早期退職や転職のハードルが低くなり、少子化による人材不足も深刻化する今、有望な若手人材の確保・育成は企業の必須課題です。

しかし中間管理職として働く人々は、

「部下のモチベーションをアップさせたいが、どうすればいいかわからない」
「最近の若手を育成するためには、どんなマネジメントをするのが効果的なのか」

といった悩みを抱えがちです。

若手のパフォーマンスを引き上げるためには、どのようなコミュニケーションが望ましいのでしょうか。

今回は、若手のモチベーションアップにつながるコミュニケーション方法を、20~30代を対象にした「感謝と仕事に関する調査」の結果から分析し、紹介します。

参考:
上司からの日頃の感謝が若手のパフォーマンスに影響!?「感謝を言われる頻度が高い人」ほど目標達成していることが判明

若手のやる気スイッチは「感謝の言葉」と「フィードバック」

2018年にUnipos株式会社が、若手と言われる20~30代の男女ビジネスパーソン2,064名を対象に「感謝と仕事に関する調査」を実施した結果、「感謝を言われる頻度」「会社満足度」「正当な評価」「上司からのフィードバックに対する満足度」が、仕事のパフォーマンス(年間目標達成)に影響していることがわかりました。

若手のモチベーション維持の要となるのは、上司とのコミュニケーション。しかしながら、若手の心境を正しく把握できている上司はあまり多くありません。さらに、若手との年齢差が開けば開くほど、ジェネレーションギャップが生まれてマネジメントに苦戦することが増えていきます。

いわゆる中間管理職以上の役職に就き、若手含め部下を管理しているビジネスパーソンは40代以上が中心です。こうした世代はミニレアル世代(主に1980年代から2000年代初頭までに生まれた人を指す)と呼ばれる現在の20~30代と生まれ育った環境も時代背景も異なるため、持っている価値観にも大きな差があります。まずはこの差を理解するべきです。

ミレニアル世代に該当する若手世代は、物質的な豊かさがあり経済的成長が見込めない時代に生まれ育っているため、従来の世代よりも「なんのために働くのか」という社会貢献意識が強く、仕事において自身が働く意味を見出したいと考えています。

だからこそ、今の若手にとっては働く意味を実感する基盤となる「感謝を言われる頻度」「正当な評価」「上司からのフィードバックに対する満足度」が仕事のモチベーションを維持する要となり、仕事のパフォーマンスに寄与しているのです。

週1回の「ありがとう」が若手の目標達成率を上げる

「感謝と仕事に関する調査」によれば、感謝を言われる頻度が高い人の目標達成率は73.8%。感謝を言われる頻度が低い人の目標達成率55.3%と比較すると、18.5ポイント高い割合です。感謝を言われる頻度が高いほど、目標達成率が上がっていることがわかります。

実際に「感謝を言われる頻度が高い」と思っている人は、平均で約9日に1回感謝を言われています。それに対して「頻度が低い」と思っている人は平均で約28日に1回に留まっており、約3分の1の頻度。また「週1回感謝を言われる」と回答した割合は「頻度が高い」と思っている人だと75.2%ですが、「頻度が低い」と思っている人は36.8%と約半分の割合です。

つまり、週に1回感謝を言われる若手は目標達成率が高くなる傾向がある一方で、1か月に1回程度しか感謝を言われない若手は目標達成率が低く、伸び悩むリスクがあるということです。若手のモチベーションを維持して育成するためには、週1回の頻度で積極的に感謝を伝えることが望ましいと言えます。

20~30代は「上司から」褒められたい

さらに、感謝を言われる頻度は「正当な評価を受けている」という実感にもつながります。同調査にて20~30代の男女ビジネスパーソンに「自分が会社で正当な評価を受けていると感じているか」を質問した結果、正当な評価を受けていると回答したのは66.4%でした。

注目すべきは、正当な評価を受けていると感じている人の方が、そうでない人に比べて目標達成率が高いことです。また、正当な評価を受けていると感じている人は70.4%が目標達成しているのに対して、正当な評価を受けていると感じていない人は52.4%と約20%低くなっています。

そして、若手が評価されたと感じる時は「昇給・昇進」の60.2%に次いで「直接の感謝・賞賛」が56.8%と過半数を占めています。「直接の感謝・賞賛」が評価されている実感につながる割合は、35~39歳以上が51.2%なのに対して20~24歳は62.4%と約10%高く、若手ほど褒められることで「評価されている」と実感する傾向がみられるのです。

それでは、誰からの賞賛が「評価された」という実感につながるかというと、「上司から」と回答した割合が8割と圧倒的でした。昇給や昇進は企業によって決められた基準をクリアする必要があり、ハードルが高いため頻繁に行えるものではありませんが、感謝や賞賛は上司が日常的に行えるもの。上司の意識次第で部下の目標達成率を引き上げることができます。

若手の半数が上司からのフィードバックに「不満足」

調査によれば、若手が「上司からのフィードバックに満足していない」と回答した割合は57.2%と過半数に及んでいます。上司からのフィードバックに満足していないということは、若手が「正当な評価を受けていない」と感じている証でもあります。

さらに、年間の仕事上の目標達成率を分析すると、上司からのフィードバックに満足している人の目標達成率は79.5%と約8割に到達していますが、満足していない人は約2割も低い62.7%。上司のフィードバックに満足している人の方が高い目標達成率を誇っていることがわかりました。

それにもかかわらず若手の過半数が上司からのフィードバックに満足していないことは、企業にとっても大きな損失です。その分だけ、企業全体の目標達成率が下がっています。

それでは、なぜ若手の過半数が上司からのフィードバックに満足できていないのでしょうか。大きな理由は日本の文化です。日本は海外に比べて褒める文化が希薄で、“褒め下手”な傾向があります。

というのも、日本人は謙遜する文化がありアピール下手なうえに、年功序列の制度も根強く残っていて体育会系の気風があります。そのため「褒めて伸ばす」よりも「叱って伸ばす」人が多いのです。この傾向は、年齢を重ねれば重ねるほど強くなるため、部下を抱えている上司層は褒め下手な人がいまだに多くいます。

学生時代までは勉強や運動などで成績が公表される機会があり、競争の中で賞賛される経験を得やすい環境が用意されています。しかし、社会に出るとこうした競争環境に身を置く機会は一気に減り、成果を明確に数値化することも難しくなります。そのため、褒められる回数は自然と減っていきます。当然「正当な評価が得られない」と感じる人は増えるでしょう。

感謝の言葉がコミュニケーションの密度を高める

青山学院大学 経営学部教授の山本寛氏は「デジタル化により、コミュニケーションが減り、感謝も減っている」と述べます。デジタル化に伴ってメッセージをインターネット上で送り合うようになり、コミュニケーションの密度は下がりつつあります。

文面だけのコミュニケーションは無機質になりがちです。業務的なやり取りは頻繁に行っていても、わざわざチャットなどのメッセージで「ありがとう」と伝えることに抵抗を感じる上司は多く、無意識のうちに感謝を伝える頻度は減っていきました。

だからこそ、上司は意識的に若手を褒め、感謝の気持ちを伝える機会を設けるべきです。メッセージに一言「ありがとう」「よくやっているね」といった言葉を付け足すだけでも、若手のやる気がアップします。

まとめ

成長し続けている企業は、社員のエンゲージメントやモチベーションが高い傾向があります。

コミュニケーションの取り方に決まりはありません。有力な人材を育てるためにも、日常的に取り入れやすい方法で「賞賛」と「感謝」を部下に伝えてください。