、日本のWebデザイナー白書を見てみると、300万円〜400万円程度なんです。

その他にも面白いものがありまして……実は海外にはWebディレクターという職業の人がいないんですよね。

長谷川 氏:
そうなんです。居ないんですよね。私も海外で1〜2年くらいWebデザイナーとして働いていましたが、Webディレクターはいませんでした。

轟 氏:
僕も、アドビの本社の人間に、日本にはWebディレクターという職種があることを説明するのが大変だなと感じました。アメリカでは、担当が分離されているんです。UXデザインする人、UXを調査する人、UIデザインをする人、マネジメントをする人など……。だから、今日本のWebディレクターは多能工です。

長谷川 氏:
日本のデザイナーの仕事の領域もそうですけど、課題感が結構曖昧なんですよね。例えば、WebサイトPVを上げたいとか、ざっくりと使いやすくしたいとか。「はぁ……」って感じですよね。(笑)

課題感を具体化し、チームメンバーやクライアント含めて何かしらの形で共有するというのがスタートだと思います。そうしないと何が起こるのか。それは、前提がすべてひっくり返ってしまうんですよね。工程の途中でいきなり意見を言い出す人が出てきたりするわけじゃないですか。

意見を積み上げた上で実装できればいいんですけど、責任者がいないと問題が起こる。それを、いままでWebディレクターがやっていたから問題なかったのかもしれないけれど、見えていない課題を見えるようにするという意味で、デザイナーが必要になると思うんです。

デザイナーの価値とは、収入であったり成果物だったりもあると思うんですけど、それはあくまでゴールです。じゃあ、その第一歩はなにかっていう話があまりできていない。そこに対する1つの答えが、見えていない課題を共有することです。

Webサイトアプリの難しいところは、「作り手」だけでは作れないこと。事業やマーケティング、その他ステークホルダーが存在するなかで「デザイン」というゆるふわなキーワードを基に進めようという、無茶なことをしていると思うんですよね。

プロダクトのゴールに辿りつくための1つのステップとして、デザインのプロセスや、課題の本質を視覚化し議論できる状態にすることがあります。

プロジェクトの「内容面のハブ」になるのがデザイナー

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伊原 氏:
先程の「Webディレクターが多能工」というお話からディレクターはハブのように感じますよね。実際、プロジェクトマネジメントをしているのは、Webディレクターである場合もあります。でも、プロジェクトの「内容」面で1番のハブになっているのは、むしろデザイナーだなと思うんです。

プロジェクトが結実したらこういう形になりますというのがデザインであり、デザイナーが作っているアウトプットです。ワークフローのあらゆる要件が集約され、視覚化に関わる役割と考えれば、デザイナーがハブです。そしてデザイナー自身は自分がハブになっていることを理解するのが大切です。

長谷川 氏:
確かにそうですね。そして視覚化されたものに対して、デザイナーはきちんと説明できなくちゃいけない。いわゆるプレゼンテーション能力というやつですけど、アメリカのデザインの大学ではプレゼンテーションの講義が1学期分用意されているほどです。

クライアントへのプレゼンテーション方法など、テクニックを教わるわけです。だからこそデザインの基礎体力として「説明できる」というのが海外のデザイナーにはあるんです。「価値観が共有できていない」と感じる時、それはデザインそのものではなく「プレゼンテーションが上手くできていない」ことが多いなと感じています。

轟 氏:
自分のデザインを自分の言葉で説明するっていうのは重要なスキルだと思いますが、向き不向きもありますよね。喋りたいけど、上手くできない人など。一方で、デザイナーは2次元のものを扱える。そういったときに、純粋なプレゼンテーションだけでなく、デザインにプラスアルファの言葉で伝えるというアプローチも良いのではないかと思います。

長谷川 氏
もちろんあると思っています。「説明」とか「言語化」とか、「プレゼンテーション」としてしまうと、どうしても言葉だけのことを考えてしまうことありませんか?

実はそうでもなく、ちょっと絵にして表せることも沢山あります。それが、Adobe XDのようにワイヤーフレームを簡単に引けるツールを使ったり、その場で行われている概念的な話を視覚化するというのも手段ですよね。

伊原 氏:
打ち合わせなど、その場の会話を段階的に意図を汲み取って視覚化していくっていうのは、デザイナーだからこそできるアプローチでもあるかもしれないですね。