Googleのアルゴリズムの精度向上によって、ユーザーの求める情報に対するアンサー度の高いWebサイトコンテンツ検索結果の上位に反映されるようになってきています。とはいえ、企業のWebマーケティングやWeb広告担当者の中には、依然としてユーザーが何を求めているのかというユーザーニーズの把握に課題を抱えている人が多いのではないでしょうか。

ユーザーニーズが顕著に現れるのが、ユーザーの検索キーワードです。では、企業は検索キーワードをどのように分析して、ユーザーニーズを的確に捉えた情報を提供していけば良いのでしょうか。

大型サイトやグローバルサイトから、立ち上げ間もないサイトまで幅広くコンサルティングを手がける株式会社電通デジタルでは、ユーザーの検索意図と検索キーワードの分析ツールである「keywordmap」 を使って、客観的なデータに基づいた課題解決策と戦略の提案を行っています。

今回は電通デジタルのSEOグループでチーフリサーチャーを務める広岡謙氏に、ユーザーの検索意図を考慮したWebマーケティングの施策をどのように実行しているのか、その手法を伺いました。

広岡謙氏プロフィール

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株式会社電通デジタル エクスペリエンス部門 オウンドメディア事業部 SEOグループチーフリサーチャー

大手ネット広告代理店において、SEO情報分析・施策立案・記事執筆などに従事し、2017年から現職。マーケティングと技術の双方から、SEO情報分析から施策立案まで幅広く担当。雑誌のウェブ版・ECサイト・ディレクトリサイトなど大手クライアントを中心にコンサルティングに携わる。Googleの評価基準「Google品質評価ガイドライン」に精通し、クライアントや電通グループ向けの勉強会講師としての顔と、解説記事執筆や和訳版発表などコンサル以外の顔を併せ持つ。Googleウェブマスターフォーラムの「トップレベルユーザープログラム」の一人。SEOに関する知識と助言の正確さが問われるプログラムにおいて、日本で10人弱が認定されているうちの一人(2019年1月時点)。

まずは自社のキーワードを広げること

ferret:
コンテンツマーケティングに注力する企業が増えてきました。ただ、ユーザーニーズを適切に把握してWebマーケティング施策を実行することに苦労している企業の担当者も多いかと思います。その点、電通デジタルではどのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

広岡氏:
電通デジタルでは「エクスペリエンス部門」の中にSEOを担当するグループが設置されています。これは企業と顧客のコミュニケーションで重要になるのが「体験の提供」であり、SEO企業と、その先にいるユーザーとのコミュニケーションの最大化、ブランド体験の創出と拡張のために運用される必要があると考えているからです。

ferret:
企業とユーザーのコミュニケーションを最大化するために、どのような点に注力されていますか?

広岡氏:
まず重視しているのが企業が提供しているサービスや商品のマニアになることです。マニアといっても、単に商品が好きというだけでは不十分です。重要なのは企業が提供している価値を把握し、その価値を拡大するお手伝いをするということです。

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例えば、クライアント企業が健康食品を販売しているとします。

健康食品を購入するユーザーは「健康になりたい」というニーズを持っていると考えられます。しかし健康になるためには、必ずしも健康食品を購入する必要はありません。

健康には、食以外にも多くの要素があります。健康から「ヘルスケア」というようにキーワードを広げていくと、関連する事業として「化粧品」が浮上します。

ferret:
化粧品ならば「肌を綺麗にしたい」というユーザーニーズが思い浮かびます。

広岡氏:
そうですね。「なぜ健康になりたいのか?」を広く捉えたとき、ユーザーの本質的なニーズが「肌を綺麗にしたい」「美しくなりたい」という点を指しているケースがあるということです。

オウンドメディアを運営している企業の中には、自分たちが感じている価値以外のポイントを見逃しているケースがあります。それでは機会損失になります。キーワードを広げていくことで、自分たちが想定していたターゲットとは異なる市場の発見に役立つでしょう。

私が重視しているのは、クライアント企業からのヒアリングをしっかりと行うこと、そしてその内容を客観的に考え直すことです。「企業が伝えたい情報と、ユーザーが求める情報は本当に合致しているのか」「そもそもユーザーは、企業が訴求している価値とは異なるメッセージやキーワードを欲しているのではないか」といった点をクライアント企業とのコミュニケーションの中で思考を深めながら、コンサルタントとして価値提供できることを一緒に考えていくというスタンスです。

客観性を担保するためにツールを利用する

広岡氏:
その場合に注意したいのは、企業からのヒアリングだけに限定してしまうと、伝えたい商品の魅力などの主観的なイメージとユーザーニーズの間にずれが生じてしまうおそれがあることです。

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こうした主観と客観のずれを示す一例が、「模型 乾燥機」というキーワード検索結果です。このキーワードで検索すると、1位はAmazonの食器乾燥機のページが出てきます。そのページは「食器乾燥機」のキーワードでは上位表示されません。つまりメーカー側は「食器を乾燥させるための機械」として販売しているのに、実際には、カスタマーレビュー上では複数の購入者から「模型を乾かすための機械」として、紹介され評価されているというわけです。

