個々の意思が反映されないチームではメンバーの責任感は生まれない
“責任感のない人”と言われて思い浮かべるのはどのようなタイプの人でしょうか?
ときどき企業の研修などでそんな質問をします。すると、「いい加減な人」「やると言ったことを投げ出す人」「約束を守らない人」「すぐに誰かのせいにする人」などという意見が出てきます。
責任感は個人レベルの問題、とお考えの方がほとんどでしょう。かく言う私も以前はそう思っていました。
しかし、チームワークを研究していくにしたがって、必ずしもそうとは言い切れないことに気づきました。たしかに、個人の意識次第で解決できる部分は大きいと思います。
例えば、生活リズムを整えて遅刻を減らすことは個人レベルで解決できそうです。ところが、いくら個人レベルで責任感を高めようと努力しても、変えられない部分もあるのです。
意外と知られてない責任感の盲点は、組織体質が影響していたのです。
自由に発言できないチームでは責任感が育たない
「全員の前で発言する機会すらない」「個人の意見は取り合ってもらえない」「常に身内からの批判や攻撃を恐れていて心理的に委縮している」など、自由に発言できないチームでは責任感が育ちません。
なぜ責任感が育たないのか、2つの事例に分けて説明します。
重要事項が一部メンバーのみで決まっている
1つ目は、重要事項が一部のメンバーだけで決定される場合です。メンバー全員を集めた会議で、決定事項・報告事項が一方通行で伝えられます。
すでに決定していることなので、議論の余地がありません。仮にメンバーが意見を言おうとするものなら「もう決まった事なので」「何も知らないくせに口を挟むな」という態度をします。そんな組織では誰も会議で口を開きません。
しかし、会議が終了し部屋のドアを開けた途端、廊下を歩きながらヒソヒソ話でメンバーたちによる本音の裏会議が始まります。「あんなプロジェクトをやるって誰が決めたんだろう?」「うまくいくわけないよな」という具合です。
“仕事ができる”リーダーがゆえ、メンバーが口をつぐむ
2つ目は、バリバリ仕事ができてしまう強烈な率先垂範型リーダーの場合です。仕事面で尊敬はされていますが、それゆえにアンタッチャブルな存在になりやすくメンバーが一様に口をつぐみます。
そういうリーダーには、「誰よりも仕事ができる」という自負があるため、自分が正しいと思い込み他のやり方を認めなかったり、全員に自分と同じ質・量を求めてしまったりする傾向があります。
結果的にメンバーが窮屈に感じ、発言しにくくなってしまうケースです。「このやり方には少し疑問があるな」と思ったとしても「誰よりも仕事のできるあのリーダーが言っているんだから間違いはないだろう」「反論はできない(しようものなら論破される…)」と思わせてしまうのです。
「やらされている感」「受け身感」が強いと責任感は育たない
上述した2つの例では、組織風土やリーダー像は違うものの、真剣な議論がないまま仕事が進んでいく点が似ています。
当然のことですが、真剣に議論がなされていない決定事項に対しては不信感や疑問点があり、心からの納得感が得られていないことが多いです。特に現場を知らないリーダーによる決定であればなおさらでしょう。納得感がない方針や計画に対しては「やらされている感」「受け身感」が強くなり、責任感など湧くはずもありません。
結果的に、「監視されているときはしっかりやる(が見ていないときは…)」という手抜き体質の組織になりますし、「上の人が言っていますので」「私は言われたことをしただけです」というように、いざというときには責任逃れをします。
つまり、自由に発言できない(自分の意思が反映されていない)チームではメンバーの責任感も育ちにくい、ということです。
責任感を高めるための好循環を生み出す
このように考えると、責任感はすべて個人レベルの問題と言い切ることはできず、チームの体質が影響しているということをご理解いただけるのではないでしょうか。
さらに付け加えると、このようなチームでは面と向かって議論することをリスクだと感じます。評価を下げられるのではないか、今後の風当たりが強くなるのではないか、と不安が先行し、保身に走り出します。保身の末路として、最悪の場合は蹴落とし合いに行きつくことさえあり得ます。
自分の正当性を示したいという思いから、仲間の失敗を見つけてはコソコソと批判し、少しでも自分が優位に立とうとするなど、チームワークとは真逆の行動を起こすメンバーも出てこないとは言い切れません。
そんな状況を打開するためには、責任感を高めるための好循環を生み出さなければなりません。まずは、チーム内に「安心感」を浸透させることです。お互いがリスペクトの関係で結ばれることです。そこから、発言の仕方や受け止め方などの意識改革をして、安心感のあるチームをつくっていくのです。