このように、サービスを提供する側と利用するユーザー側の価値観がずれていることはしばしば見られます。サービス提供側の価値観で考えると、「こういう良い機能がある」「ここを勧めたい」という訴求ポイントがあるのは当然ですが、ユーザーの検索行動からニーズを捉えると、意図していないサービスの価値や使い方で評価されているケースがあるということです。

例えば、高級感を打ち出している商品なのに、実はユーザー側には割安商品として評価されていたとします。そのような場合は、商品の割安感を訴求していったほうがユーザーが求めている情報に近づきやすいと言えます。

ただ、そうはいっても、ユーザーが本質的に求めているメッセージやキーワードをクライアント企業に提案し理解していただくことはとても大変で、調査、分析の時間もかかります。

クライアント企業は自社のサービス価値を深く理解し、日々Webサイトの改善に取り組んでいらっしゃいます。そうした方々に当社が提供できる価値は「新鮮で合理性のある、有意義な提案」や「PDCA全般の高速化」となります。それらを安定して提供するためには、個々のコンサルタントの「SEOについての知見」「顧客理解」に加え、「ツールによる支援」が欠かせません。

当社はSEOの基本的なプロセスを以下のように定義し、各自に対して独自の分析や打ち手を提供しています。
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keywordmapにはこの中でも「検索マーケティング」や「Needs Met」などの重要なポイントの改善に大きく役立ちます。

企業にヒアリングをすると、主観的なキーワードが中心になります。しかし主観で出てきたキーワードには自分たちが思いつかないキーワードを含むことができません。

keywordmapでは企業が重視するキーワードが検索の世界、すなわちユーザーニーズの中でどのように評価されているかを適切に分析できるので、それまで想像していたユーザー像やシナリオと異なるポイントを発見することが可能です。
そのため、keywordmapでユーザーの検索意図を分析し、その結果に基づいて今度は異なる角度からシナリオを再定義していくということを繰り返し行っています。

keywordmapの良い点は、客観的に事業やサービスを見ることができるだけでなく、Webマーケティング戦略に必要なデータをダウンロードし、レポートとしてそのまま活用できるので非常に助かっています。ユーザーの検索履歴や流入移動をつかみやすく、企業の価値最大化を図る施策の立案時に役立ちます。

※keywordmap
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コンテンツマーケティングSEOだけでなく、Web広告の調査・分析から競合コンテンツの分析までを可能にするツール。自社や競合サイトの上位表示キーワードの抽出や競合ドメインの調査のほか、検索ワードの背景にあるユーザーの悩みや興味などの「検索意図」を可視化できる機能が充実している

キーワードが正しいかどうかを確かめる方法

ferret:
SEOを基に立案する施策というのは、ユーザーの需要を中心に考えることが重要で、そしてその需要を表すのがキーワードということなのですね。
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広岡氏
SEOの重要性は以前よりもさらに増しています。自然検索による流入の獲得という点にとどまらず、ユーザーの本来の意図を汲み取った上でコンテンツを作成したり、ソーシャルからの流入を考慮したりしながら、施策の提案ができるようになりました。

これまでのコンテンツによく見られた「◯◯とは」というタイトルや文字数にこだわらなくても、ユーザーニーズを十分に踏まえた議論がクライアント企業とできるようになっています。

ユーザーの満足度を高めるために考えるべきなのはページの目的」です。

1つのページごとの、「ページの目的」を設計することによってユーザーのどのような課題を受け止め、どの状態に導くかを定めるかが大切です。つまり、各ページには「検索目的に合致している内容が用意されている」という入り口と、「そのページによってユーザーの目的が解決した」という出口の両方を設計することが必要なのです。

この点を全て達成できて初めて、コンテンツとして成立します。
例えばレシピサイトの場合、「ユーザーの目的」は「自分が作りたいレシピを探し、決めること」です。これは入り口がトップページでもレシピ一覧ページでも同じです。

しかし、ページごとに「ページの目的」は異なります。トップページであれば、「好きなジャンル・特集記事を選んで、選択を進めること」までが目的です。トップページでいきなり「今日作るレシピを決定する」という設計では使いにくいWebサイトになってしまいます。

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広岡氏:
Googleが公開しているWebサイトページに関する品質評価ガイドラインによると、上の図のようにGoogleは「需要」「品質」「ユーザビリティ」という3つのポイントを重視していることが明らかになっています。

つまり、ユーザーニーズに合っているか、信頼できて専門性のある高品質の内容か、ユーザーが使いやすいかという3点です。その上で、この3つのポイントが1つの目的に向かっていることが重要です。ここを意識してコンテンツを作る必要があります。