安心感のあるチームではお互いに否定から入らず、意見の多様性(食い違いや衝突)には寛容、というよりむしろ歓迎します。その結果、皆が真剣な議論に参加できます。
自分自身も議論にのめりこみ、議論を重ねてたどり着いた決定事項に対しては、納得感が高まるはずです。納得感のある方針・計画には希望や期待があり、達成したいという思いが強くなっていくと期待できます。
「議論」という言葉にアレルギーがある人の多くは、議論=勝敗という感覚があるからでしょう。本当の議論とは相手を論破し、従わせることではありません。お互いが意見を出し合い、両者納得の第3案を生み出そうすることが議論に必要なマインドなのです。そこで生み出された第3案にこそ責任感が育つのです。
議論を重ねて生み出された計画には自分の意思も反映されているため、「俺のプロジェクト」という感覚になり、「絶対に成功させたい」という思いが高まります。すると、「このプロジェクトには俺の思いが詰まっているんだから、みんなもちゃんとやってくれよ!」と気持ちになり、仲間への関心も高まります。計画どおり順調に仕事が進んでいるか、仲間の仕事ぶりまで気になってくるのです。メンバー相互にチェック機能が働くステージです。結果的にメンバー全員がお互いに関心を寄せあうチームとなり、チェック機能も向上し、妥協を許さない強いチームへと発展していくことでしょう。
自らの意思で動いた高校野球選手
2018年夏の甲子園大会の準々決勝、近江高校vs金足農業高校では、9回裏のサヨナラ2ランスクイズで金足農業高校が勝利し、一躍メディアを賑わせました。1-2であとのない金足農業はノーアウト満塁からスクイズ、そしてまさかの2塁ランナーまでがホームに生還し試合が決まりました。野球の専門家からすれば、ノーアウトという状況を考えるとリスクを負う状況ではなく、セオリーとは異なる選択だという見解です。
2018年8月19日の朝日新聞朝刊によると、スクイズを決めた斉藤選手や監督さえも2ランスクイズ(逆転)までは想定しておらず、「同点になったな」と思ったそうです。つまり、2塁ランナーの菊池選手自らの意思でホームを狙ったということです。また、この緊迫する状況で打席が回ってきて見事にバントを成功させた斉藤選手はこの大会でノーヒットでしたが、日ごろの練習の8割をバントに費やし、あらゆる状況を想定して10種類、「1発で決めなければいけないから難しいけれども、あの場面で決める自信があった」とも書かれていました。
結果論になってしまいますが、仮にトップダウン(監督の指示)で2ランスクイズを実行した場合、2塁ランナーは不安や迷いの中で走ったかもしれません。そして、もしも失敗したときは、「監督に言われたからやった」だけのことであり、悔しさは残る一方でそこに責任感はないはずです。
また、バントを成功させた選手は、自らの意思で納得いくまで日々バント練習をし続けたからこそ、失敗の許されないシーンで自信と責任感を持って打席に入れたのではないかと思います。もしも監督に怒られるのが嫌で仕方なくバント練習をしていたとしたら、あの大舞台で自信を持って打席に立つことは難しかったのではないでしょうか。
つまり、自分の意思が反映されている事については責任感が高まる、すべてが「俺たちのプロジェクト」として進行しているのだと思います。
全員が「俺のプロジェクトだ」と思える目標を
私はときどき、「全員で1つの船に乗ろう!」という表現をします。それは「ピンチになったときでも1人だけ助かろうとしない、目標に向かってチームとして最後までやり遂げよう」というメッセージです。
たとえば、共通の目標を掲げたメンバーの乗った船が、船体破損によって今にも沈没しそうになったとします。そんなとき、数の足りない救命ボートを我先に奪い合うパターンと、全員で様々な知恵を出し合って破損した部分の修復に取り組み沈没を防ぐパターンが考えられます。
前者はチームの一員としての自覚と目標達成意識が薄く、自分の保身が最優先の集団です。後者は、「目標の魅力」と「メンバーの魅力」で結びつき、目標達成意識と共同体意識が高いチームです。後者であれば結果的に全員が助かる上に、引き続き目標に向かって前進できますが、前者はボートを奪い合う過程で殴り合いをして全員がダメージを受け、そうこうしているうちに船は沈没する、という惨めな末路が待っています。
健全な議論ができないチームでは、全員が「俺のプロジェクトだ」と思えるような魅力的な目標ができません(仮に目標は一致していても、プロセス・方法が一致せずに苦労するケースもたくさんあります)。そんなチームではメンバー同士の信頼関係も生まれません。「目標の魅力」と「メンバーの魅力」、この2つが揃うことが大切です。その結果、リーダー個人ではなくチーム自体に求心力が備わるのではないでしょうか。
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