ただし、ユーザーが欲しがりそうな内容を手当たり次第に盛り込むのは良くありません。コース料理を大皿でまとめて一皿で提供されても嫌ですよね。コース料理を一皿ずつ、どのような順番でユーザーに提供していくかを考えるのが、SEOによるキーワード選びということです。

keywordmapの中のワードマップを使うとよくわかります。

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例えば「うどん」というワードで調べると、「レシピ」や「カロリー」などが関連ワードとして表示されます。これで、「うどん」というキーワードで検索するユーザーが知りたがっていること、つまり、うどんのレシピやカロリーを気にしている人が多いということがひと目で確認できます。また、すぐには想像しづらい「CM」という需要があることもわかります。

ferret:
「うどん」というキーワードで「レシピ」や「CM」というユーザーニーズが発生していることから、キーワードの背景にある需要がわかるのですね。そこから企業に様々な視点の提案ができそうです。

広岡氏:
共通言語としても使いやすいですね。企業の皆様にも説明がしやすいというのは大きな利点です。

コンテンツにキーワードを落とし込む方法

ferret:
キーワードを選定してから、コンテンツにはどのように落とし込まれていくのでしょうか?
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広岡氏:
keywordmapを使って、主軸キーワードが定義できたら、コンテンツに関連する細かいキーワードを決めていきます。ただ、1つのコンテンツの中で関連ワードをどこまで細かく拾うかという判断は難しいところです。

簡単なのは検索回数で決めていくことですが、検索ボリュームだけで見ると、ユーザーが本当に欲しいと考える情報を拾えない可能性があります。

そこで関連ワードの選択基準となるのが「企業が伝えたい情報」と、「ユーザーが必要とする情報」の違いについて考えることです。サービスが今どのような状態、種類があるかを前提に、コンテンツの構成を考えます。

例えば、ある商品のWebサイトについて考える時、特徴・価格・写真などの「企業が伝えたい情報」があります。これらの情報は検索需要も多く、単純に検索ボリュームの多いものを見れば見落としなく構成できます。

一方で、少数ですが「副作用」「悪影響」「リスク」などのネガティブなワードが出現することがあります。これらのワードはたとえ検索ボリュームが小さくても、消費者の「本当にこの商品で大丈夫か?」という真剣な需要が現れたワードです。

ユーザーが必要とする情報を重視する」という視点で考えると、「トレーサビリティ」等の情報を提供し、こうした需要に応えるべきであると判断できます。

ferret:
先ほどからおっしゃっているように、作成する側の主観的な面と、ツールを使って分析したキーワードの情報という客観的な面の両方から考える必要があるということですね。

広岡氏:
そうですね。キーワードという客観的な指標から何をコンテンツとして充実させるべきかというポイントもツールを使うことで明確になります。そのためには、ツールの機能を十分に活用することが大切です。

開示できない情報があっても予想が立てられる

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ferret:
キーワードはkeywordmapのほかに、企業から提供されたGoogleアナリティクスやサーチコンソールのデータと合わせて分析をしているのですか?

広岡氏:
これは弊社に限ったことではないと思いますが、受注前の相談の初期段階では信頼関係が構築できていないため、クライアント企業からそうしたデータはいただけないことがあります。

もちろん成約後にはいただけるのですが、keywordmapはそうした初期の相談段階でも、クライアント企業が重視するキーワード周りの状況を事前に確認できます。コンサルティングの初期段階で精度の高い提案の準備が素早くでき、作業量の大幅な削減も可能です。データ周りの調査や分析の作業量を削減できた結果、戦略を考える時間の捻出がとても楽になりました。

ferret:
keywordmapでは「ワードマップ」のほかによく利用する機能はありますか?

広岡氏:
キーワードDB」という機能をよく使います。
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私は今、製麺機が欲しいのですが、「製麺機」というキーワードを入力すると関連ワードだけでなく、直近1年での検索量の変動を一覧で確認できます。製麺機の販売店側からすると、いつ広告を打てばいいのか、記事の公開はいつが適正なのかが、この機能によって把握できます。あとは月ごとのキーワードの伸長率の比較もできるので、季節ごとの戦略を考える際の素材が大量に見つかります。これは本当に助かっていますね。

ユーザー体験を両立させるSEO

ferret:
SEOの成果を、企業と決めたKPIの目標数値に近づけるのは難しい点もあると思います。

広岡氏:
確かに以前は、リンクキーワード調整などのテクニカルな施策で成果が簡単に現れていました。しかし現在では、ユーザーの検索意図に適切に応えている満足度の高いWebサイトでなければ、Googleは評価しません。

当社のSEOは「発信者が本当に伝えるべきメッセージを正しく理解した上で、ユーザーが求める内容・量に合わせて提供する手段」だと考えています。検索エンジンを通じて、適切なタイミングでユーザーWebサイトが出会える状況を作る。そのためには「検索エンジンへのテクニカルな配慮」と「ユーザー需要の把握」の両輪を揃えることが必要です。前者は明確な根拠や技術的背景がありますが、後者は流動的でとらえがたいものです。

ユーザーの検索意図を把握した客観的なデータがなければ、企業の皆様に満足していただける戦略立案やコンテンツの制作もできません。検索結果に現れるユーザーの需要というのはSEOコンテンツ制作全体のサービス設計に欠かせないものです。keywordmapは、そうした大切だがとらえ難い「ユーザーの需要」というものについて、企業の皆様と私たち代理店が共通の認識を持つための、「通訳」として実に有能だと考えています。